アーレア王子のすばらしい思いつき
バカ王子の考えることはルキウスには理解できない。
この日、ルキウスを彼が帰国してから最大級の理解不能な〈お言葉〉が襲った。
「ルキウス、余は金行強盗をしに行くぞよ」
「腹を冷やした次は頭を沸騰させましたね。氷蔵の氷塊にそのご尊顔、ぶち込みに参りましょう」
「強盗に行くったら行くぞよ。ほら、昨夜に余は近衛の武器庫に侵入して見た目いちばんカッコいいやつを持ってきたの」
そう言ってアーレア王子は後ろ手に隠し持っていた火縄短銃を掲げた。
「銃……」
火縄銃は現代では旧式も旧式だが、銃は銃だ。
「弾は持っていかないけど」
「お金がないなら少しくらい貸しますよ? うちの公爵家で……」
「真顔で冗談を言うのねルキウス……」
「王室財政も左団扇と言えるほど良くはないでしょう。しかし金銭目的じゃないなら、何のために犯罪者になろうというんです」
「ルキウスは今日は余を連れてどこへ逃避行する予定なの?」
「十万年分のスケジュールを立てても一日たりとも殿下と逃避行する予定は書き込まれませんが、今日は王立博物館に行きます。〈水路塔〉がディウィフィリウス神王家に媚びを売る目的で献上した《神々の暗号鍵フィギュア5点セット純金製》が展示されているはずです。まあ、ある意味で嫌味といえば嫌味な贈り物ですが」
「やっぱりね。昨日ソルティスのところでパブちゃんせんせー捜索の話をしてたら、次にルキウスはそこに行くだろうってあの子が予想してた。でもねルキウス、それもう王立博物館にはないの……。五年前に盗まれたのよ」
「盗まれた」
「で、これはパブちゃんせんせーがゆってた話だけど、マールム金行では担保が盗品でもお金を貸してくれるっていう噂があるんだって。だから行方不明の有名な盗品はだいたいマールム金行の秘密金庫にあるんだって、これも噂。そもそもマールム金行は街の人たちのあいだで評判が悪くて、肉肉亭の旦那さんもむりやりお金借りさせられてむりやりコーリシで取り立てられて散々な目にあったんだって」
「高利子ですね。わかりました、ではさっそく強盗に行きましょう」
「話が早すぎない?!」
「どうせ裁判中に俺の寿命は尽きるので」
「寿命ってなに? おめでたいこと?!」
「いいから早く行きますよ。日が落ちると暗殺可能性が格段に高くなる」
弾の入っていない旧式銃よりも、王太子アーレア殿下の名前とまぎれもない神代の美貌のほうが、金行頭取には確実な威力を示すだろうとルキウスはタカを括っていたのである――。
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