第7話 スピカとマイアの進路相談

 フェスティバル最終日、メルヴェイユ大聖堂では神官長様による挨拶が行われ、お酒が振る舞われた。

 聖堂内には食事を摂れるスペースが用意され、お菓子やお酒等を始め、様々なものが用意されていた。

 

 今回のフェスティバルの発案者は、この神官長様という話だ。

 創星教の最高神であるメルヴェイユの力によって、この世界に異世界からの冒険者がやって来た。

 常に神託を受け続けていた神官長様にとって、それはとても嬉しいことであり、彼の人生において最大の功績であると言えるだろう。

 そのことは、嬉しそうな神官長様の表情から察することが出来た。

 

「神官長様、嬉しそうな顔してるね」

 プリースト職であるマイアは、神官長様の部下から基本的なスキルと装備について学ぶことが出来る。

 ここはマイア達プリースト職の本拠地のような場所なのだ。


「そうだね。でもいいの? 挨拶しに行かないで」

 ボクにはプリーストというのがどんな職かはわからない。

 ただ、見習いであっても挨拶するにこしたことはないのではないか?

 ボクはそう思っていた。


「もう先に挨拶してきたよ? ただ、なぜか神官長様が私に頭を下げてたけど……」

「腰の低い人なのかな?」

 神官長様は初老の男性であり、物腰柔らかな人だ。

 最初の転職の時にボクに色々と教えてくれた人でもある。

 神官長といくらいだから、偉いはずなんだけどどうしてだろう?

 

「う~ん。それがどうも信託が云々って言ってたんだよね。お姉ちゃん分かる?」

 マイアは首を傾げながら、ボクにそう尋ねる。


「う~ん、ごめん。全然わからないや。そういえば、マイアは見習いからプリーストになったけど、スキル増えた?」

 今のマイアは神官見習い(プリーストみならい)から神官(プリースト)に職業が変わっていた。


「うん、回復術と身体強化術が増えたよ? 転職時に分かったんだけど、私の進化はレベル20かららしいんだ。お姉ちゃんの時とは違うみたいだね」

 プリーストというだけあって、回復や強化といった補助術が大部分を占めるようだ。

 でも、今のところマイアは前衛並にハンマーを振るっていることがほとんどだ。

 回復術はたまに使っているのは見たことがある。


「そなんだ? じゃあこれからはもっと回復出来るのかな?」

 ボク的には回復系の術がもっと使えるようになればいいなと思っている。


「うっ。そうだよねぇ。私今まで回復術の効果弱かったからなぁ。お兄ちゃんには、適度に回復しつつ戦えばいいって言われてたけどさ」

 マイアがハンマーで戦う背景には、アーク兄の助言があったようだ。

 それで殴りまくるプリーストしてたんだね。


「マイアの進化後は気になるなぁ。そういえば、20からさらに転職出来るのか」

 10レベルで一次転職、そして20レベルで二次転職となっている。

 ここから大きく分岐したり、さらに強力になっていくらしい。


 ちなみにボクの転職先は陰陽師見習いだ。

 現在の職業上の転職先がこれしかないんだから、困ったものだと思う。

 

「そういえば、王城付近の騎士団練兵所で、ユーザー主催のPVPバトルやってるらしいよ? お兄ちゃんが出るって聞いたけど」

「へぇ~、そうなんだ。ボクは聞いてなかったけど、面白そうだね。まぁボクは弱いから参加できないんだけどね」

「お姉ちゃんもそのうち戦士見習いとかに変更すればいいんだよ。そうしたら少しは強くなるかもよ?」

「そうだね。20いったら考えてみるよ」

 そうは言うものの、ボクの職業って変更できるんだろうか?

 一次転職時には、ほかの職業候補が表示されなかったんだよね。

 

 街の施設や国の施設は、一定の金額を納めることで一時利用することが出来る。

 今回行われているPVPバトルの開催場所も国の施設だ。

 利用料金は異世界人価格はあるものの、それでもなかなかにお高い。

 そういうのが大好きな人達が準備資金としてお金をコツコツと集めていたのだろうと、ボクは考えている。


「問題は、ボクが戦士見習いになったとして戦えるかだよね」

 情けない話ではあるものの、刀の扱い方はなんとなくわかる。

 でも、それ以外の武器、例えば長剣などになると、途端に扱い方が分からず振る度に転がってしまうのが現状だった。


「適性の問題なのか、それともどんくさいだけなのか……」

 何にしても、今のボクに振るえる気がしなかった。


「一応マスタリーとかは覚えられるらしいけど、補助スキルだから期待は出来ないね」

 マスタリーというのは補助スキルであり、道具などを効果的に扱うことが出来るようになるものだ。

 最初から持っていることもあれば、何度か練習して少しずつ習得していくものもある。

 こればかりはスキルとして任意で覚えられないので、『扱えるようになってきたな』と感じた時には付与されていたりするのだ。


「まぁお姉ちゃん、案外どんくさいもんね。ある程度レベルが上がったら練習してみようよ。低レベルの時に考えても無駄だと思うし。だって、しくじったらすぐやられちゃうから」

 たしかに、敵の目の前で転がっていたら、あっという間にやられてしまうだろう。

 ボクはそう考えると、少しだけ怖くなった。


「うぅ……。そうだよねぇ……。もうしばらくはこのまま適性を伸ばしていくよ。それで余裕出て来たら転職してみる」

 色々な職業を極めて強くなりたいとは思う。

 でも、器用そうに見えて、実はボクはかなり不器用なのだ。

 

「そうそう、それがいいよ。私だってすぐに剣士とかにはなれないしさ。お兄ちゃんみたいに器用だったら別だろうけど」

 ボクとマイアは聖堂内でお菓子等を摘みながら、そんなことを話していた。

 アーク兄はPVP頑張ってるかな?

 

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