外伝

翡翠の羽 (1)

 人生、何が起こるかわからないよね。

 まさか私が交通事故で死ぬなんて。

 知り合いに事故に遭っちゃった人もいるし、飛行機事故で死ぬよりよっぽど確率は高いと聞くから、絶対に無いとは思ってなかったけど……。

 いや、嘘です。

 自分は大丈夫とか思ってました。

 根拠無く。

 うん、やっぱ、そんな事ないんだね。

 こんにちは。

 喜多村佳乃きたむらよしのです。


 しかし……死んじゃったかぁ。

 それはそれで衝撃的なんだけど、それに続く怒濤の情報の方が衝撃で、感傷にも浸れないよ。

 邪神? 転移? なんなの、それ?

 ゲーム?

 ……あ、なんか表示された。

 ふむふむ。ポイントを割り振って、できる事を選べると。

 使えるポイントは145ポイント。

 これって……テーブルトークRPGのキャラクターを作るのに似ている。

 お兄ちゃんに人数あわせで付き合わされて、やったことがあるんだよね。少しだけ。

 ちょっと面倒いとか思ってたけど、まさか人生を左右する場面で役に立つとは!

 ありがとう、お兄ちゃん!

 私、感謝を胸に生まれ変わります!

 お兄ちゃんは元気に生きて、親孝行してね。

 お下がりでもらったPCに残ってた、エッチなコンテンツについては忘れてあげるから!

 いつか、あれをネタにしてお小遣いをせびろうと思ってたんだけど、結局使う事も無く死んじゃったなぁ。

 ……あ、ヤバ! お兄ちゃんはともかく、お母さんとかに見られたら、それを私が集めたと思われるんじゃ?

 ――うん、忘れよう。

 一応、『お兄ちゃんの脅迫ネタ』とフォルダ名付けてるから、きっと解ってくれるはず。


 よし。

 過去は忘れてキャラメイクだね。

 えっと、こういう時って、一点特化が強いんだよね?

 何でも出来るキャラクターとか作ると、活躍する場面が全然無くなるんだよねー。

 他のキャラクターが、もっと上手くできちゃうから。

 人数あわせだったテーブルトークRPGはともかく、自分の人生が人数あわせになるのは頂けない。

 ってことで、一点特化。

 選ぶのは……やっぱり、治療関係かな?

 昔、お医者さんになりたかったんだよね。

 なぜそう思ったのか、そのへんの心温まるエピソードは省くけど、『なりたい!』でなれるほど甘くないのがお医者さん。

 高校ぐらいになると、現実を見せられちゃうのです。

 中学ぐらいまでは、クラスでちょっと頭良い、というタイプだった私も、高校に入れば平均程度。

 更に大学選びで偏差値とか、授業料とか見ちゃうと、「あれ? これって無理なんじゃ?」と我に返ってしまうわけです。

 だがしかし!

 今なら授業料無料!

 寄付金も無し!

 ついでに言えば、勉強も不要!

 ――ですよね? スキルだもん。


 って事で。医者。

 それにたぶん、医者って儲かるし? 私のイメージだと。

 労働環境がブラック?

 それってきっと大きい病院のお医者さんだけ。

 近所の診療所のお医者さん、かなーり、のんびりしてるし。

 ……おっと、それは今関係なかった。

 えっと、医者関連のスキルだと、【医術】と【薬学】?

 あ、いやいや。魔法があるんだった。

 魔法でスパッと治せたら凄いよね?

 そんな医者がいたら、きっと儲かるよね?

 日本でも一瞬で骨折を治してくれる医者がいたら、数万円ぐらい、払うことに躊躇しないし。

 これ、いけるよね?

 うん、いける。

 これならイージーモードかも?


 ――って、あれ? 【光魔法】、レベルが上げられないんだけど?

 文字もグレーで表示されてるし。

 これはあれかな?

 傍にある【光魔法の素質】。これが必須なのかな?

