第5話 アーク兄の戦術論。出来る男の戦い方。

 屋台のお店は思ったよりも大盛況だったと思う。

 特にアーク兄の料理の腕が人を呼び込んでいたような印象だった。

 おそらく、リカルドさんとアニスさんの口コミなんだと思われる。

 お客の中に、ギルド職員も含まれていたのでそんな気がしていた。


「調理法や調味料については一部地域限定の物を使っているけど、ほとんどありふれたものだな。事前に調理法や良く食される料理や素材を調べておいた甲斐があるってもんだ」

 お店の休憩時間、アーク兄は得意げにそう話す。

 どうやらただの口コミによる効果というだけではなさそうだ。


「我を通して、『うちの店はこうなんだ! 黙って食べろ!』というのもありなんだろうけど、そんな頑固なラーメン屋みたいな真似はしたくないからな。馴染みある素材や調理法、流行を調べることでお客が増えていくって寸法だ。本の需要やコンビニやスーパーの商品の需要、動画の需要とかも同じことだろ?」

 アーク兄は語る。

 調査時点から戦いが始まっているのだと。


「こういう落ち着いて食べるタイプの屋台ってのは、じっくり食べる人も多いし早く食べてしまう人も多い。となると、安心して安定して注文出来るようなものを選んで用意する必要がある。売り切りの屋台だと串焼き一本で勝負とか出来るけど、種類が少なければ席設置してても、追加注文はしてくれないからな」

 実はアーク兄はかなりの慎重派だ。

 戦う前にもある程度の調査はしているので、たとえ一騎打ちや集団戦になったとしても善戦するだろう。

 それはすでに料理を作り始めた時から養われていたのだ。


「まぁ、料理も人付き合いも戦いもそうだな。あの人は何を知っていて知らないのか、何に驚くのか、何が好きか、何が嫌いかを知っておくと有利に運ぶことが出来る。弱点属性や弱点武器を調べるのも大事だけど、それ以外の弱点を調べることも戦いにおいては大事だけどな」

 通常のMMOだと考慮されることはまずない弱点。

 例えば、刃物に強い重鎧に対して、刃物でダメージを与える場合、鎧の隙間を狙うなどの工夫が必要になる。

 そこも保護されている場合、保護を解除させる手段を準備しておくことも必要なのだ。


「まぁ、嫌われるけど、例えば虫だったりよくわからない粘性の液体とかだな。怖気が走ると戦いに集中出来なくなるし、ブーツに小石を仕込むことでまともに動けなくしたり、まぁ色々だよ。料理においては見た目もそうだし、何より匂いだな。つい寄りたくなる匂いや食べたくなる見た目、もう一皿と思わせられる味。それと小粋な飲み物や特殊な者、限定品、小粋なトーク。これらすべてが大事になる。ついでに可愛い売り子だな」

 アーク兄は、色々なことを考えながら行動しているようだ。

 それでご近所の人気者なんだね。


 そういえば、同じような人がもう一人いたなぁ……。


「ねぇ、アーク兄? もしかしてお父さんも?」

 同じような人を見たことある、そう思い考えてみると、意外と身近な人が合致した。


「あぁ、そうだよ。父さんに教えてもらったんだ。あっ、マイア、それは俺がやるからお茶でも飲んでなよ」

 食器を置き場に片付けようとしていたマイアを見て、アーク兄がそれを止める。

 すぐに立ち上がって、食器を所定の位置に戻しつつ、お茶の準備をしていく。

 実に手際が良い。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「うん?」

 近くにやって来たマイアが声を掛けてきた。


「お兄ちゃんって、執事みたいだね」

「あっ……」

 マイアが放った一言が、ボクの中にすとんと落ちる。

 そういえば、そうかも。


「お姉ちゃん、実はそう思ってた?」

 マイアが悪い顔をしながら、ボクに聞いてきた。

 絶対分かっててやってるでしょ!


「マイアが悪い子ということだけは分かってるから大丈夫だよ?」

 ボクがそう言うと、マイアがニヤニヤしながら言ってくる。


「べ・つ・に、悪い子でもいいよ? お兄ちゃんとお姉ちゃんが大好きなだけだから」

 この小学四年生は、どこでそんな仕草を覚えてくるのだろう。

 そういえば、友達と買い物に行ってたというし、グループ内で何か勉強的なことをしてるのかも。


「そうそう、お姉ちゃんの服買って来たよ? あとで着てもらうからね」

「えっ、また!? というか何でボクのサイズ知ってるのさ!」

「寝てる間に調べたからに決まってるでしょ? それと、少し胸のサイズが大きくなってるみたいだからそこもね」

 知らない間に、マイアに色々と調べられてしまっているらしい。

 というか、胸とか何の話!?


「ボクの知らない情報をなぜ……」

 実のところ、さほど大きさなど変わっていないとボクは思っていた。

 ただどうやら、締め付けるものがないからわからないだけで、わずかながら成長していたらしい。

 自分で理解できるくらいになるまでは、だいぶ先の話だろうけど。


「前々から着せ替えしたいなと思ってたから、願いが叶って嬉しいよ!」

 そう言うと、マイアはボクに抱き着いてきて頬ずりしてくる。

 うん、なぜだろう。

 まったく嬉しくない。


「お~い、いちゃついてないで野菜切るのだけ手伝ってくれ~」

 あらかた準備を終えたアーク兄が、ボク達にお手伝いを頼んできた。


「もう、しょうがないなぁ」

 ボクはちょっとだけ楽しい気持ちになりながら、お手伝いへと向かうのだった。

 マイアを横に添えてね。

 

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