第50話
「副長さん、今日は非番なんですか?」
不満顔の達也が、病院の入口で哲平を迎えた。
「いきなり病院へ電話してくると思えば、駐車券よこせなんて…」
「いいだろ。俺様のバイクは駐輪スペースなんてチンケなところに収まる品物じゃないんだ」
確かにプライベートで哲平が乗ってきたバイクは、ハーレー・ダビッドソン ナイトロッドスペシャル(VRSCDX)。水冷60度Vツイン1246ccエンジンで、240ミリの超ワイドタイヤを履く水牛級のバイク。ロングストロークが特徴のハーレー・ダビッドソンの他のファミリーに対し、こいつのエンジンはかなりショートストローク。回せば回すほど暴力的な加速を見せるという超ド級の代物だ。
「かっこいいバイクですねぇ」
達也が駐車券を渡しながら、舐めるように哲平のバイクを眺める。
「触るんじゃねぇ」
哲平が駐車券を奪って、達也にシッシッをする。
「いいじゃないですか見るくらい…。でもこんなバイクで女性を誘ったらみんな乗りたがるでしょう」
「俺は、一生に一度の女しかバイクに乗せない主義だ」
「へーぇ…意外ですね」
「ところで、コッペイの具合はどうだ」
「ええ、彼もがんばりましたよ。手術後の経過は良好です。まだ動けませんが、麻酔が切れても、ベッドの上で痛さに耐えてます」
「そうか…。でっ、ペケジェーの準備はどうなんだ。チャレンジは来週だぞ」
「ええ、基本的なレッスンは終わって、今はララバイコースを走って走行順路を憶えています」
「翔子のレッスンは厳しいだろう」
「ええ、かなり厳しいですね。この前ツインドライブに行ったのはいいんですが、アクシデントがあって一泊になった時も…」
「待て、お前今一泊って言ったか?」
達也はこれ以上正直に話したらこの場でハーレーにひき殺されると思い口をつぐんだ。
「いえ…患者さんが待ってるんで、失礼します」
達也は慌てて病院の中へ逃げ込んだ。
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