072 強敵と戦おう

 翌日からは再びオーク狩り……と行きたいところだが、最近は森を歩いていても、適当なオークを見つけるのが少し難しくなってきている。

 すでに50匹ぐらいは狩っている関係か、集団の数が10匹前後にまで増えているのだ。

 最初は2匹程度、たまには1匹を見つけることもあったのに、だんだん数が増えて今となってはその数。オークの方も知恵があるということなのだろう。

 しかし、以前偵察した巣のことも考えると、なんやかやで100匹程度はいたって事だよな? オークリーダーはほぼ確定、もしかするとオークキャプテンもいるかもしれない。その場合、オークリーダーが巣の外へ狩りに出る可能性も否定できないから、俺たちも油断できないな。

「ねえ、あたしたちって、結構な数のオークを狩って解体してきたよね?」

 そうやってオークを探して森を歩いていると、ユキがふと思い出したように、そんなことを言ってきた。

「ん? そうだな。それが?」

「いや、結構適当に肉以外の部位は放置したのに、それを見かけることがないなぁ、と思って。何が処理してるの?」

 そういえば、翌日に同じ場所を歩いても、痕跡が残っていることはほぼ無い。

 たまに血痕に気付くことはあるが、その程度である。

「この森だと、ナイト・ウルフ、それに虫みたいですね」

「狼? 居るの? 見たこと無いけど」

「居るみたいですよ。完全に夜行性らしいので、昼間に森に入る私たちが出会う可能性は低いですが。解体の残渣ざんさを掃除してくれる、ありがたい存在ですね。腐った内臓を見ずにすみますから」

 そういえば、昨日読んだ資料に載っていた気がする。

 よほどの空腹状態でなければ、複数人でいる人が襲われることはあまりない、と書いてあったかな? 細かい部分までは覚えていないが。

「森の掃除屋か。まかり間違って俺たちがこの森で倒れると――」

「掃除されちゃいますね、私たちが」

「それは嫌だなぁ」

 狼にガツガツと食い荒らされる自分の死体。

 想像すると、かなり鬱になる。

「私としては、綺麗に食べてもらえるなら、まだそっちの方が良いかもしれません。自分の腐乱した死体なんて他人に見られたくないですし」

「なるほど、そういう考え方もあるか」

 俺も自分の腐乱死体を見られるのは嫌かもしれない。女の子なら余計にだろう。どうせ死んでいるんだから、食べられてしまう方がまだマシという考え方も少し理解できる。

「もちろん、普通に埋葬してもらうのが一番――いえ、死なないのが一番ですが」

「そうよ。不吉なことは言わない。私は長生きして、ベッドの上で死ぬ予定なんだから。ナツキは私が看取ってあげるわ」

「私が老衰で死ぬときですか。まだ想像もできませんが、ハルカはエルフなんですよね。普通に考えれば、私よりも長生きですか。知り合いに看取ってもらえるなら、少し安心ですね」

「いや、でもさ、この世界のエルフって人間の2倍程度の寿命なんだよね? 案外、あたしたちの方が長生きするかも? ほら、【スキル強奪】があるから」

「あぁ、寿命を分けてくれるボーナスキャラ!」

 そう言ってポンと手を叩くナツキ。

 確かに実態はその通りではあるが、本当は他人のスキルを勝手に奪おうとする、下種な奴らだからな? 邪神さんが地雷を付けてくれたおかげで、問題が無くなっただけで。

 もしかすると悪人に対してだけ使おう、とか思っていたヤツもいたかもしれないが、ナツキたちに対して使ったヤツは、まぁボーナスキャラ扱いでも良いか。

「そうよね。【スキル強奪】を使ったヤツがエルフだったりしたら、私が看取ってもらえる可能性もあるのか。よろしくね? 人間でそんな寿命はかなり目立ちそうだけど」

「その心配がありましたか。まあ、この世界には厳密な戸籍もないようですし、引っ越しをすれば問題ないでしょう。数十年も先のことなので、その時考えます」

 そうか。日本なら200年とか生きていたらすぐにばれるが、この世界なら年齢なんて自己申告だから、街を移動すれば問題ないのか。簡単にリセットできるという点では、はぐれものにはある意味で生きやすい世界かもしれない。

