第18話 メルヴェイユ南部森林ダンジョン探索2

「来たぞ! ダンジョンブラウンウルフだ! ダンジョンウルフよりも身体が大きく体力も多い。そして何より速さが足りてる!」

「てええいっ!」

「あいった~っ」

 ダンジョンブラウンウルフ襲撃直前、アーク兄がドヤ顔をしながらそんなセリフを吐いたので、ちょっといらっとして鼻を叩いてやった。

 今は反省している、後悔はしてない。


「スピカちゃんって結構アクティブだよね」

「大人しそうな見た目なのに、びっくりしたわ」

 リーンさんとカレンさんがボクの行動に驚いているけど、そんなことは関係ない。


「アーク兄のドヤ顔がイラッとしただけだよ。次やったらもう一回覚悟してよね!」

 軽くジャブをするように腕を、シュッシュッと突き出す。


「落ち着けスピカ、さっきのは冗談だ。マイアも笑い堪えてないでスピカを抑えてくれればいいのに……」

「私関係ないもん。お兄ちゃんが馬鹿なこと言ってるからお姉ちゃんがツッコんでくれたんじゃん。感謝してよね?」

「「いえ~い」」

 ボクとマイアはハイタッチして成功を祝った。


「知らぬはアークばかりなりか。ほらほら、来たよ、迎撃迎撃」

 カレンさんが真っ先にダンジョンブラウンウルフに対応していた。


「動きは素早いけど、まだなんとか。そこっ!」

 コノハちゃんの一矢がダンジョンブラウンウルフの眉間に突き刺さる。

 崩れ落ちるダンジョンブラウンウルフの背後から踏み台にするように次のダンジョンブラウンウルフが飛び出してくる。


「させないんだからね! 【ウィンドブラスト】!」

 リーンさんの放った風の魔術が飛び込んできたダンジョンブラウンウルフに直撃。

 壁際まで吹き飛び、激突して動かなくなった。

 リーンさんの放った【ウィンドブラスト】は圧縮空気塊を音速で撃ちだす風の魔術だ。

 射線は直線なため、分かれば避けることはたやすいけど、分からなければ音速で撃ちだされた空気の塊に吹き飛ばされ、骨やら内臓やらにひどいダメージを負うことになる。

 特に、顔面に当たったら首の骨が折れるレベルだったりする。


「えげつないな、それ。俺も使えるけど、こうなるから基本火か水が多いんだよなぁ」

 アーク兄の指し示す先には、吹き飛ばされたダンジョンブラウンウルフの死体がある。

 首が向いてはいけない方向に向いていることから、あの一瞬でへし折られたらしい。


「えへっ」

「リーンお姉ちゃん、可愛いけど可愛くない」

 てへぺろしてごまかすリーンさんを見て、妹のコノハちゃんが冷静にツッコんだ。


「アーク君も焼いたり沈めたり?」

「やめい! 何で極端に持って行こうとするんだよ……」

 リーンさんの言い方に、アーク兄が思わずツッコむ。

 仲良いよね、この二人。


「そういえば、妹のマイアちゃん? だっけ? どこかで見たことあるような……」

 リーンさんがマイアを見て何かを思い出そうとしている。


「お姉ちゃん、マイアは同じ小学校のクラスメイトの八坂ミナちゃんだよ」

「あぁ~!! あの美少女!」

「どんな覚え方……」

 コノハちゃんとミナは同級生らしいけど、そういえばミナの交友関係を聞いたことなかったっけ。

 そういうボクのクラスメイトもこういうゲーム好きそうな子がいたっけな。

 あの子はどうしてるだろうか……。


「どうした? 難しい顔をして」

 唐突に頭上に重みを感じて上を向く。

 アーク兄が、ボクの頭を撫で撫でしながらこっちを見ていた。


「こういうゲームが好きそうな友達がいたんだけど、やってないのかな~? って思っただけ」

 あの子は新聞部に所属している、活発な女の子だっけ。

 結構かわいい子なので、男子に密かに人気だったりする。


「そのうち見つかるだろ。それよか、学校始まったら問題しか起きないんだから、そっちも対策しておけよ?」

 アーク兄に言われて、忘れていたことを思い出した。

 う~ん……、どうしよう?

 どうしようもないよね?


「そっちはそっちでどうにかするよ。友達少なかったし、問題が起きたら相談するから」

「おう、イジメとか、雰囲気を感じたらすぐ言え。大体は言えない状況にしてから行ってくるからな」

 アーク兄はリアルでは正義感が強めで、弱いものを守るヒーローみたいな人だ。

 とはいえ、正義感が行き過ぎた暴力等にならないようにしっかり考えているので、その辺りの心配はしてない。

 舎弟みたいなのがまとわりついて困るとはよく言ってるけどね。


「全員、HPやMP、SPは大丈夫か? 一度休憩挟んでもいい。さっきから連戦だったしな」

 さっきの二頭以外にも、八頭ほどすでに倒している。

 連戦連戦なので、思ったよりもMPを使っていたようだ。


「そうね、あの泉のある辺りにしましょう。どうやら安全地帯みたいだし」

 カレンさんの指した方向には、結構大きめの泉があった。

 洞窟内の泉のうち、光り輝く泉のある場所は安全地帯となっている。

 どうやら魔物を寄せ付けない効果のある水のようなのだ。


「休憩所設置完了っと。ポーション類もあるからしっかり飲んで休んどけよ?」

「ログアウトも休憩所なら宿屋と変わらずできるから、トイレに行ったりとかしてきてね」

 アーク兄とカレンさんがみんなにそう指示を飛ばす。

 二人とも頼れるリーダーって感じがして、従ってて楽しい。

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