第39話

 どうしていいかわからない時は動けない。


 佑麻も例にもれずドナが帰国する当日まで、メールも電話もできなかった。メールや電話をしても、自分が何を言ったらいいのか皆目検討がつかないのだ。勝沼へのドライブ以来、ドナからも何の連絡もなかった。

 ただ佑麻は、ドナの帰国の日には、空港へ送りに行くことだけは心に決めていた。まるで恋愛映画やドラマの安っぽいストーリーのようだが、そうしなければいけないような気になっていた。全日空949便。17時20分発。あらためて帰りの便を聞いたわけではないが、全日空で来たことは聞いていたので、大方想像がつく。

 出発2時間前のチェックインタイムに合わせて成田空港へバイクを飛ばした。


 いざ空港についてみると、心臓がバクバクいい始める。何だかこれから武道館の舞台に上がって、1万3千人の前で歌わなきゃならないみたいだ。第一ターミナル、出発ロビーに出ると全日空のカウンターを探す。はたして、ドナはノルミンダ夫婦と共にチェックインカウンターへの列に並んでいた。


 佑麻は足が止まってしまった。ドナに近づこうにも足が動かないのだ。やがてドナ達はチェックインを済ませ、出発までの残された時間を過ごすために、ショップコーナーにあるマクドナルドへ向かう。

 佑麻は遠目にドナを見つめ続けた。今日のコーディネートはいつもと違う。体の線にピッタリとしTシャツに、ジーンズ。足のマニュキアの色に合わせたカラフルなサンダル。これが祖国でのスタイルなのか。彼女は家族が待つ母国への帰郷が嬉しいのか、ノルミンダと興奮気味に話していた。


 ドナは、周りを見渡して何度佑麻を探したろうか。

 ブドウ園以来、彼からの連絡もなく今日まできてしまった。ドナもその後ノルミンダと過ごす日々が多かったので、佑麻に連絡がし辛かった。

 今日が最後の日。彼の姿を一目でも見られればと神に祈ったが、未だに彼を見つけることができないでいる。ブドウ園であんなことを言ったからもう会わないつもりなのだろうか。ドナは沈む気持ちを叔母夫婦に悟られまいと、努めて明るく振舞った。

 やがて出発の時間が来た。出発ゲートへ歩きながら、自分の心を鎮めて彼を見つけることを諦めることにした。ゲート前で叔父がペットボトルの処理をしている間、ドナは佑麻に最後のメールを打った。

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