「おーい、お前たち、今は狩りの最中だぞ? のんびり話してないで、もうちょっと注意しろ?」

 1人話に参加せず、周囲を警戒していたトーヤがそう不満を口にするが、ユキも少し不満げに口を開いた。

「えー、でも、全然オークが出てこないし。だよね?」

「あぁ、さっぱりだな」

 俺も話はしていても、索敵自体は常に行っていた。

 オーク以外、猪やゴブリンは時に引っかかるのだが、標的としているオークは全く居ない。

「もう少し、巣に近づいてみるか?」

「でも、そうすると10匹ぐらいになるんだよね?」

 今のところ、最も多くのオークを相手にしたときで6匹。初撃で俺とハルカ、ユキの3人で2匹を斃し、接近戦で相手をしたのは4匹。この状態で少し余裕があったので、7、8匹までならなんとかなりそうだが、10匹となると、少し危ない気がする。

「森の中なので、10匹でも大丈夫、かもしれませんよ? 周囲を囲まれる心配が少ないですから」

「確かに、立地的にはオークの方が不利なんだよな」

 3メートルを超えるオークと2メートルに満たないオレたち。動きやすさでは明らかに俺たちが勝っている。横幅も全然違うので、俺たちがすり抜けられる木の間でもオークは通れないという状況も普通にある。

 オークの持つ木の枝も振り回すだけのスペースがないので、攻撃方法も制限されるのだ。

 その制限自体は俺たちも同じなのだが、突き刺すことができる俺たちの武器と、遠心力で叩きつぶすことが目的のただの木では、制限の厳しさが違う。

「オークの巣、可能なら潰したいが……」

「少なくとも30匹以上居るんでしょ? 攻撃側が圧倒的に有利な地形でも無ければ、無理でしょ」

 高い崖の上から一方的に狙撃できる、とかそんな地形があれば可能性もあるだろうが、このあたりは基本的に平地である。ハルカは木の上からの狙撃を良く行うが、オークに接近されてしまえば、木の上といえど安全とは言えない。

「10匹程度のグループを釣ってきて、引きながら戦う事を試してみねぇ? 現状だと待ち構えて斃してるだろ?」

 今の狩りの仕方は、オークのグループを見つけたら接近、向こうがこちらに気付いて近づいてきたら待ち構え、遠距離で俺とユキ、ハルカが狙撃。2匹から3匹程度を斃す、もしくは手負いの状態にさせてから接近戦に持ち込む、というパターンである。

 トーヤとナツキは2匹ずつ受け持っても渡り合えるし、俺とユキで1匹なら余裕があるので、大した怪我をすることもなく安全に狩りができていたのだ。

「引きながらということは、俺たちの狙撃で数を減らしながら、ということか?」

「あぁ。あまり巣に近い場所で戦闘しても、援軍が来る可能性もあるだろ?」

「その心配もあるわね。上手くやれば、なんとかなりそうな気もするけど……トーヤの意見、どう思う?」

 賛成は俺とナツキ。ユキとハルカは反対するほどでもない、と。

「じゃあ、やってみようぜ! ナオ、索敵、よろしく」

「解った。巣に近づくことになるから慎重にな?」

 さすがに危険な場所に行くときに、さっきみたいな雑談をしているのはマズい。

 俺たちは口を噤んで、巣のある場所へと近づいていく。

 そして巣まで300メートルほどに来たところで、俺の索敵範囲に敵が現れた。数は11匹。反応はオーク、なんだが……少し気になる事が。

「1匹、何か強そうな反応があるんだが」

「上位種、オークリーダーか? それともそれ以上?」

「確か、資料によるとオークキャプテンは16匹分だったよな? そこまでは強くないと思う」

「オークリーダーか……。退くべきか?」

 反応からおおよそ測れる強さとしては、オーク4匹分ほどには強くない気もする。まだまだ俺の経験が浅いので、確実とは言えないのだが。【索敵】で解るのは、『なんとなく』でしかないしなぁ。

