200 より深く

「問題、無い?」

 2層へと降り、坂道の下で後ろを振り返って見るが、そこには何の変化も無い道があった。

 前回崩落が発生した位置を越え、更に部屋を出てみても、坂道から崩落するような音は聞こえてこない。

 どうやら今回は閉じ込められる心配は不要なようだ。

「1回限り? それとも、パーティーを判別してる?」

「そんな高機能な……って、考えるだけ無駄か」

 ファンタジーだし。


    ◇    ◇    ◇


 2層目の魔物にはピッカウが含まれるため、俺たち的には二重の意味で、ちょっと美味しい。

 まぁ、2層目の他の魔物に比べれば、多少高く魔石が売れると言うだけなので、主目的は肉になるのだが。

 ビーフっぽい肉のために少々乱獲しつつ、3層目へと続く階段の所へ。

 途中、タイラント・ピッカウが復活していたので、こちらもウマウマと頂いておいた。

 ピッカウの赤身肉の厚切りステーキも美味かったので、当然のことである。

 1ヶ月ほどで復活するなら、たまに狩りに来ても良いかもしれない。

「宝箱は……無しか」

 前回宝箱があった場所には何も無く、空になっていた宝箱も消えている。

 その横にある、地上へ転移できる魔法陣は残っているのはありがたい。

 今の俺では、ここから地上まで転移するのは難しいだけに。

「宝箱は復活しないんだな。初回討伐報酬、みたいな物か?」

「かもな。となると、ちょっと期待したくなるところだが……まだ結果は出てねぇんだよな?」

「ええ。歓迎会の時、ディオラさんは『もう少しお時間をください』って言ってたわ」

 前回見つけたペンダントは冒険者ギルドへ預けたままで、未だ鑑定結果は伝えられていない。

 宝物1つ鑑定するのに1ヶ月以上掛かるとか、なかなかに面倒なことではあるが、それだけ期待できそうな気もして、ちょっと楽しみではある。

 だが、もし今後たくさんの宝物がこのダンジョンで得られたとするなら、少々改善を期待したいところではある。

 毎回、長期間待たないといけないのはさすがに……ん? コンスタントに持ち込めば、結果もコンスタントに返ってくるのであんまり問題ないか? 所詮、気分的な問題だし。

「この町では鑑定できず、ケルグかピニング、もしくはもっと遠くの町まで持ち込まれたのでしょうか? 時間的に考えると」

「鑑定する人の仕事が詰まってる、とかじゃなければそうだろうねー。私たちがピニングに行く前に預けてるんだから。……トーヤ、【鑑定】のレベルアップ希望」

「あのタイプの、特殊なアイテムも鑑定可能になんのかな? 【鑑定】スキルで。一応、本は読んでるけどよー」

 大量に買い込んだ本の中には、アイテムに関する本や判別方法などに関する本も含まれていたのだが、数が多く、かつ整理された教本ではないため、なかなかに難しそうではある。

 だが、俺とは違い、トーヤには【鑑定】スキルの補助があるので、少々期待はしたいところだが……。

「トーヤくん、頑張ってください」

「……取りあえず、本だけは頑張って読む。それでダメなら諦めてくれ」

「そうね。その時は諦めて、もっと本を集めることにするわ。【鑑定】のために惜しむお金は無いから」

 ハルカの言葉にトーヤは一瞬、棒を飲んだ様になり、諦めたような表情で「努力する」と頷いた。

 うん、大変だとは思うが頑張ってくれ。アイテム鑑定ができるかどうかは、かなり重要だと思うし。

「しかし、この部屋だと……転移ポイントの置き方に悩むね」

「穴、掘れないしなぁ……」

 この部屋の床や壁面、天井に至るまで、石のブロックが敷き詰められていて、普通に穴を掘ることは難しい。

 土魔法を頑張って駆使するか、ツルハシでも使って力業でブロックは剥がせば、その下に転移ポイントを仕込むことも不可能ではない気もするが……そうやって埋め込んだ転移ポイントが果たして無事に使えるのかどうか。ダンジョンだけに。

