決戦! マルセ村

 ボクたちは急いで走る。

 あの村の守りはどう見ても弱い。

 まごついていたらあっという間に村が滅ぶだろう。

 だからボクたちはひたすらに走った。


「報告します! 現在、村入り口前にゴブリンアーミー召喚術師が到着、閉ざされた村の門を攻撃し始めています! 村の門の耐久力はほとんどないため突破されるのは時間の問題と思われます! 本体到着まで観測隊での足止めを敢行します!」


 観測隊の人が連合システムで状況報告を行う。

 すでに村の門が攻撃されているということだけど、なぜ一思いにやらないのだろう?

 ボクは走りながらそんな不謹慎なことを考えてしまう。

 急がなければ村は全滅する……。

 この世界の村は崩壊したからといって自動で復活などしないのだ。


「先行、烏天狗隊進め!!」


 ネモさんの号令で足止めのために烏天狗たちが飛び立つ。

 それはボクの友達とて例外ではなかった。


「スピカ、行ってくるよ!」


「スピカ、向こうで待ってるから」


「ちょっ!?」


 エレクトラとケラエノはボクにそう声を掛けると、ボクの返事など聞かずに飛び立ってしまう。

 少しはボクにだって声を掛けさせてほしい!


「気持ちはわかるが、急がないと被害が大きくなる。一番速いのは馬か飛べる種族だ。エレクトラたちも分かってるはずだ」


「で、でも……!」


 ゲーム内とはいえ、危険な場所に飛び込ませなければいけないと思うと胸が苦しくなる。

 みんなを助けるためにも、ボクたちは急がなければいけなかった。



********************



 さらに走ること十分。

 ようやく村が見え始めてきた。

 ゴブリンアーミーの野営地は三か所に存在しており、それぞれが同じくらいの距離にあったらしい。

 第二ポイントから走り始めて十五分ほどで村に到着できるわけだが、この十五分はあまりにも長かった。

 見え始めてきた村は火の手が上がり、村の門が破壊されてしまっている状態だった。

 その村の門の前では取り巻きと戦うプレイヤーたちと現地冒険者たちの姿があった。


「現地冒険者たちは負傷者を運んで後方へ下がれ! お前らは死んだら復活しないんだ! 無理に前に出ようとしなくていい!!」


「ふざけるな! 俺たちの世界の村を俺たちが守れなくてどうする! お前らこそ死んでも復活するからって、わざわざ死にに行くのかよ!?」


「お前たちよりは安全だからだ! 分かったら下がれ!!」


「てめぇ!!『いいから下がって! あなただって負傷してるのよ!?』」


 プレイヤーに掴みかかっていた現地冒険者の男性は同じく現地冒険者の数人の女性に引きずられ村の奥へと連れていかれる。


「放せえ!!」


「あたしらの力にも抵抗できない癖に意地張ってるんじゃないよ!!」


 じたばたしながら叫ぶ男性はそのまま奥の方へと消えていく。

 それを見ていたプレイヤーの戦士職の男性はゴブリンアーミーたちに向き直り、両手剣を構えた。


「愚かな人間共よ、大人しく逃げればいいものを。いくら復活するからといっても、復活できる場所を破壊しつくせばどうにもなるまい? いけぇ! 下僕たちよ!!」


 一際大きい黒いオーラを放つゴブリンアーミー召喚術師は部下のゴブリンアーミーたちに指示を出す。

 ゴブリンアーミーたちは奇声を上げながらプレイヤーたちに襲い掛かっていた。


「ゲギャギャ」


「ゲギャー!!」


 うれしそうに飛び掛かっていくゴブリンアーミーたち。

 だがそんなゴブリンアーミーたちのうれしそうな表情はいつまでも続かなかった。


「そこまでよ! 抜刀隊、槍隊、剣士隊降下! 術師は援護を!!」


「ギャァァァァァ」


 戦場に辿りついた烏天狗たちは、すぐさま指示を出し攻撃を開始する。

 戦闘で指示をだし、我先にとツッコんでいったのは燃えるような赤い髪をポニーテールにした女性の烏天狗だった。


「烏天狗か!? 助かった!」


