謎の小部屋と謎の書物

 小部屋には一つだけ宝箱が存在している。

 木材と鉄で作られた茶色の宝箱は、映画とかでよく見る海賊のアジトなどにある者と同じように見えた。

 なんというか、ロマン溢れる宝箱なんだけど、わかるかな?

 RPGに出てくるような派手な色の宝箱とかではない、遺跡とかで出てきてもおかしくないようなものだ。


「うわぁ、本物の宝箱だよ!? 千両箱くらいなら見たこともあるし、うちにもあるけど、宝箱は初めて!!」

 何を隠そう、ボクは宝箱が好きだ。

 小さな宝箱型の小物入れを買うくらいに好きだし、出来ればチェストの代わりにもしたいくらいだ。

 今まさに、ボクのテンションは最高潮に達しようとしていた。


「ちょっと、狐の子? 尻尾振り過ぎよ。埃が舞うでしょ? もう、いい加減にしなさい」

 大禍津がご立腹の様子だけど、感情に敏感に反応する尻尾はまだまだ止まらない。

 しばらく続けていると、不意にむんずと尻尾を掴まれた。


「わわっ、尻尾強く握らないでよ!?」

 尻尾を握られると力が出ないとか、そういうことはないけど、敏感なものでもあるのでとてもくすぐったい。


「だったら落ち着かせなさい。狭い部屋でやられると困るのよ」

 大禍津に注意され、ふと視線を落とすと、ボクの尻尾のあった場所だけきれいになっていた。

 つまり……。

 ボクは嫌な予感がしたので、おそるおそる自分の尻尾見る。

 すると、地面に接していた尻尾の部分が誇りと汚れにまみれて黒く汚くなっていたのだ。


「!? 尻尾がぁぁぁぁぁ!!」

 憐れ、ボクの尻尾は穢れてしまったのだ。


「だから言ったじゃない。埃が舞うから止めなさいって。はぁ、きれいにしてあげるから待ってなさい」

 へにょんとしているボクの耳と尻尾を見ながら、大禍津は溜息一つ吐いてそう言った。

 それでも放置しないのは大禍津の優しさなのだろう、ボクの尻尾の汚れを落とすために綺麗に拭いてくれたのだ。

 ただし、さっきも言ったけど、敏感なので非常にくすぐったいのだ。


「はぅっ。くすぐったいよ~」

「我慢なさい。変な声出したら怒るわよ?」

「ひゃいっ」

「もう!」

 襲い来るくすぐったさに頑張って耐えるボクと面倒を見る優しいお姉さん風の大禍津。

 ボクたちはダンジョンで何をやっているのだろう?


「はぁはぁ、もうボクだめぇ~……」

「こんなところで倒れないで起きなさい? でないと、尻尾を踏むわよ?」

「起きました! 起きましたから!!」

 大禍津の眼が怖かった。

 紅い綺麗な眼挑発的に細めながら、嬉しそうに口角を上げて「踏むわよ」というのだ。

 

「まったく。しかし不思議ね。獣の特徴を持つ妖種はみんなそうなのかしら?」

 大禍津は不思議なものを見るように、ボクを見ながらつぶやいている。

 ボクは宝箱の中身を確認しながら、「鳥は羽根が弱いよ? くすぐってみ?」とだけ助言しておいた。

 くすぐり地獄に落ちるといいよ、天狗たち!!


「ふぅん? そうなの。でも私、鳥はそこまで好きじゃないのよね。犬科の子の方が好きなの」

「あ、あはははは……」

 大禍津にそう言われた瞬間、背筋に寒気を感じたので、ボクは急いで話題を変えることにした。


「箱の中身って気になるよね、今すぐ開けちゃおうかな~?」

 緊張のせいか、自分の口調が早口になってしまい、言葉の最後が不自然に上がって疑問形のような形になってしまった。

 いけない、このままじゃまずい……!!