 地面を少し掘って埋めた転移ポイントは機能したが、さすがに石のブロックの下となると、ダンジョンに修復機能とかあれば、無効にされそうな気もする。

「タイラント・ピッカウがいた場所なら地面が土だったけど、復活すると転移しにくいよね」

「転移直後の、態勢の整っていない状態で戦闘に突入とか、危険すぎるだろ」

 ある意味ではカモなタイラント・ピッカウだが、それなりには強いのだ。

 無防備に攻撃を受ければ死ぬ可能性もある。

 『1ヶ月経てば復活していた』事は判っても、復活間隔は不明なので、実は数日程度で復活している可能性もある。

 そうなると、帰還するときに鉢合わせである。

「ひとまずここに転移ポイントを置いて、下に降りる。万が一帰り道が塞がれたら転移で戻り、問題が無ければ転移ポイントを回収しに戻ってから先に進む、ってのはどう?」

「それでやってみるか……?」

 他に対案も出なかったので、部屋の隅に転移ポイントを置き、罠に注意しつつ慎重に階段を降りる。

 2人が並んで歩ける程度の階段は、普通の民家の2階から1階よりは少し長かっただろうか。

 特に何事も無く下りた先にあったのは、上の部屋と似たような、それでいて広さは2倍ほどもある部屋。俺たちの降りてきた階段と扉が1つあるのみで、他には何も無い。

 全員で階段から少し離れて少し待つが……何も起きないな。

「天丼は無しか?」

「天丼って……まぁ、同じ事やっても罠としての効果は薄いよな」

「まぁ、面倒くさくなくて良いじゃない。取りあえず、一度部屋から出てみましょ。時間差ってこともあり得るし」

 ハルカの言葉に従い、部屋の扉から出てから戻ってみても階段は無事。

 どうやら本当に罠は無いらしい。

 俺たちは一度上に戻り、転移ポイントを回収してから、改めて部屋の外へ出る。

 その通路は降りてきた部屋と同様、石造りのブロックによって、壁や床面が作られていた。

「如何にもダンジョンだなぁ」

「マッピングはしやすいよね、この構造だと」

 通路は真っ直ぐ、曲がり角は直角、通路の幅は一定。

 確かに1層、2層に比べると、マッピングはずっと簡単だろう。

「問題は敵の強さよね……慎重に進みましょ。ナオは索敵、ナツキは罠に注意。他もそれぞれ警戒を怠らないように」

「「「了解」」」


    ◇    ◇    ◇


 第3層は、1層、2層に比べると随分と敵影が濃かった。

 止まっていればさほどでも無いのだが、移動すればすぐに敵と遭遇することになり、短いインターバルで戦闘を繰り返すことになる。

 だからといって、2層よりも大幅に難易度が高いかと言えば、実はそうでもなかったりする。

 敵の強さ自体は多少アップした程度であるし、何より大きいのは、頻繁に見つかる小部屋の存在である。

 これまで俺たちは【索敵】と『聖域サンクチュアリ』によって安全を確保して休息を取っていたのだが、普通の冒険者にこれが出来るかと言えば少々難しいだろう。

 しかしこの階層では、扉が1つしか無い小部屋がある。

 中を調べて安全を確保すれば、扉を守るだけで比較的安心して休息を取ることができる。

 それを考慮に入れれば、難易度はむしろ2階層よりも低いかもしれない。

 そしてもう一つ予想外だったのは、3層目の広さ。

 1層目、2層目と同等の広さがあるかと身構えていたのだが、俺たちが下へと向かう階段を見つけたのは探索開始から2日目。

 マップをすべて埋め終わったのも3日目であった。

 単純な広さだけで言うなら、2層目の半分にも満たないだろう。

 その傾向は4層目に入っても続き、帰還予定日までに4層のマップを埋める事こそできなかったものの、5層へ向かう階段は見つける事ができた。

 また、その広さに反して、見つけた宝箱の数は多かった。

 3層すべてを回って全部で5個、探索途中の4層でも5個。

 凄く多いとは言えないが、1層が2個、2層が1個だったことを考えれば、大幅増加tと言っても過言では無いだろう。

 ただ、中に入っていたものは、やっぱり少々微妙。

 半数はポーションで、1層で見つけた物と同様、ハルカたちが作る物よりも劣る傷薬と解毒薬。

 傷薬はともかく、解毒薬に関して言えばこのダンジョンに出てくる魔物に対応しているみたいで、多少は意味があるのだろうが、俺たちに関して言えば自前で作れるし、そもそも『毒治癒キュア・ポイズン』の魔法がある。

