第四話 冥土喫茶にて

「おーい汐緒しおたん。店長さんは今日もいないのかい?」



 文芸部の三人はブックカフェ『ふしぎのくに』へとやってきていた。そこで新作ドリンクの味見をお願いされた為、三人並んで色が段々になっているジュースを飲む。



「店長は旅行でありんす。おめかし損でありんすな。ぷぷっ」

「はぁ? てめぇおもてーでろおもてー」



 茜は珍しく髪の毛をといて普段ラフに着ている制服をキチンと着こなし、カーティガンなんかを羽織っていた。茜も女であり、見て欲しい人にはそれなりに努力はする。

 そんな中、一人会話に入れないのはミーシャ。



「店長さんってどんな方なんですか?」



 汐緒と呼ばれた店長代理は三人の書いた三題噺をぺらぺらと読みながら答える。



「悪い人……でありんす! それにしても三人の作品は随分、方向性が見えてきたかや。ミーシャ君は現ファンやキャラ文。さじ君は異世界系含むラノベ寄り。理穂子ちゃんはヒューマンドラマとか純文学寄りの作品でありんすな」



 一応読み聞かせや、今週の一冊なんかを紹介したりしているだけあり、各々の作品傾向を見出して各々にアドバイスをくれた。

 ミーシャはそう言えば何故いずみは文芸部に入れないのかという事に関してここで質問をした。



「満月先輩。どうして七季さんの入部を認めてくれないんですか? この前は先約があったから聞けなかったんですけど」


 

 汐緒が話が分からない為、猫みたいな口をして黙っているので、今まであった事を全て説明する。

 そして説明をした事でミーシャは疑問が増えた。

 七季の行動には謎が多い。内容を聞いてブックカフェの店長代理である汐緒は口を挟んだ。



「さじ君が入部を認めない理由は、そのいずみちゃんは入部したいと言ってないからじゃないかや?」



 汐緒がそう言うと満月が汐緒に指を向けてこう言った。



「汐緒たん正解!」



 単にそう言う事だったのである。確かにミーシャは守ってあげる為に勝手に文芸部に入部させるという方法を考えたが、それはいずみに頼まれた事でも彼女が望んでいる事でもない。



「じゃあ、もし七季さんが文芸部に入りたいって言ったら?」



 色の違うケミカルジュースをぐるぐるとかき混ぜて限りなく紫に近い色になったそれを飲み干すと満月は言う。



「当然許可しよう」



 それにはミーシャも笑顔を隠せなかった。それに面白くなさそうにしているのは茜。自分はお気に入りの男性に会えなかったのに後輩は色気づいて楽しそうにしている。



「ミーシャはその根暗ちゃん以外にも頭の悪そうな女子二人ともいちゃこらしてたよなぁー! ぶちょーこの部は恋愛禁止じゃないんですかー? オラいらいらっすぞ!」



 茜の言葉に対して満月はカチューシャを直してから言う。



「いいんじゃないか? リア充様がいた方が我々陰キャもリアルな描写をご高説頂き、為になるんじゃないだろうか……なぁミーシャ」



 異様にあたりが強くなる。もういい加減にしてくださいよと言いながらミーシャはいずみを誘う事が出来れば、この件は片が付くとそう思って舞い上がっていた。早くいずみに会いたいと思ってニコニコしている。



「なんかミーシャ君。チャラいでありんすな」



 本日の部活はドリンクを飲んで汐緒の感想を聞いてお開きとなる。その後は自由時間。一応満月は部長として二人に聞いた。



「これからどうする? どっかで部活継続するか?」



 図書館やファミレスで何かのコンテストに参加するのか、あるいは小説コンセプトを皆で相談しあう等、やる事はいくらでもあった。



「あたしゃー勤労学生だからバイトにいきますよー」



 そう言って茜は手を振るとバイト先へと向かう。ミーシャは茜がバイトしているなんて初めて聞いた事だった。



「茜先輩ってバイト何してるんですか?」

「好きな時だけシフトに入ってるとか言ってたけど、一体何してんだろうな? つけるか? 実は俺も知らん」



 これは実に興味深いとミーシャは思った。茜のするバイトなんて全く想像がつかない。接客なんてできるわけもないだろうから工場とかの組み立て作業。しかし、そんなに彼女は手先も器用じゃない。

 ミーシャの考えた結論はこうだった。



「つけましょう!」



 二人はきっちり100メートル程の距離を取る。

 何故か?