「そんなに緊張しなくてもいいじゃない。それとも、私が怖いのかしら?」

「そそそそ、そんなことないよ!? 今はほら、箱、箱の中身を確認しなくちゃいけないしさ!」

「そう。ならそういうことにしておいてあげるわ。感謝することね、狐の子」

 怖くて顔を見ることはできないけど、声のトーンから察するに楽し気な表情をしている気がする。

 少し楽しそうで、高くなるその声に、ボクは恐ろしさを感じていた。


「はぁ……。えっと、箱の中身は~っと。設計図? と、鍵と指輪?」

 箱の中から出てきたのは、刀のようなものの設計図と銀色の鍵、そして小さなサファイアを載せた銀色の指輪だった。


「その設計図はさっきの鎚と合わせれば作ることができそうね。貴女、製作の心得も少しあるでしょう?  作れないのかしら?」

 設計図を見た大禍津が、ボクにそう提案してくる。

 ボクとしても自分で作りたいのだけど、どうしても今作れない理由があった。

 鍛冶知識は持っているけど、鍛冶スキルはまだもっていないのだ。

 知識が多い理由は簡単で、興味があって調べているし、想像したりするのが好きだからだ。

 ちなみに、鍛冶スキルを学ぶには自分が作りたい武具を製作している鍛冶屋から学ぶしかない。

 ボクの場合は刀などの和風な武器のため、メルヴェイユでは学ぶことができないのだ。

 一部例外があり、武蔵国屋敷では刀鍛冶が存在している。

 一回尋ねてみたものの、門前払いを食らってしまったので、教えてくれそうな人を探していたのだ。

 ノームのエダムさんのところには、刀も存在していた。

 これ幸いにと思った矢先に、エダムさんにお断りされてしまったというわけだ。


「エダムさん、教えてくれないかなぁ……」

 ボクの夢のためにも、ぜひ教えてほしいと思っている。


「鍛冶なんて普通にやったら大変よ? まぁ貴女の現実で行うわけじゃないからそこまででもないのかもしれないけれど。ところで、本棚は調べなくていいのかしら?」

「あっ、忘れてた!!」

 まだ机とクローゼットは調べていないけど、先に本棚を調べることにした。


「う~ん……。鍛冶の歴史、精霊郷の鍛冶屋……。精霊刀工たちの研鑽の歴史、無名の書……。無名の書?」

 この部屋にある本は鍛冶系統の本がたくさん置いてあった。

 つまり、鍛冶職の人がいたことになるわけだけど、今は誰かが住んでいた気配を感じることはできないので、ずっと昔のものなのかもしれない。

 とりあえず、本は持って行こう。


「無名の書か。どれどれ?」

「ちょっと、貴女ね。少しは警戒心を持ちなさい」

 大禍津に怒られたものの、本はすでに開いてしまっていた。

 しかし、その本には何も書かれていなかった。


「あっ、ごめん……。でも、何も書いてないね」

 ボクと大禍津は一緒に無名の書という題名の本の中身を確認する。

 どのページにいっても白紙であり、何かが書かれていた痕跡すらなかった。


「これ、なんなんだろう?」

「これは、神書(しんしょ)の一つね。神々の世界で扱われている書物よ。予言書とかいうものも神書の一つね。でも、これは何の本なのかはわからないわ。とりあえず、それは持っておきなさい。今はわからなくても、いずれ何かが分かるはずよ」

 大禍津が神書と言ったその本は、分厚い本なのに不思議と重さを感じさせなかった。

 神書と呼ばれた神々の世界の本がなぜここにあるのか、ボクは不思議で仕方なかった。


「あとは机とクローゼットか」

 ボクは机を調べる。

 すると、机の引き出しから金色の鍵が出てきた。

 謎の鍵二つ目である。


「クローゼットはっと……。んん?」

 クローゼットのほとんどは空だった。

 ただ、一つの引き出しだけには服が入っていた。


「銀糸のワンピース? なにこれ」

 その服は、ワンピースタイプの服で、銀色の糸で作られていた。


「なんだか意味ありげなものね。なにかしら? この世界でいう魔術的な何かを感じるけれど」

 大禍津がそのワンピースを見ながら何やらぶつぶつ言っている。

 とりあえず、一旦インベントリに収納して、次へと行かなければいけないだろう。


「とりあえず確認は後にしよう。行こう?」

「そうね、行きましょう」

 ボクは大禍津の手を引いて、光の膜から外に出る。

 すると、さっきまで一本の道しかなかった通路だったはずなのに、降りる階段のある大きな部屋に出たのだ。

 一体どういうことだろう?


「えっ? 通路は?」

「これは、だいぶ変な仕掛けをしているわね。作為的なものを感じるわ。警戒を絶やさないで」

 驚くボクと警戒を強める大禍津。

 この階段を降りた先には、なにがあるのだろうか。


「行くわよ、狐の子。この先に何があっても驚かないようにするのよ」

「わ、わかってるよ。大禍津こそ、びっくりしないでよね?」

 ボクたちはお互いに軽口を叩きながら、階段を降りていくのだった。



*************

※お知らせ

 現在読みづらい一章の改稿作業を行っています。

 何か要望などあれば反映することもあるので、気軽にコメントしてみてください。

 読みづらく、楽しめない作品から可愛く読みやすく、そして楽しめる作品へと作り替えていきます。

 ご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします。

 最新話更新後、こちらは削除いたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る