第三話 想像と違う展開

 翌日、いずみは學校に登校して来なかった。朝練の三題噺を終えて早めにホームルームに到着したミーシャはいずみの登校を待ったが、一時間目が始まった時に彼女は学校を休んでいるという事を確信した。


(七季さん、どうしたのかな? やっぱり居ずらいのかな?)


 先日、いずみは万引きを強要されていた。ミーシャの前では強がったもののやはり怖くなったのかもしれない。

 ミーシャは思い切っていずみに絡んでいた二人組の女子に休憩時間に話しかける事にした。



「あのちょっといいかな?」

「なんだよ?」

「アキ、こいつダブってるやつだろ?」



 一年遅く高校には入った事になるが留年したわけではない。それを訂正しようかと思ったが、今はそんな事よりも言わなければならない事がミーシャにはあった。



「昨日、見てたんだ」

「はぁ?」



 ミーシャの話に対して、知らぬ存ぜぬで通そうとしているのかとミーシャは思っていたがどうも話がかみ合わない。



「昨日、二人は七季さんと一緒にいましたよね?」

「おまえ、あの根暗好きなの? 趣味わりぃーな」



 なんて言葉遣いの悪い女子だろうとミーシャは思ってたら何処からともなく鼻歌が聞こえて来た。



「ふんふんふん、あるひ、ろうかで、ミーシャに、出会った♪」



 森の熊さんの替え歌を歌いながらやってきたのは茜。黄色いパーカーを制服の上に羽織、なにやら機嫌がいい。



「おっ、ミーシャが頭の悪そうなヤンキー女口説いてる」



 それに「なんだてめぇ」と言う女子を止めるもう一人の女子。何故なら、茜は既に楽しそうな顔で二人に喧嘩好きの笑みを向けていた。



「で? 何してんの? 俺っちも混ぜてくれよぅ」



 学校で知らない人のいない危険人物茜、ばつが悪くなった不良系の女子二人は「もういこうぜ」とその場を去って行く。



「ミーシャ、良かったなぁ! 私が先輩でさ。あのままだとジャンプさせられて小銭に至るまで全部持っていかれてたぜぃ」



 ミーシャは絡まれていたわけでもカツアゲ中だったわけでもない。逆に二人に話を聞こうと呼び出したのはミーシャなのだ。



「茜先輩、僕が二人を呼び出したんですよ」

「は? ミーシャはあんな頭の悪そうな女が好きなの? まぁ頭悪そうだから色々ミーシャを甘やかしてくれるかもな」

「違いますよ! クラスメイトの七季さんがあの二人と一緒にいてその後に万引きしようとしてたから、脅されたんじゃないかなって……」



 茜の表情は段々と嬉しそうなものに変わる。ミーシャは面倒くさい人に話をしてしまったなとそう思う。



「茜先輩、あの子達に迷惑かけないでくださいよ!」



 ミーシャの言葉が聞こえているのか、いないのか? 茜は少女らが去った方向にまっすぐ走りだしてしまった。七季いずみ、大人しくて小さくて守ってあげたいなとミーシャが心から思う女の子。


 紙パックのジュースを買うとミーシャは教室に戻る。我ながら味に対する固執が全くない。適当にお金を入れて適当にボタンを押した。

 そして押したジュースをくぴくぴと飲む、カルピスのパチモンみたいな乳酸菌飲料。お腹に優しくと書いているが、この程度の量のヨーグルト飲料を飲んだところでミーシャの腸内細菌は増えも減りもしないだろうなと呑気な事を考えていた。

 教室に入ると先ほど茜に話の邪魔をされた二人の姿。すぐにミーシャの元にやってくる。



「大熊おまぇ、ただじゃおかねーからな!」



 先ほどアキと呼ばれた女子が泣きそうな顔でそう言った。多分あのあと茜に何かされたんだろうと容易に想像がつく。

 そうであればミーシャに非があり、悪い事をしたと立ち上がった。



「もしかして茜先輩になんかされた? もしそうならごめん。あの人、ちょっと変なところあるから、代わりに僕が謝るよ」



 まさかの反応に二人の女子は目を丸くする。まさかミーシャがこんなに腰低く謝罪するとは思っていなかったのだ。



「ちょ、なんだよ。お前。茜ヶ埼使って私等しめるつもりじゃなかったのかよ?」



 そんなつもりは毛頭ない。しかし、彼女等の茜に対する怯え方は異常ともいえた。おかしな先輩ではあるが、そこまで怖がるような人柄でもない。



「そんな事ないって、さっきだって茜先輩が勝手に邪魔してきただけだから。僕が聞きたかった事は昨日本屋さんに入る七季さんと一緒にいた事についてなんだよ。七季さん、万引きしようとしたんだ」



 それを聞いて二人の女子は顔色一つ変えない。



麗奈れな、やっぱあいつ頭おかしいじゃん!」



 アキと呼ばれた女子に、麗奈という髪の毛を茶髪に染めた少女は少しヒステリックにわめいて見せた。そしてこの反応は少しミーシャにとっても予想外だった。



「あー、七季。私達に何でも奢るから本屋までついてきてくれって言ったんだよ。話した事もないのに気持ち悪りーなと思ったけどさ、丁度スタバの新作ラテ飲みたかったし本屋までついていったら、なんか待つように指示されたんだよ。で私等に二千円ずつ渡してもう帰っていいとか言いやがって本屋に入って行った」



