二体目の討伐、そして異変

 一体目のゴブリンアーミー召喚術師を討伐したボクたちは、そのまま次のポイントへと全員で向かって走っていた。

 現地の人が見たらびっくりする光景だと思うけど、レイドにはよくある光景なので個人的に違和感はない。

 ただ、それをVRでやる意味あるのかは不明なんだけどね。


「レイドツアーがないのだけ不満だけど、敵がこうやって自意識持って攻めてくるってのは嫌いじゃないな。戦略の幅が広がるし作業にならなくて済むしな」


「でも、ダンジョンだと階層レイドツアーとかできるんでしょ?」


 フィールドにはレイドボスと呼ばれるレイドモンスターは存在するものの、討伐してしまえば復活はしない。

 ただし、縄張りがあり数の多い種の場合、新たなレイドとして君臨することがあるようだ。

 例えば竜種のような明らかに一筋縄ではいかない魔物とかね。


「そうそう。今度行こうぜ! 同じ階層に複数何度か出現するボスもいるから練習にもいいしな!」

 

 アーク兄の中ではすでに行くことは決定事項なようだ。

 何人で討伐できるのかは気になるけど、いけそうならやってみたいかな。


「お~い! こっちだ~!!」


「総員停止! 各自準備を整え次第報告!」


 リーダーのネモさんが全員に指示を飛ばす。

 ボクもいそいそと準備を始めることにしよう。


「えっと、MPは問題なし、HPは大丈夫。SPはまだ平気。アーク兄、バフっていつにするの?」


「あ~それなら指示出るからちょっとまっててくれ」


「はいな」


 ボクはとりあえず指示が出るまで待機して待つことにする。

 ふと、ボクの袖がクイクイと引っ張られていることに気が付く。


「?」


「スピカちゃん、ドロップってどうやって出てきたの?」


 袖を引っ張っていたのはコノハちゃんだった。

 どうやらドロップ報告が上がった時に疑問を感じたようだ。


「ボクもちょっと調べただけなんだけど、強敵とか知能の高い敵って、『空間収納術』っていうのが使えるらしくて、そこに溜めこまれているみたいなんだよね。倒され時、収納されていたアイテムがあふれだすらしくて、それがいわゆるボスドロップになるんだよ」


「へぇ~。インベントリみたいなものかな?」


「じゃないかな? 追加で覚えられるなら覚えたいよね! どこかに教えてくれる人いないかな~?」


「スピカ、二体目の召喚術師だけど、取り巻きのゴブリンアーミーが一体目とは構成が違うように見えるんだけど」


 ボクがコノハちゃんにそんな話をしていると、ゴブリンアーミー召喚術師の様子を見ていたエレクトラがそう言ってくる。

 ボクはこっそり様子をうかがうとその構成をじっくりと確認する。

 一体目の時は前衛のゴブリンアーミーソルジャーが多く、次にゴブリンアーミーアーチャー、少数のゴブリンアーミーマジシャンという構成だったのだが、今回見える限りではまったく違う構成になっていた。


 まず前衛がゴブリンアーミーソルジャーからゴブリンアーミーナイト、次にゴブリンアーミーウィザードとゴブリンアーミーアーチャー、そしてゴブリンアーミープリーストという構成だった。

 数はわからないけど、おそらく同じくらいだろうか。

 一体目よりも圧倒的に倒しにくそうだった。


「総員バフ開始」


 ネモさんの指示がくると、みんながそれぞれにバフをかけ始める。

 ボクたちのパーティーもエレクトラとケラエノ、マイアとボクでそれぞれに違う種類のものをかけていく。

 他のパーティーには『エンチャンター』と呼ばれる職の人がいるらしく、バフ効果がボクたちにもやってきた。

 ラッキーと思いつつも、全体効果のあるバフいいな~と羨ましく思ってしまう。


「術師隊、攻撃開始!!」


 どうやら今回は一発目にボクたち術師系統が攻撃を担当するようだ。

 こっちに敵が来ませんように……。


 あちらこちらから範囲攻撃魔術が飛び交い、ゴブリンアーミーたちを覆い尽くしていく。

 ボクは少しだけ様子を見てから攻撃に加わった。


「【五行刻印比和土行三段:大地爆砕陣】」


 土の気を重ね合わせて母なる大地のエネルギーを溜めていく。

 そしてある程度溜まったところで圧縮された土の気を解放。

 大地が大きく揺れ、ゴブリンアーミーたちを巻き込み地面が大きく陥没する。

 そして少しあと、陥没した箇所から無数の尖った岩が突出し、ゴブリンアーミーたちを串刺しにしていく。

 そして術の発動が終了すると同時に、陥没した後は消え、突き出した尖った岩も消えてしまった。

 初めて使ったけど、思ったよりも派手だったなというのがボクの感想だ。


「なんか、すごい派手だな。業火炎陣もファイアーストームみたいな感じだし、属性を三段階まで重ねると威力が跳ね上がるんだなぁ……」


「そうだねぇ。でも三段以上ってMPとかものすごく使うから、使い勝手は良くないよ? 設置範囲もある程度決まってるし。普通の魔術師さんたちのほうがよっぽど使えると思う」


