339 ガーゴイル (3)

「ナオくん、堅実に、右の翼だけを狙ってみましょう」

「了解。『石弾ストーン・ミサイル』」

 物理は強し。

 癖がないのがありがたい。

 ということで、『石弾』でガーゴイルの翼を狙う。

 翼の大きさを考えても、単純に羽ばたいて飛んでいるのとは違うだろうが、片翼を失ったガーゴイルが飛べなくなっていたので、何らかの効果はあると思われる。

 ビシバシと羽を狙って『石弾』を放つが、警戒されているのか、当たるのは胴体のみ。

 そのたびにパラパラと破片が飛び散っているが、胴体を破壊するには至らない。

 ナツキの方もガーゴイルが降下してくる度に、羽を狙って攻撃を仕掛けるが、やはり薙刀では効果が薄いようだ。

「ところでさ、ナツキ。あれって飛んでるよな? 不自然なことに」

「えぇ、飛んでいますね。それが?」

「いや、つまり、魔法で空を飛べる可能性があるってことじゃないか?」

 鳥形の魔物やコウモリ型の魔物が飛ぶのはまだ解る。翼があるから。

 だが、ガーゴイルは解らない。

 確かに翼はあるが、明らかに重いあの体が、あの翼で浮くはずがない。

 つまり、何らかの魔法的効果があるはずで、ならば俺たちが空を飛べる可能性もゼロではないだろう。

「魔道書に空を飛ぶ魔法がなかったから、あきらめてたんだが……」

「それは判りませんが、今は斃す方に集中しませんか? あれを捕まえて解析しよう、というわけではないんでしょう?」

「おっと、そうだったな。すまん」

 ちょっと憧れていた空を飛ぶ魔法の可能性と、思ったよりも余裕のある状況に無駄話をしてしまったが、そんな状況でもなかった。

 俺の方に顔こそ向けないが、やや呆れたように聞こえるナツキの声に、俺は謝罪を口にする。

 けど、単に『空を自由に飛びたいな』とか、そういう話だけじゃなく、魔法で飛んでいるのなら、その魔法をジャミングすることで、落とすことも可能じゃないかとか、そんなことも考えていたんだぞ?

 飛べないガーゴイルなんて、たぶんゴーレム以下。

 今後、ガーゴイルが出てきたときに備えて対策を、と。

 まぁ、そんな魔法を俺は知らないので、魔道具の分野になるのかもしれないが。

 ……ん? それで魔法の阻害ができてしまうと、俺の魔法も使えなくなる?

 実際にそんな魔道具があるのかは知らないが、そういった状況も想定して、備えておくべきかもしれない。

 俺たち、戦闘以外でも光魔法にかなり頼っているし、例えば魔法使用不能エリアのあるダンジョンとかあったら、今はほとんど使い道のない【薬学】やポーション類も、俄然注目度が高くなる。