 それに、そもそも毒を受けるような攻撃に当たらないため、使い道が無い。

 更に言うなら、このダンジョンに入らなければ需要の無い解毒薬など、ラファンの町で売れるはずも無く、ギルドに持ち込んでも二束三文にしかならないだろう。

 残りの5つは、鉄のインゴットと短剣が2つずつ、それに盾。

 いずれもトーヤの【鑑定】で簡単に判別できる程度の物であり、鑑定依頼をする手間は省けたが、逆に大した価値がないという事でもあり……。

 結局俺たちは、今回の探索では大した成果も無く帰宅することになったのだった。


    ◇    ◇    ◇


「おかえりなさい(なの)!」

「「「ただいま」」」

 満面の笑顔で出迎えてくれたメアリたちに、俺たちもまた挨拶を返す。

 ハルカたちがいるので寂しいという事はないのだが、家に帰ると出迎えてくれる人がいるというのはやはり良い物である。

「無事に帰ってきてくれて、安心しました」

「良かったの!」

 ホッとしたような表情の2人に、俺たちは顔を見合わせて頷きあう。

 4層の探索途中という、帰還するにはちょっと中途半端なタイミングだったのだが、いきなり予定をオーバーしてしまうと、メアリたちが不安になるだろう、という事で帰還を選択したのだが、やはり正解だったようである。

「留守中、問題は無かった?」

「無かったです。あ、でも、ディオラさんが『急ぎではないですが、冒険者ギルドに顔を出してください』って」

「ディオラさんが……?」

 普段訪れることの無いディオラさんが来たと聞き、ハルカが少し不思議そうに首をかしげる。

「アレじゃね? ペンダント。そろそろ鑑定が終わっても良い頃だろ」

「そういえばそうね。明日、顔を出してみましょうか」

「他は特になし?」

「はい。後は、庭の手入れをして、訓練と勉強をしてたぐらいです」

 確かに見回せば、随分と庭が整理されてきたような印象を受ける。

 少なくとも表から見える範囲は、草ボウボウという事は無い。

「ずいぶん綺麗になってるな。頑張ったな。お疲れ様」

「いえ、当然のことです」

 メアリはそう言って首を振りつつも、少し嬉しそうに頬を緩めている。

「ミーも! ミーも頑張ったの!」

「そうか。ミーティアもお疲れ様」

「えへへ」

 俺がそう言って、ぴょんぴょんと跳ねながら主張するミーティアの頭を撫でると、ミーティアも照れたように笑う。

「ご飯はちゃんと食べてるか?」

「大丈夫です。自分で作って食べました」

 出かける前に、ハルカたちが料理を作って保存庫に入れておいたのだが、遠慮したのか、自分たちで購入してきた物で料理を作っていたらしい。

 練習も兼ねて、とは言っているが……。

「そっか。それじゃ、今日は少し豪華なご飯にしよっか?」

「やったの! お姉ちゃんのご飯、イマイチだったの!」

 凄く素直なミーティアの言葉に、メアリが顔を赤く染め、抗議の声を挙げる。

「ミー! 昔に比べたら美味しかったでしょ!」

「でも、ユキお姉ちゃんたちが作るのとは、比べものにならないの」

「うっ。それはそうだけど……」

 メアリもミーティアの言葉を否定することはできなかったのか、言葉に詰まり、少し不満そうな表情を浮かべる。

 そんな2人を取りなすように、ユキが口を挟む。

「まぁまぁ。メアリもそのうち、腕が上がるよ。今日も料理、手伝ってね?」

「はい、もちろんです!」

 メアリも元気に答えを返し、そんな彼女の様子にユキたちも張り切ったのか、その日の夕食は、確かにちょっと豪華な内容になったのだった。

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