046 ソースの材料を手に入れろ!
翌日は朝食を食べるとすぐにアエラさんを迎えに行き、俺たちは東の森へと出発した。
場所が解っているのは俺だけなので、俺が先導する形で森の中を進む。
アエラさんは皮鎧と弓矢、それに背負い袋という装備で、ある意味、ユキとナツキよりも冒険者らしい出で立ちである。
2人の方は、昨日慌てて買いに行った鎧下の上に鎖帷子、その上に大きめの服を着て、バックパックを背負った格好である。
ついでにその時に鎖帷子の採寸も終わらせておいたので、数日中には自前の鎖帷子が手に入ることだろう。
道中は特に索敵に力を入れたおかげで、何とか戦闘をすることなく最も近いディンドルの木まで辿り着くことができた。
「さて、ここが一番近い木だが……どうだ?」
【鷹の目】を駆使して天辺を見ると、ポツポツとではあるが、まだ実が生っているのが見える。もちろん、その数は大分少なくなっているのだが。
「結構大きい木ですねぇ……まだ少しはあるみたいですね」
「あ、アエラさんも見えるんだ?」
「はい、私、結構目が良いので」
そう言ってニッコリと笑うアエラさん。
スキル持ちの俺と同等ということは、アエラさんも?
って、俺、【看破】持ってたよ! どれどれ?
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名前:アエラ
種族:エルフ
状態:健康
スキル:【弓術 Lv.2】 【鷹の目 Lv.1】 【気配察知 Lv.2】
【忍び足 Lv.1】 【解体 Lv.2】 【農業 Lv.2】
【植物知識 Lv.3】 【食物知識 Lv.4】 【調理 Lv.3】
【風魔法 Lv.2】 【水魔法 Lv.1】 【清掃 Lv.2】
【笛 Lv.1】
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……いやいや、普通に強いよね?
経験を考えると、下手したら俺たちより。
しかも、結構詳しく見えてるし。
やっぱり、かなり不思議なスキルだよな、【看破】って。
年齢は表示されてないが。
でも、万が一のことを考えるとこのステータスは安心材料にはなる。
「えーっと、あたしには見えないんだけど、この木の天辺にあるんだよね? 登るの? この木に?」
「あの……私はちょっと無理じゃないかなぁ、と思うのですが」
おっと、そういえば言ってなかったか。
ユキとナツキの腰が引けている。
俺はすでに慣れたが、普通ならこの高さの木に登るのは無理だよなぁ。
「あぁ、登るのは俺――アエラさんも大丈夫?」
「えぇ、もちろん。ちょっと大きいですが、特に問題は無いですね」
「そっか。2人は一番下の枝の所で待っていてくれ」
俺はロープを取りだし、一番下の枝に引っかける。何度も繰り返しただけに、すでに手慣れたものである。
そのまま俺が枝の上に登ると、ユキとナツキも案外危なげなく登ってくる。
アエラさんなどは、殆どロープ使わずに登っているのだから、似非じゃないエルフはさすがである。
「アエラさん、その袋だとあまり入らないから、ユキのバックパックを借りていこう。いいよな?」
「うん、いいよ。はい、アエラさん、背負い方は解るよね?」
「はい。これ、便利そうですよね。両手が使えますし」
「ああ、かなり便利なんだよ、これ。重い物を入れても普通に持つより楽だし」
ついでに、『近日冒険者ギルドより発売!』という宣伝もしておく。
料理人のアエラさんにはあまり必要は無いかもしれないが、もしかすると買い出しの際には役立つかも知れない。
「それじゃ、上がるか」
「はい。先に行きますね」
ユキに渡されたバックパックを少し調節し、問題ないことを確認してそう言うと、アエラさんは頷いて、スルスルと登っていく。
俺も慌てて後に付いていくが、その速度はかなり速い。
何度も登ったからこそついて行けているが、初めて登る木だったらまず無理だっただろう。
「ナオさん、凄いですね。私、これでも木登りが上手と評判だったんですよ?」
「そ、それほどでも。この木には何度か登ってますしね」
アエラさんが振り返って感心したように言うが、ホントギリギリですから。
ちょっぴり不満げな顔して、速度上げようとかしないでください、お願いだから。
結局、俺が天辺に着いたのは、アエラさんから少し遅れてのことだった。
初めて登る人に負けたのは微妙に情けない気もするが、アエラさんが満足げな顔で、嬉しそうに採取しているから別に良いか。
焦って落ちたら、下手したら死ぬし?