 10ポイントも必要なんだけど……よし、実験。

 ふむふむ。

 なるほど。

 素質が必要で、レベルあたり5ポイントか。

 レベル10にするのに必要なポイントが60ポイント。

 これを選ばない理由は無い……あ、違う。

 レベル4から必要ポイントが10に上昇。

 更に6、8、10で5ポイントずつアップ。

 レベル9から10にするには25ポイントも必要になる。

 つまり10にするには……トータル140ポイントも必要だよ!

 うわぁ……一応、ギリいける。

 いけるけど……ちょっと無駄だよね?

 25ポイントあったら、他の魔法をレベル3にできるわけだし。

 となると、区切りとなるレベル5、7、9のいずれかにしておくのが良いと思うけど、問題はどんな魔法が使えるか判らないとこだよねぇ。

 5はちょっと中途半端なので、却下。

 7か9か……。


 9にすると、残りポイントが30。

 一点特化な私としては、ありと言えばあり。

 でも、やっぱ、別の世界だし……き、危険もあるのかな?

 安全な街の中で、診療所でも作って、がっぽがっぽとか、無理かな?

 あ、ダメだ。まず診療所を作る資金が必要。

 まずは、ある程度のお金を稼がないと。

 どんな世界か判らないけど、家を借りるにしても、日本であれば敷金礼金に家賃が必要。

 いきなり繁盛はしないだろうし、生活資金もいる。

 あと……うん。もし奴隷狩りとかあったら怖いから、武器も使えるようになっておこう。

 なので、光魔法はレベル7で。


 これで残りが70ポイント。

 よし、よし。結構余裕があるね。

 残りのポイントで、まずは武器。

 簡単なのはやっぱり鈍器かな?

 殴るだけだし、剣とかに比べると入手もしやすそう。

 えーっと……あ、【片手鈍器】ってのがある。

 多分このスキル、メイスとかが使えるようになるよね?

 これでいいや。

 ついでに、【魔力強化】も追加。

 魔力切れで回復できなくなったら、役立たずになっちゃうし。

 あっ! 病人に対応するなら、自分が感染しないように、そのへんの対策も必要だよね。

 残りは【医学】か【薬学】か……【薬学】にしとこ。

 ちょっと余った5ポイントは、【異世界の常識】にしよう。

 医者って現地の人と関わる職業だし、非常識じゃ困るよね。

 ……うん、こんな感じかな?

 

 【光魔法の素質 (10pt)】

 【光魔法 Lv.7 (65pt)】

 【魔力強化 (10pt)】

 【片手鈍器 Lv.2 (10pt)】

 【頑強 Lv.2 (15pt)】

 【病気耐性(5pt)】

 【毒耐性(5pt)】

 【薬学 Lv.3 (20pt)】

 【異世界の常識(5pt)】


 これで良し。

 後は待つだけ。

 この時間を利用して、他のスキルを良く見ておきたかったけど……所持ポイントで取れるスキルしか見えないんだよね、このシステム。

 ゼロになっちゃった今では、取得したスキル以外は見えない。

 一度解除する方法はあるけど、変に弄っていて、突然打ち切られても困るから、ここは我慢、我慢。

 私は見られなかったけど、必要ポイントが150以上のスキルとかも、あったのかなぁ?


「さてさて、みんな出来たかな~~? そろそろ転移するよ~。転移時点で使ってないポイントは僕が適当に振り分けちゃうから要注意!」

 私がほげーっとしばらく待っていると、邪神がそんな事を言った。

 時間が足りなくても、一応、救済措置はあったんだ?

 でも、何取らされるか判らないのは困るから、私の選択は正解。

 さすが私。

 作業は時間前に終えないとね。

「あ、それから近くにいる魂は向こうでも近くに転移させるから、知り合いとは引っ付いていた方が良いかも? 判ればだけどねっ!」

 にゃんと!

 全員まとめて、じゃないの!?

 これはマズい。予想外ですよ?