 ――などと、考えながら、ペチペチと魔法で攻撃していると、背後からトーヤが近づいてきているのを感じた。

「待たせた。大丈夫か?」

「まったく。そっちは終わったか?」

「おう。あれがラストだ」

 背後をチラリと確認すれば、トーヤが相手をしていたガーゴイルはもちろん、ハルカたちが担当していた方もすでに破壊されて、地面に転がっていた。

 彼女たちもこちらにやってこようとしているが……必要はなさそうだな。

 ボスだからか、自分以外が斃されてもガーゴイルに逃げるという選択肢はないようで、新たにナツキの横に並んだトーヤに対して降下攻撃。

 だがその攻撃を素早く避けたトーヤによって、翼を一枚破壊される。

 ……俺たちも何度か攻撃を当てていたんだが、インパクト・ハンマーだと一撃かよ。

 なんか理不尽さを感じる。

 うん、精進しよう。せめて、『石弾ストーン・ミサイル』で壊せるように。

 そして、翼を破壊され、飛ぶことができなくなったガーゴイルの末路は悲惨だった。

 ナツキと俺が適当に注意を引きつけている間に、トーヤにボコボコにされ、あっという間にただの瓦礫へと変化したのだった。


「お疲れ様。取りあえず、問題なく倒せたわね。怪我をした人は?」

「私は大丈夫です。最初からほとんど壊れてましたから」

「俺たちの方も問題ない。無理はしなかったからな」

「オレもだな。一対一なら脅威じゃねぇな、ガーゴイル。複数を相手にしたらかなり危険だとは思うけどよ」

 ハルカたちも怪我はなかったようで、俺たちの言葉を聞いて安心したようにうなずく。

「そう。作戦が上手く嵌まったと言えるのかしら」

「あぁ、最初の魔法で二体以上を倒せたからな」

 壊れかけのは、メアリがあっさりと斃せていたし。

 いうなれば、最初の『爆炎エクスプロージョン』で二・五体分は斃したような感じだろうか。

 降下攻撃も、複数でやられると危険だろうが、一体だけなら簡単に避けられる。

 攻撃が通りにくいのは難点だが、武器の相性の問題だけで、どうにもならないほどに硬くはなかった。

「ま、トーヤが簡単に斃せるのは、インパクト・ハンマーがあるからだろうし、ちょっとズルだよな」

「ある種、武器によるゴリ押しですものね。この階層で狩りを続けるなら、私たちも多少、鈍器の訓練を増やすべきでしょうね」

「もしくは、ゴーレムでも切れる武器を手に入れるかだが……難しいよな」

 現状以上の武器は、ほぼ流通していないし、自前でミスリルなどを手に入れて作ってもらうにしても、滅茶苦茶高い。

 小さな指輪二つで、俺の貯蓄の大半が消えたほどに。

 もちろんミスリル武器といっても、全部がミスリルなわけじゃなくて、他の金属と混ぜ合わせた合金なのだが、それにしても剣のような大きな物を作れば必要なミスリルの量は決して少なくないわけで。

 トーヤの使っているようなサイズの剣となると、一体いくらになることやら。

 俺の槍の穂先ぐらいなら……なんとかなるか?

「お金を貯めないとって、ことだよねぇ。あたしたち、今はちょっと金欠気味だし?」

「高い武器を買うには、な」

 普段の生活費と、武器や防具にかかるコストの桁が違うので、金があるのかないのか、表現に困る。

 良い武器を買うにはまったくお金が足りない。

 だが、慎ましやかに生活するだけなら数年、下手すれば一〇年単位で遊んで暮らせる。

 果たして俺たちは、裕福なのだろうか?

 無事に帰ってアイアン・ゴーレムの残骸を売却すれば、かなりのお金が手に入りそうではあるのだが……。

「ま、そのへんは、また考えましょ。具体的には、宝箱から見つけた石の価値が判ってから」

 うん、あの宝石の原石、その鑑定結果次第で、このエリアの探索を更に頑張るってことですね?

 解ります。

「さて、台座――というか宝玉的な物が残ってるわけだけど、これって何かしら?」

「二つだけな。四つは破損してるし」

「仕方ないだろ? この上に座ってたんだぞ? ガーゴイルだけを破壊するとか無理」

 一応、『爆炎エクスプロージョン』ではガーゴイル本体を狙ったのだが、ガーゴイルがバラバラに吹っ飛ぶような衝撃を受けて、その下にある玉が無事であるはずもない。

 傍にいるもう一体のガーゴイルすら半壊したのだ。

 玉だって、当然壊れるよな?

「別に悪いとは言ってねぇよ? ただ、持ち帰れば売れたかもな、というだけで」

「見た目は水晶玉っぽいよね。……もしかして、ガーゴイルのエネルギー源? 壊れても動いていたから、違うかな?」

「外付けバッテリーみたいな物と考えれば、ありかもしれないけど……」

「魔道具に関係しそうな物ですよね。ハルカたちは……」

 ナツキが【錬金術】を持っているハルカとユキの顔を見るが、二人は揃って首を振る。

「私の知識では何も。トーヤは?」

「あー、“水晶玉”?」

 トーヤの【鑑定】でも無理らしい。

「でも、水晶は水晶で売れそうですよね。取りあえず、持ち帰ってギルドに渡しましょう。割れているのも一緒に」

「了解。そいじゃ集めるか。手伝ってくれ」

「解ったの!」

「はい。では、私たちはあちらの物を集めてきますね」

 俺たちは二手に分かれ、砕けた水晶の破片を拾い始めた。

 といっても、粉々になったのは放置して、少しは価値がありそうな、大きめの破片だけを選んだので、そんなに時間もかからずに集め終わる。

「ラストは、無事な二つだな。よっと……重っ!」

 想像以上に重いな! 水晶って!

 多分これ、三〇キロを超えているぞ?

「大丈夫? ナオ」

「あぁ、なんとか。こっちに来て、俺も鍛えてるからな」

 鍛えているというか、来た時点で鍛えられていたというか。

 その上で毎日の訓練、魔法による身体強化などが加わっているので、重いと解っていれば三〇キロでも普通に持てる。

「あとはこれをマジックバッグに……ん? 何だこれ?」

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