多分、途中の枝に引っかかるとは思うんだが、怖いことは怖い。
「アエラさん、どんな感じ?」
「見ての通り数はあまり多くないですし、少し熟れすぎな気もしますが、枝の先には残っていますから、それなりには集まりそうですよ」
枝の先に残っているのは、もちろん俺たちがそのあたりに行くのが怖かったからである。
アエラさんは手首より細い枝に乗って普通に採取しているが、正直見ているこっちが怖い。
俺たちは常に3点ホールドを心がけていたんだが、アエラさんの場合、2点はおろか、一瞬とはいえ片足しか着いていないときもあるんだが……。
うん、真似はすまい。
俺は堅実に手の届く範囲で採取していく。
採取期間は移動せずに何個も採れていたが、今は1つ採っては移動、もう1つ採っては移動という感じで、普通に稼ぐことを考えればやはり効率はかなり悪くなっている。
そのまま30分ほどは採取を続けただろうか。
俺のバックパックはまだ半分以上空いているが、これ以上ここで続けても、効率は悪そうである。
「アエラさん、そろそろ降りようか?」
「そう、ですか? まだもう少し採れそうですけど……」
わおぅ、そんな枝の先でクルリと振り向かないで!
マジコワイから。何か、いろいろヒュッとなる。
「採れはしても効率が悪い。まだ何本かあるから、そちらに移動しよう」
「解りました。では降りましょう」
そう言ってアエラさんは、ぴょん、と――って、えぇぇぇ!?
俺が声を上げかけるのを尻目に、アエラさんは気軽にぴょん、ぴょんと下の枝に飛び降りていく。
「――マジか。無理だろ、あれは」
ここが地上2、3メートルなら、やれたかも知れない。
つまり、能力的には不可能ではない、と思う。
だが、地上数十メートルの所でやれるかと言われれば、絶対無理。
恐怖心で身体がすくむ。
「時間がかかっても普通に下りよう……」
5分もあれば下りられるのだから、対抗心で無理する意味は無い。
普通に下りてユキたちの所まで辿り着くと、そこではアエラさんが背負ったバックパックから、ナツキのバックパックへディンドルを移す作業をしていた。
3人のバックパック一杯に採取して帰ろうと言うつもりなのだろうが……。
「アエラさん、帰りにはタスク・ボアーも狩るつもりだから、それを入れるスペースも必要なんだが」
「えっ!? そ、それは……私の背負い袋に?」
「いや、さすがに入らないだろ」
小柄な、一見すると子供にすら見えるアエラさんが持つ背負い袋。そのサイズは当然小さい。
下手すると100キロ超えの猪を詰め込めるとは思えない。
「ナオ、肉は革袋に入れるんでしょ? ならあたしたちも持つよ。それならバックパックに入れなくても持ち帰れるでしょ?」
「はい。手分けすれば大丈夫じゃないでしょうか?」
えぇー、ユキと、真面目なナツキまで賛成ですか。そうですか。
甘味は強いと言うことか。
まぁ、俺は飽きるほど食べたから冷静だが、ディンドルを採りに来た初日だったら、普通に賛成していただろう。
「う~ん、デカいのを斃したら、結構重いぞ?」
20キロ背負って歩くのと、20キロを手で持って歩くのはかなりの差がある。
当然、後者の方が圧倒的に辛い。
「「「がんばりますっ!」」」
声を揃えて力強くそう言う3人に俺は、渋々ながら頷く。
「……そうか? まぁ、それなら良いが」
いざとなれば、勿体ないが捨てるしかないだろう。
それでも甘味を前にした女性3人に逆らうよりは、マシだ。
きっと。
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