 診療所を作ってお金を稼ぐにしても、最初は開業資金を貯めないといけないのだ。

 戦ってくれる人がいてこそ、私のスキルは役に立つのに!

 よし! うなれ、私のシックスセンス!

 キュピーン!

 むむむむっ、よし、あれだ!

 (足は無いけど)だーっしゅ!

 (手は無いけど)目的の人魂をひっつかみ、もう一つの人魂に体当たり!

 間に合った!

「それじゃ、みんな、今度は良い人生を!」

 邪神がそう言うと同時に、あたりは真っ白になった。


    ◇    ◇    ◇


 次に視界が戻ったとき、私の傍に馴染みのある気配を感じ、私は声を上げた。

「アイム・ウィナ~~~!!」

「うるさいのじゃ!」

「あっと、ゴメンゴメン。――って、誰!?」

 私の親友、川渕かわぶち歌穂かほだと思って振り返った私の視界に入ったのは、予想外の人物だった。

 平均以下の背の高さは……うん、歌穂っぽい。

 下手すれば小学生に間違われかねないその身長、とっても馴染み深いよ?

 けど、その頭にある立派なお耳と、お尻から生えたこれまた立派な尻尾、ついでに美形度、数割増しのその顔面偏差値はなにごと!

「いや、ホント、誰!!」

「酷いのぅ。おぬしが引っ張って連れてきたんじゃろうに。歌穂じゃよ、歌穂」

「だよね! でも、何その口調は!? 美容整形はまだ許すけど、歌穂、そんな喋り方じゃなかったよね!」

「これはキャラ付けなのじゃ。キャラが薄いと、NPCばりにあっさり退場させられてしまうのじゃ。キャラが濃いければ、ファンブルしても、GMがさりげなく救済してくれたりするのじゃ」

 歌穂のお兄さんと私のお兄ちゃんは友人同士。

 私が人数あわせでテーブルトークRPGに参加したように、歌穂もお兄さんに誘われて参加していたわけで。

 ちなみに、私に比べて歌穂は、結構積極的に参加していたっぽい。

「つまり、あの邪神がゲームマスター?」

「あの神はトリックスターっぽい雰囲気だったのじゃ。面白い人間には、加護とか与えてくれそうな気がするのじゃ」

「うっ! ちょっぴり理解できる! でも、キャラ盛りすぎじゃない? その立派な……狐耳? に加えて、あざとい口調とか」

「あざといとか言うなし! ――コホン。ロールプレイじゃよ、ロールプレイ」

 一瞬崩れた口調を、咳払いを一つして元に戻す歌穂。

 そう言われてしまうと、『ありかな?』と思えてしまわなくもない。

「あのー。私には良く理解できない会話、控えて欲しいかも? もしくは、説明、よろしくです」

「あ、ゴメンね、紗江さえ。って、紗江も人間じゃないし!」

 私がもう1人体当たりしたのは、紗江。本名、山村やまむら紗江子さえこ

 双方から感じられる雰囲気がいつもと同じだったから、最初こそ違和感なかったけど、紗江も良く見れば人間じゃなくてエルフになっちゃってる。

「2人とも、外見に力入れすぎ! 私が逆の意味で浮くじゃん!」

 明らかにスキルで弄ったっぽい歌穂は当然として、紗江はエルフになったおかげで美形に。

 対して私は、実用一辺倒にポイントを使ったので、外見は変わっていないはず。

「うふふふ、仕方ないことです。美人になりたいなんて、女なら一度は思うことなのです」

「と言うか、佳乃はよく判ったのう? あんな人魂状態で」

「私の第六感が冴え渡ったからね! と言うか、歌穂はそのキャラ付け、続けるの?」

「続けるのじゃ。神が実在すると判った以上、有効かも知れないのじゃ」

 う~ん、必ずしも否定できないあたりがなんとも。

 まぁ、良いか。

 大した問題じゃないし。

 それに、なんか可愛いのは否定できないしね!

 

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