「私はやるべきだと思います」

「ナツキ……ちょっと意外ね?」

 槍を握ってそう言ったナツキに、ハルカは少し驚いた表情を向けた。

 やや無謀寄りのトーヤと中庸の俺とユキ、少し慎重寄りのナツキと最も慎重なハルカ。俺たちのパーティーはそんな感じである。

 そんなナツキが、過去最大数かつ強敵混じりの敵との戦闘を主張したのだから、俺も少し予想外だ。

「もしこれを斃せなければ、当分はオークを斃すことができなくなると思います。多分、これ以下のグループでは行動していないでしょうから」

「その可能性は高いわね。あれだけ斃すと」

「オークリーダーは私が受け持ちます。怪我をする可能性もありますが、骨折までなら治せますよね?」

「そうね、部位欠損さえ避けられれば、なんとかなるはずよ」

 怪我、か。

 強い敵とはやり合わないというハルカの方針のおかげもあり、今までに負った怪我は、精々打ち身と擦り傷程度。切り傷は草で手を切ったぐらいである。

 このへんで怪我をする経験も必要か? ――死ななければ、と言う前提は欲しいが。

「……俺も反対はしないが、準備はしたいな」

「そうだね、怪我を避けられるなら、避けたいし」

「でしたら、罠を張りましょう。幸い、私たちとは体格が違うのでやりやすいです」

 罠と言っても、作れるのは落とし穴程度。ユキの魔法が大活躍である。

 オークはそんなに賢くないので、穴を掘ってその上を適当な枝や葉っぱで隠しておけば気付かないだろう。

 間違っても自分たちが落ちないように、オークが通れる木の隙間に設置して目印を付けておく。俺たちが逃げる場合は、そこを避けて人のサイズでしか通れない場所を進むようにする。

 また、穴だけではなく、地面にちょっとした出っ張りも作りながらオークのグループに近づいていく。適当に音を立てたりしながら近づいていると、【索敵】で確認できるオークの進路が変わった。

「気付いた」

「それじゃ、少し前進して、しかけた罠に誘導できるようにしましょ」

 待ち伏せに都合の良い場所まで前進し、オークがやってくるのを待ち構える。

 オークの姿が射程内に入った瞬間、俺とユキの魔法、それにハルカの矢が飛んでいく。戦闘時の優先順位や狙う位置などは打ち合わせしているので、標的が重複することもなく、俺の魔法がオークの頭を消し飛ばす。

 一応は『火矢ファイア・アロー』なんだが、オークも一撃で斃せるようになったんだよな。ユキの方はまだ半々程度なので、要練習ってとこだろう。今回は上手くいったようで、2匹のオークが沈み、1匹のオークが頭に矢を受けてその場に蹲った。

 いつもならここで待ち構えてオークに対峙するのだが、今回は後退を選択する。

 倒れたオークが邪魔になり、後続のオークが足止めされている間に急いで退く。

「散開して追いかけてきたぞ!」

 後ろからトーヤの声が聞こえ、チラリと振り返ると、左右に広がったオークが追いかけてきている。

 一番後ろに見える一際大きいオークが間違いなくオークリーダーだな。ここから見るだけでもかなり迫力あるぞ? ナツキ、あれと対峙するのか!?

 せめて接敵までに後数匹は斃しておきたい。そうすれば俺たち魔法職が援護する余裕が生まれる。

 しばらく走り、落とし穴を作った場所を通り過ぎたところで停止、左右に広がっているオークの両端を狙って攻撃。俺は再び1匹を倒したが、ユキの方は斃しきれず、そこにハルカによる追い打ちがかかる。

