文芸部と小熊のミーシャ

一欄台学園文芸部

プロローグ

序章 学園の熊さん

 2014年秋、小舟に乗った首だけの遺体が見つかった事件が世間を騒がせていた時、その事件を一瞬にして人々の記憶から忘れさせる事件が起きた。

中学生の登山部が東北のある山で遭難する事件が起きる。


問題だったのが、合宿という体で慣行されたその登山。

 キャンプをしたり、動植物の研究レポート等を書いたりで一週間、引率の教師の下行われる為、数日合宿期間がズレる事は常、生徒の家族達も10日、本来の合宿期間が3日延びていた時点では何の疑問も感じてはいなかった。


 まさか自分の家族がそんな事になるとはと誰もが思ったと言う。

 二週間、誰一人として帰って来ない事に初めて遭難したという事実に直面した。

 一つ安堵される要因としては人数分ある一週間分の水と食料。そして皆が登山やキャンプ経験者であるという事。大々的に報道されるも、専門家も口を揃えて教師と生徒達は安全なところで助けを待っているだろうと結論付けていた。


 それは遭難した生徒の家族達を勇気づけ、カメラを向けられた際には暖かい飲み物を飲ませてあげたいと笑顔すら向けていた。

 登山部が合宿に出発して3週間、遭難が発覚してから一週間。警察は絶望的な光景を見る事になる。遭難したであろう教師と生徒達が無残に食い荒らされた様子。あまりの光景に目を背ける者もいたが、ベテランの警察は淡々と身元確認を始めた。



「登山で一番怖いのはこれだ。多分、怪我人が出たんだろう。ここを動けないところを熊に襲われた」



 季節が秋という事で腐敗の進みは遅かったが、誰が誰だか分からない程の損壊ぶりには事件の壮絶さが伺えた。

 ベテラン警察官の森脇に部下の年配警察が報告した一言。



「先輩、何度数えても一人足りません。もしかすると」



 生存者がいるかもしれない。一人でも救えるという希望とこの事件の全容解明の為、森脇はすぐに無線を入れた。


『生徒の方と思われる行方不明者がまだいる』


 警察、消防、ベトラン登山経験者。そして有志で集まった捜索隊はその言葉を最後の希望に山を捜した。

 そして翌日、空ろな瞳で空を見上げる少年、ここでは少年Aと仮定、少年Aの発見に至った。熊に襲われたと思われる現場から二キロ離れた場所、そして遭難から大よそ一、二週間にしては栄養失調と思われる兆候は見えない。


 やや体脂肪が減少している程度で、目だった外傷もなし。奇跡の生還と持てはやされた。

 生存した彼はその見た目の愛らしさから、各方面取り上げられる事になる。たった一人の生存者が銀色の髪、肌は混血故のキメと張りを持ち、まだ中学生だからか、中性的な容姿を持っていた。

 まだ精神的にも落ちついていないという理由から、彼の姉がしきりにメディアの対応をした。またその姉が外交的で非常に美しく、あれだけの事件があったのに少年Aに関して段々と触れない空気が広がっていた。

が……とある週刊誌に書かれた記載より、一転する。


『彼はどうして、血色もよく栄養失調に陥らなかったのか? 遺体に不自然な損壊痕』


 と銘打ったそれは、少年Aが教師や他同級生の死肉を食らっていたのではないか? 根も葉もない話だが、当然一部の人間はそれを信じる。

 特に、遭難でわが子を失った家族達。

 目だった嫌がらせを受けるわけではなかったが、少年A及びその家族は別の地域に引越しをする事になった。

 後にその記事がでっち上げであったという事が分かるも、人々の中には少年Aの健康状態に関して食人があったのではないか? という疑念は晴れない。

 今程ではないにせよ。SNSが台頭し始めたこの年、少年Aの名前は一部インターネットに流れることになる。


 少年Aは今17歳の高校一年生。療養の為、一年休学していた事で高校生になるのが遅れる。

 彼の事を知らない学校、そして生徒達。

 あるいは彼の事を知っているが、暗黙の了解として触れてはいけない事と空気を読んでいるのか、当人には分からない。


 少年A。ロシアの父と日本の母を持つ、大熊ミハイル。彼は無類の本好きとして一欄台学院付属の高校生として、頼りになるものの少しおかしい同い年の先輩二人に囲まれて文芸部に所属している。

 将来の夢は小説家。

 ネットの小説投稿サイトに投稿をしては、酷評を貰い凹む。そして感想をもらい有頂天になる。そんなただの高校生男子。


 彼の愛称はミーシャ。他の男子生徒の中では真ん中より少し前になる身長から大熊という苗字が合わないと同じ文芸部の先輩につけられたニックネーム。


『小熊のミーシャ』


 ミーシャは文芸部で本を読み、先輩達とじゃれあい、そして小説を書く。そんな満ち足りた学園生活の中、彼にいくつかの不思議な事件が舞い込んでくる。

 学校と家と、時折不思議な店主が経営する小さな古書店その往復生活、彼にとってはその箱庭のような世界だけで十分だった。

 他の人と違うミーシャ、可愛いミーシャ、賢いミーシャ。


彼はどれだけ人間の中に紛れても違う。時折見せる獣のような表情、透き通った灰色の瞳。

小熊は人の中に紛れて生きる事はできるのか?

ミーシャは今日も、皆がラフにきる制服をキチンと着こしなして、ペンキで『文芸部』と力強く書かれた教室の扉を開ける。

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