 アーク兄は五行スキルに感心してくれてるけど、汎用性はないに等しいと思っている。

 それなら魔術師でいいよね? で済んでしまうくらい使い方が限定的なのだ。

 とはいえ、今回の討伐戦でも道士の人をそれなりに見ているので、ボクだけということはないようだ。

 竜巻を起こしている人や、大地から無数の木の根を生やして敵を貫いている人などもいる。

 人気職ではないものの、ロマンを求める人にはいいのかもしれない。


 ある程度攻撃し、ゴブリンアーミーたちが減り始めた頃、前衛たちが動き出した。

 最初の攻撃後、こっちにやってこようとしたゴブリンアーミーたちを重戦士たちが妨害し、神官たちがその傷を癒すという光景が続いていたが、現在はこちらの前衛たちがゴブリンアーミー側に大きく踏み込み、ゴブリンアーミーウィザードたちを攻撃し始めていた。


「遊撃隊、攻撃開始!!」


 ネモさんの合図は聞こえたものの、誰も動くものはいなかった。

 どうしたんだろう? と思っていると、かなり離れた場所からゴブリンアーミー召喚術師に捕捉されない場所までの後方にいる敵を、両脇から攻撃していることがわかった。

 どうやら事前に回り込んでいたらしく、集中していたであろうゴブリンたちが、それを見て慌てふためき、隙を晒していた。

 そこを逃すわけがないのがベテラン前衛陣。

 すかさず斬り込み、戦士系統や刀士系統の人たちがどんどん進んでいった。

 上空からは相変わらず烏天狗たちが急降下強襲し、相手の注意を引いているといった状態だ。


「術師隊は援護のみに徹し、離れた場所にて待機。それ以外の職業は新たなる取り巻きの召喚を阻止しつつ減らしつつゴブリンアーミー召喚術師の体力を削るように!」


 ボクたちからある程度離れた場所で行われているゴブリンアーミー召喚術師との攻防戦。

 ボクたちプレイヤーの攻撃は苛烈を極め、ゴブリンアーミー召喚術師はその攻撃に耐えながらも新たなる下僕を召喚するが、召喚したそばからすぐに倒されていく。

 やがて、見た目にも傷が増えていき、術を発動するものの不発といったことを繰り返し始めるゴブリンアーミー召喚術師。

 精神力も削られていき、まともな術を行使出来なくなっているようだ。


 そして――。



「おのれ、人間共!! 我を倒せるといい気になりおって!! 口惜しや。大術師様、我の最後の力を受け取り報復を! 何卒!!」


 ゴブリンアーミー召喚術師はそういうと、胸から取り出した黒い結晶体を天高く掲げた。

 黒い結晶体は一瞬光ると、深い闇を周囲にまき散らし始めた。

 そして、辺りが一時的に暗闇に覆われると、少ししてからその闇が晴れていった。

 闇が晴れた後、その場に残ったのは屍となったゴブリンアーミー召喚術師とボクたちプレイヤー、そして大量のドロップアイテムだけだった。


「いったい何だったんだ? さっきの黒い光は。一体目にはなかった現象だぞ?」


 ネモさんも連合機能をそのまま使い、唖然としたようにつぶやいている。

 ボクたちの周囲でも、さっきの異変についてひそひそ話が聞こえ始めていた。

 一体何が起きたというんだろうか。

 何かのイベントなのだろうか……?

 ボクたちが戸惑いながらも、次の準備をしていると、急報が入ってきた。


「こちら第三ポイント観測隊です。緊急事態発生! 敵ゴブリンアーミー召喚術師が第二ポイント付近から飛んできた黒い光を受け強化された模様。現在は黒いオーラを全身から発しながら、村へと移動を開始しています! 至急マルセ村へ移動してください!! 行動を阻止しようにも、ひどい圧力を感じ近づけません!!」


「総員、移動開始! 村を絶対死守するぞ!!」


 二体目が最後に放った黒い光は、最後のゴブリンアーミー召喚術師に届いたようだ。

 あの光が何なのかはわからないけど、ただ事じゃない予感がする。

 ボクたちは急いでマルセ村へと進路を取るのだった。

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