「もう1回退くか!?」

「やりましょう!」

 そのハルカの声で俺たちは武器を構える。

 一列で追いかけてくれればやりやすかったんだが、さすがにそうはいかないか。

 横に広がられると下手をすると回り込まれる危険性がある。そうなると、一番後ろのハルカが危ない。

「もう一回! 『火矢ファイア・アロー』!」

 かなり近づいていたオークにもう一度魔法を放つが、頭を狙ったそれは僅かに逸れ、左腕を奪うに留まった。

「くそっ!」

「ナオくん、落ち着いて」

 そう冷静な声を掛けてきたナツキは、落とし穴に足を突っ込んでバランスを崩したオークの頭に、淡々とした表情で槍を突き込んで息の根を止めている。

 ナツキって、戦闘中は殆ど表情を変えないんだよな……。

「私はオークリーダーを抑えます。後をお願いします」

「おう!」

 倒れたオークを踏みつけ、前方に走り出したナツキは落とし穴を乗り越え、すぐ側まで迫っていたオークリーダーの足に槍で切りつけた。

 対してトーヤの方は、俺が腕を飛ばしたオークの首に剣を叩き込み、すぐ後ろの2匹へと向かう。

「私がナツキを援護する! ユキ、ナオ、残りの2匹は大丈夫!?」

「なんとかする!」

 俺が左側に展開、ユキが右側に展開。そして残りの2匹が居るのは右側である。

 ユキは鉄棒を構えてそう叫ぶが、少し不安である。

 俺は、まだ僅かに息がある腕の無いオークの頭に槍を叩き込み、急いでユキの方へ向かった。

「くっ、『火矢ファイア・アロー』!」

 ユキの対峙しているオークは身体に矢が2本刺さり、顔が半分焼けている。そのオークに対し、ユキが鉄棒で牽制しているが、オークの身長の半分にも満たないユキは簡単に潰されそうで怖い。

 その後ろに迫るオークに速度優先で『火矢ファイア・アロー』を放つが、腕で防がれて致命傷には程遠い。

「ユキ! 大丈夫か!?」

「耐えられる! けど、早めの援護、希望だよ!」

 オークとユキの間に滑り込み、槍を構えながら声を掛けると、返ってきたのはそんな答えだった。

 棍棒を上手く鉄棒でいなしているが、あれでは魔法を使う余裕も、致命傷を与えるだけの余裕も無いだろう。そもそも鉄棒での攻撃では、トーヤでもヴァイプ・ベアーにダメージが通らなかったのだ。それ以上のオークに、ユキの攻撃が通るとは思えない。

「何とか凌いでくれ!」

 槍を構え、ほぼ無傷のオークを睨む。

 大丈夫、スキルレベル的には斃せるはずだ。【槍術 Lv.2】と【槍の才能】を信じろ、俺。

 俺が魔法を放ったのを気付いているのか、少し警戒するように、棍棒を両手で構えるオーク。

 止めてくれ、片手で振られてもあっさり力負けするんだから。後ろにユキが居るので、下手に避けることもできない。

「ここは、先手必勝!」

 オークの左側に回り込むようにして素早く移動し、槍を突き込む。

 槍の穂先が僅かに刺さった、と思った瞬間、棍棒を左手に持ち替えたオークの腕が降ってきた。

「げっ!!」

 オークの肘が叩き込まれた瞬間、ペキリという軽い音を立ててあっさりと折れる槍の柄。そしてすくい上げるように向かってくる棍棒。

 とっさに身体を捻り、左手を盾にするが、腕から響く嫌な音と共に浮き上がる俺の身体。

「――っ!」

 漏れそうになる叫び声をかみ殺し、視界に入った枝をとっさに掴み、身体をぐっと木の上に引き上げる。

 かなりアクロバティックな動作だったが、何とか成功し、無防備にオークの前に落ちることは回避する。

 ――エルフで良かった! 多分、そのバランス感覚が無ければ落ちてたな、これ。

 オークの方も俺の動作が予想外だったのか、棍棒を振り上げたまま、少し動作が止まる。

「『火矢ファイア・アロー』!」

 右手を突き出し、ちょうど良い高さにあるオークの頭に渾身の『火矢ファイア・アロー』をたたき込み、頭を消し飛ばす。

 ゆっくりと後ろに倒れていくオークから目を離し、慌ててユキの方を見ると……おや? あの小柄なユキがオークの攻撃を上手くいなしてるんだけど?

 振り上げの動作でも、俺を木の上に飛ばすぐらいの威力があるのだ。ユキの技術的には可能でも、振り下ろす威力を考えると、あそこまで上手くいなせるのか? しかもかなりいい音がしているし――って、そうじゃない!