「油断してはだめよ。私は『クラマ』、烏天狗たちの指揮を任されているわ」


 クラマと名乗った赤い髪の女性はゴブリンアーミーたちに向き直ると、刀を向けて高らかに叫んだ。


「我等烏天狗隊がお相手するわ! どこからでもかかってらっしゃい!!」


 クラマの言葉に激高したゴブリンアーミーたちは、我先にと烏天狗たちに向かって突撃していく。

 そんなゴブリンアーミーたちを軽くいなしながら、切り刻んでいくクラマ。

 その圧倒的な刀術の前には、粗野なゴブリンアーミーたちでは手も足も出なかった。

 

「うおおおりゃああああ!!」


 烏天狗たちとは別に、観測隊の戦士職の男性は、渾身の一撃で数体のゴブリンアーミーたちを叩き切る。

 しかし、際限なく湧いてくるゴブリンアーミーたちはあとからあとから押し寄せてくる。


「さすがに数が多いわね。本隊が来なければジリ貧になりそうだわ」


「さすがにこれは……。本隊は見えてるってのにあの距離がもどかしい!!」


 村前の戦場と本隊との距離はまだまだ開きがあり、どうやっても攻撃が通る位置ではなかった。

 弓だけで攻撃したところで意味はなさないだろう。


「ぐふふふふふ。さすが異世界の冒険者というところか。この世界の冒険者などよりよほど強いではないか。どうだ? ゴディアス将軍に仕える気はないか?」


「けっ、コケモスだかバルガスだか知らないけどごめんこうむるね!!」


「そうやって勧誘する奴ほど負けるってね!」


「ぐふふふふふ。威勢のいいやつよ。面白い。ゴディアス将軍より受け取った力を特別に見せてやろう。『闇より生まれし雷よ! 愚か者どもを焼き尽くせ!!【ダークネスライトニング】』」


 ゴブリンアーミー召喚術師は黒い物体を掲げ呪文を唱える。

 黒い物体の先端から闇色の雷が発せられ、援軍としてたどり着いた烏天狗たちを含むプレイヤーたちに降り注いでいく。


「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁ!」


 ゴブリンアーミーの雑兵などとは比べ物にならない魔術がプレイヤーたちを襲った。

 そのたった一撃によって、気が付けば全員が地面に倒れ伏していた。



「ぐふふふふふ」


「ぐぅぅ。おのれ……。こんなところで……」



********************



「ネモ! 急げ!!」


「分かってる、アークトゥルス!! まだ観測隊は生きている! デスペナなどさせるか!!」


 ボクたちがすぐそばに辿りつく寸前、目の前で全員が黒い雷によって地面に倒れていくのを目撃した。

 あの一撃はなんなんだろう?

 あの黒い光を放つ物体が原因か……。


「総員、攻撃開始! 前衛は戦闘不能者の救助に当たれ!!」


 どうにか辿り着いたボクたちに、ネモさんはすぐに指示を出す。

 手始めに後衛組が魔術の詠唱を開始、前衛たちはすぐに烏天狗たちを救助しに向かった。


「『紅蓮の槍よ、相手を穿て!!【フレアランス】』」


 攻撃できる場所に辿りつき、攻撃開始の指示が出た瞬間、アーク兄は呪文を詠唱した。

 紅蓮の炎に包まれた大きな槍がアーク兄の真上に現出すると、ゴブリンアーミーたちに向かって投擲のしぐさをした。

 そのしぐさによって、紅蓮の炎の槍は動き出し、ものすごい速さでゴブリンアーミーたちに突き刺さる。

 たった一撃だが、紅蓮の炎の槍を穿たれた場所は、大きな火柱を上げてゴブリンアーミーたちを巻き込んで焼いていく。

 それを見たゴブリンアーミーたちは思わず足を止める。

 

「ぐぬぅ、なんという一撃だ。下僕ども、やつらを皆殺しにしろ!!」


 アーク兄の放った一撃にゴブリンアーミー召喚術師は息をのむものの、すぐに気を取り直してゴブリンアーミーたちに攻撃指示を出した。

 再び大量のゴブリンアーミーとの戦闘が始まった。

 

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