愛弟子

 パブリウス・マロは東の星座の天体球の上に座って、愛弟子の歩みを眺めていた。

 彼は頼もしげになりゆきを見守りながら、愛弟子の中の光をつうじて語りかけた。


 私には昔々のその昔、親友がいてね。神々の一人だったんだけど。

 ついでに言うと、私自身は神々でも古代人でもない。神々と古代人のあいだに生まれたどっちつかずの希少な珍例だよ。

 古代人には目も鼻も口もない。古代人は個体の区別を殆どしない。もともとはあったそれらを捨てて、古代人は長い時間をかけて自らを群体の生き物へと作り変えていったんだよ。古代人は効率的な進歩と発展という目的だけを追って、天を衝く知恵の塔を建てつづけていった。

 で、私の親友はね、あるとき古代人たちに、愛する妻を殺された。

 古代人たちは親友の妻の死骸を解剖して、そこに刻まれた神々の知恵を直接に解読しようとしたんだ。

 神々は怒った。そして古代人の世界を滅ぼすことに決めた。私の親友は、その先頭に立って戦神となった。彼は戦で死んだよ。死ぬとき彼は、この地上に呪いの術式を残した。二度とこの世界に、知恵だけを求める忌まわしい文明が築かれないようにと。彼は祈って、自分の血を死地の大地に染ませた。その大地に生まれて育ったのが、祈りの番人であるディウィフィリウス神王家の始祖だろうね。

 だが私は……。

 結末は不幸だったけれど、私は彼が古代人とこの世界を憎んでなどいなかった時代のことも知っているからね。私は彼の本当の願いを知りたかった。恨みではなくて願いを。

 私は彼の遺骸を解剖した。そしてそこから、憎しみに染まっていない三つの言葉をとりだした。

 その三つの言葉を私は、新しく生まれたての人類に祈りの術式とともに埋めこんだ。

 ばら撒かれた術式の歯車が、いつか、遥か未来のいつかどこかででも、人間の血肉の中で組み合わさり、彼の本当の願いを叶える人間がこの世界に育ってくれたらいいと。

 きっとそのとき、この世界に残された呪いが解かれることになるんじゃないかな、ってさ――。

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