「ユキ! 『火矢ファイア・アロー』」

 我に返った俺は、ユキに一声掛けてオークに向かって魔法を放つ。

 不幸中の幸い、木の上に移動できたので、射線は通る。

 ユキが下がった瞬間にオークに到達した『火矢ファイア・アロー』は僅かに逸れたものの、首を半分ほども吹き飛ばして、見事な血の噴水を作り上げた。

「ありがと! でも汚い!」

 頭を消し飛ばしたときも結構派手に血が吹き出るんだが、前から後ろに吹き飛ばす関係か、すぐに後ろに倒れるためさほど気にはならない。

 しかし、今回は中途半端だったためか、オークが倒れるまでに時間がかかり、余計に派手である。そのせいで血がかかったユキからお礼と苦情が同時に飛んでくる。

「すまん! 許せ!」

 言っちゃ何だが、目の前でオークの頭を吹き飛ばした俺は、ユキよりも酷い状況だから!

 はっきり言って腕は痛いし、血は不快だし、魔力を無駄に使ったせいかちょっと気分も悪いし。ピンチでも冷静に、必要分だけの威力を出すようにしないと拙いな、これは。

 戦場を見渡すと、トーヤはすでに1匹を斃し、2匹目も問題なく対応できているのでこれは放置。

 問題はオークリーダーと対峙するナツキとハルカである。

 森の中だけに巨体のオークリーダーは戦いづらいかと思いきや、オークの持つ物よりも一回りほど太い棍棒に多少の木の枝は障害にならず、振り回す腕は多少の木ならへし折ってしまう。

 ナツキもオークリーダーの足にかなりのダメージを与えているが、致命傷にはほど遠く、散らばる木の枝のおかげで動きも精彩を欠いている。

 援護に向かったハルカと言えば、後から追いついてきたオーク――最初にハルカが攻撃を加えたオークである――に対処しているが、身体には何本も矢が刺さっているものの、射線が通りづらいために急所となる頭部への攻撃ができていない。

 少し退けば攻撃できそうではあるが、そうするとオークがナツキの方へ向かいかねず、かといって接近戦もできない。そんな状況に陥っていた。

「ユキ!」

 俺は仕草しぐさでユキにそのオークへの攻撃を指示し、俺はオークリーダーへの攻撃を狙う。

 動きはオークよりも少し速い気がするが、大きな違いは無い。

 ただ、ナツキの攻撃への対応などを見ると、オークがただ暴れているだけという印象に対し、リーダーの方はある程度の技量を持って攻撃している気がする。

「威力は同じぐらい、速度を上げて……」

 魔法はイメージ。俺は少し集中し、オークリーダーの視線が逆側を向いた瞬間に、『火矢ファイア・アロー』を放った。

 速度的には恐らく通常の1.5倍はあっただろう。頭を狙ったそれはオークリーダーがとっさに掲げた左腕に突き刺さった。

「くっ!」

 その腕を半分ほどえぐったものの、頭部は無傷。

「ぐおぉぉぉぉああ!!!」

 痛みに叫び声を上げ、俺に怒りの視線を向けてくるオークリーダー。

 その後ろからオークを始末したトーヤが切りつけるが、意に介さずにこちらに向かって足を踏み出す。

 ヤバい。左腕がやられているから、飛び降りるしかないんだが、周りは足場が悪い。

 ……オークの死体を踏み台にするか?

「ナオ! 同時に!!」

 その声に視線を向けると、手負いのオークを片付け、弓を構えたハルカと視線をこちらに向け、オークリーダーに向けて手を構えているユキが見える。

「おう!」

 答えてからきっかり3秒。状況ごとのタイミングの取り方は打ち合わせ済み。

 俺とユキの『火矢ファイア・アロー』とハルカの矢がオークの頭に向かい、同時にナツキも走り込む。

 更にトーヤが背後から攻撃を加え、オークリーダーの注意を引いた瞬間に頭部に攻撃が集中、とっさに顔を庇った右腕の隙間を縫い、ナツキの槍がオークリーダーの喉に突き刺さった。

 直後、ぐっと槍を捻ってから横に引き抜いたナツキが後ろに大きく下がり、その傷口から血が噴き出す。

 それでも手にした棍棒を振り上げたオークリーダーだったが、それが振り下ろされることはなく、その巨体はゆっくりと前のめりに倒れたのだった。

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