「ミーシャ、理穂子の認識域は動物並みだ。これ以上近づくとバレる。バレると当然俺達の命の保証はない」



 満月も茜がしでかした暴力事件については語らない為、何があったのかは詳しくは知らないが、茜を取り押さえる為に機動隊のような警察が介入したという話を聞いた。

 その張本人はスキップでもしながらバイト先に向かう。



「男か? もしかしてあの理穂子も男には骨抜きにされる? いやありえるぞ。ブックカフェの店長の前だと借りてきた猫みたいになる」



 その茜を実に見てみたいというのがミーシャの正直な気持ち、そうこうしていると茜を止める遊んでそうな男の子が三人。



「おいミーシャ止まれ。あいつの射程に入る!」

「はい!」



 二人が茜を見ていると、どうやら茜は三人の男の子にナンパをされているようだった。今日は珍しく女子高生としての見てくれは及第点。そもそも素質は悪くない為、時折ミーシャは勿体ないなとは思っていた。

 手を振って断る茜を必要に絡む男の子達。それに茜はいつも通りの対応に出た。



「おい、ミーシャ。理穂子が殴ったぞ!」

「殴りましたね」



 一人をぶん殴ると、もう一人を持ち上げて地面に叩きつける。最後の男子が恐らく怒って茜にパンチを繰り出した。それを脇を締めた茜は外に逸らして顎を撃ち抜いた。そして茜は何もなかったかのように再び歩き出す。



「茜先輩ってなんであんなに強いんですか? 家が道場とか?」

「いや、普通の家のハズだ。あいつは多分我々一般人と違ってチャクラが開いてるんだろうよ。理穂子の野性的な本能と抽象的な表現で書かれる小説はまともな人間の技じゃない」



 そう、茜は文芸部に所属して小説を書いているのである。よくよく考えると信じられない茜の行動にミーシャは聞いた。



「茜先輩の小説ってどうなんですか?」

「人によっては駄作、また人によっては天才と評される。結果俺にも分からん。但し、面白いとは思う。俺には書けないからな」



 満月の小説は面白い。それは茜も言っていた。その満月が褒めるのだ。やはり茜も凄いのかとミーシャは思う。なら自分の作品はどうだろうか? と聞きたくなった時にミーシャの思考は停止する。



「七季さん?」



 学校を休んでいたいずみがスーパーの袋を持っていた。買い物の帰りだろう。



「大熊君……」



 彼女の登場にミーシャは表情が緩む。そして満月の事を紹介した。



「七季さん。こちら、僕の入部している文芸部の部長。満月さじ先輩」

「宜しく、満月だ」



 上から下まで満月を見てから七季はぺこりとお辞儀をする。



「はじめまして! 七季いずみです。大熊君にはいつも迷惑をかけて……その」

「七季さん、買い物? 明日は学校に来れるかな? というか今からもう一人の先輩が働いてるバイト先をつけてるんだけと一緒に行かない?」

「えっと……その」



 慌てるいずみ。それを見て満月はこう言った。



「君に絡んでいたという女子二人の件について話はミーシャがつけておいた。何も畏れる事はないと思う」



 そう言うわりには満月は無表情でそう言う。それにいずみは笑って言う。



「じゃあ、少しだけ」 



 少し離れてしまったが茜はまだ前方に確認できる。その茜を追う事しばらく経つと茜は一件のお店で立ち止まった。

 茜の後をつけていた三人は店の前にたどり着くとその看板に驚愕する。



「この神保町にこんなところにあったんだな」

「僕入った事ないですよ」



 いずみは何も言わない。そして満月は「じゃあ行くか」と言ってその店の扉を開ける。

 そこは所謂『メイド喫茶』コンセプトは動物のようだ。

 物怖じせずにガチャりと扉を開いた満月。



「へーいいらっしゃいご主人様」



 見た目は愛くるしいメイドさんだけど、声は完全に男であるメイドの何ともやる気のない出迎え。



「ご主人様二名とお嬢様一名のお帰りですよー! 自分。メイド長の大友でーす」



 ここはメイドカフェではあるが、一種のマニア向けのお店だった。

 ここで茜がバイトをしているんだろうかと満月はキョロキョロ見渡し、ミーシャはずっと俯いているいずみに話しかけようとした。



「いらっしゃいませ。てめーら!」



 がしゃんと大きな音と共にお冷と水差しを置く乱暴なメイドさん。それはよくミーシャと満月のよく知る茜だった。それはそれは可愛い姿でよく似あっていた。



「理穂子、お前結構胸があるんだな……ジーザス」



 顎を撃ち抜かれた満月は気絶する。そしてその怒りの瞳はミーシャに向けられていた。



「人がたんねーから私がたまーに手伝ってやってんだよ。私の趣味じゃねーんだよ? ブックカフェ『ふしぎのくに』の店長のお願いだからな?」

「はい、肝にめいじておきます」



 このままだと確実に殺されると思っていたらいずみが口を開いた。



「大熊君。文芸部の先輩さん達といるとき楽しそうだね……」

「これが楽しそうに見えるとか、この雌ガキ頭わいてんじゃねーか?」



 茜の言葉を無視してミーシャはいずみに言った。



「ねぇ七季さん、僕等の文芸部に入らない? こんな感じだけどすっごく楽しいよ」



 茜は調子が狂うと言ってメニューを置いて厨房へと消える。今尚気絶している満月を無視してミーシャはいずみの言葉を待った。

 そしていずみはぎこちなく笑った。



「うん、考えとくね! あと、もう帰らなきゃ」



 手応えがあった事にミーシャは満足していずみに手を振る。いずみが帰った後、デスソースをたっぷりかけてある茜の愛情がこんもり篭ったオムライスを二人は出される事になる。

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