 そこまでアキが話すと麗奈は続ける。



「七季、万引きでもしに行ったんじゃねーって話してたんだよ。したらアキはそんな事する根性ねーだろって近くのカフェに入って帰った。気持ち悪りーからあいつの金は手つけてねーよ。何? もしかして私等がカツアゲして万引きさせようとしたとか思ってんの?」



 どういう事だ? ミーシャは頭が混乱しそうになってきた。



「ねぇ、ちょっと待って! 七季さんが君達を誘ったの?」



 麗奈とアキが思っている通り、今の今までミーシャは二人が七季にカツアゲに万引き指示をしたとそう思っており、今尚この二人が嘘をついているのではないかとすら思っていた。



「大熊、お前私等の事疑ってんな?」



 そんな事は……やはりあるが話しているとこの二人がそんな悪い少女達というわけでもない事に気づいた。見た目や先入観のみで行動してしまった事を反省しながら、クラスメイトの新しい側面を見れて少し嬉しくもあった。



「ごめん。なんか埋め合わせするよ」



 腰を下ろして二人より目線を下げてミーシャは言った。それは王子がお姫さまをダンスに誘うように、アキと麗奈も少し小柄ではあるが灰色の瞳をした綺麗な銀髪の少年にかしずかれ見つめられるのは悪い気はしなかった。

 二人は目をそらしながら少し照れる。



「まぁ……? 今日食堂で昼飯奢ってくれたら許してやんよ」

「そうそう、それで麗奈も許してあげる」



 やたら声色が明るくなった二人に安堵してミーシャは手を振る。



「じゃあランチの時間にね……って同じクラスだから授業は一緒だけどさ」



 自然とウィンクするミーシャに二人は悪態をつくものの、今やミーシャに対して好意しかなかった。一個上でなんとなく関わりにくいと思っていたハーフの男子が話してみると紳士的で、それでいて可愛いときたらもう惚れる以外ありえない。

 移動教室ではアキと麗奈が「大熊こっち来いよ」と言うので、はじめて誰かと一緒に授業を受ける。真面目にノートを取っているミーシャに影響されてか麗奈とアキも色んなマーカーやらステッカーやらを使って可愛くノートを取っていた。



「大熊、今までのノート見せてくれよな」



 そう聞く麗奈にはにかんだ笑みをみせてミーシャはそれを快く了承するのでアキが不満一杯の顔で言う。



「麗奈、何一人だけ優等生ぶってんだよ」



 結果として二人を更生させる結果となり、教師も少々の私語は目を瞑っていた。来る昼食時、ミーシャは二人の元へ行く。



「じゃあ食堂行こうか?」



 アキ麗奈も何故かメイクを直していた。よく見る光景なのかもしれないが、ミーシャには新鮮な光景だった。ミーシャが一番関わる女子生徒は茜。彼女は化粧っ気もなくそもそも身だしなみに気を遣わない。



「大熊、もうちょい待って」

「うん、わかったよ。ごゆっくり」



 そう言って近くの机に腰かけるとミーシャは図書室で借りた文庫本をめくる。昼食時、ミーシャのその行動は中々絵になった。



「わぁ……」



 という声が何処かから漏れるに気づいたアキと麗奈がミーシャを引っ張って学食へと向かう。食券売り場でミーシャは財布を出すと聞いた。



「何がいい?」



 二人は途端に照れ臭くなり二人ともきつねうどんを適当に選ぶ。その食券を引き換えに行くミーシャに麗奈が聞いた。



「大熊は何も食べないのか?」

「僕はこれがあるから」



 コンビニの袋を見せる。そこにはコロッケパンとメロンパン。適当に二つ選んで購入したパンとこれまた適当に選んだ紙パックのジュース。



「じゃあ私等席とってるわ」



 それにお願いと一言いうと、ミーシャは学食のおばちゃんからきつねうどんを二杯受け取る。アキと麗奈が待つ席に向かおうとくるりと回転。

 そしてそこで話しかけられた。



「両手に華とはミーシャもいい御身分だな」



 振り返るとかつ丼をつついている金髪にカチューシャをした男子生徒。そう、文芸部部長の満月さじである。



「満月先輩」

「いや、俺童貞だから、経験豊富なミーシャと話す権利ないわー。うんないわー」

「なんでここに? 部室で食べているんじゃ」



 いつも満月は部室で一人食事を食べている。ミーシャも一緒に食べる相手がいないので部室によく顔を出していたが、さじが学食で食べているなんてはじめてみたかもしれない。



「茜から、ミーシャが絡まれるかもしれないから見張れと言われたが、我々の思い過ごしだったようだな。存分に不純異性交遊を楽しむといい。あと、お前が言っていた生徒の入部は認めん」



 茜と満月はミーシャの事を心配してくれていたのだろう。茜がここに来たらややこしくなるから満月が来たが思いのほか仲良くやっていたと、しかしミーシャはそんな事より七季いずみの文学部入部を満月が認めないという言葉の方が刺さった。



「満月先輩、それは……」



 詳しく聞こうとしたが、アキと麗奈がミーシャを呼ぶのでミーシャはしかたがなく二人のところで向かう。二人の話に相槌を打ちながら時折笑う。何処にでもいる生徒のようにミーシャは振る舞った。

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