第94話大工の青年の物語


俺は兼基 宇宙(ソラ)俗に言うキラキラネームだ。




死んだオヤジが好きなアニメからヒントを得てつけたらしい。文句を言いたいが、俺が小さい時に交通事故で死んじまった。




沖田の親方のもとで修業中の19歳。親方は厳しいけど大工の仕事が好きだし、親方も良くしてくれる。




しかし、そんな親方から聞いた話は最初信じられなかった。




だって、親方が街にモンスターが襲ってくるなんて言うからよ、信じられるか? 俺は親方が飲みすぎでおかしくなったのかと思ったぜ。




でも、色んな所でモンスターが人々を襲う映像がテレビで流れ始めたんで俺は自分の目を疑っちまった。




それから俺は大工の仲間たちと一緒に大曽根の兄貴の所へ避難することにしたんだ。




母ちゃんを説得するのにも苦労したぜ。昔馬鹿やってたから、変な薬でもやっておかしくなったんじゃないかと母ちゃんに泣かれた時が、人生最大の修羅場だったな。




今じゃ母ちゃんも村で仕事してて、毎日温泉入ってなんか楽しくやってる。




そうそう、村に来てスライムを見た時は驚いたぜ。だって人間を襲うモンスターの仲間だぜ? それを飼うってあり得ないだろ。




でもシルバっていうそいつは頭良くて綺麗好きでなんか可愛いんだよ。銀色で固そうなのにプルプルして、撫でると喜んでくれるんだ。




それにしたって大曽根の兄貴には驚かされてばかりだわ。バスよりでかいホワイトタイガーを仲間にしちゃうしよ。俺初めて見た時ちょっとちびっちまったもん。




そんなやつを兄貴は仲間にしちゃうんだぜ? もう俺は兄貴に一生ついていこうと思ったよ。




仲間の皆も言ってるけどよ、兄貴はそれでも威張ったり偉そうにしないんだよな。信じられるか? 俺だったら今頃とっくに天狗になってる自信あるわ。




最近じゃマリアさんを恐がる人は居ないけど、大きくなった子虎たちと子供たちが遊んでる姿は、ちょっと前なら衝撃映像物間違いなし!




その後、グリフォンたちが来た時はまたかと諦めたね。でもよーモンスターって人間を襲うイメージだったけど、兄貴が絡むと皆大人しくなっちまうんだよな。




んでもって今度はダンジョンに行った時の話だけど、スライムを見つけてさ撫でようとしたら体当たり食らって親方にしこたま怒られちまったよ。しかもスライムの体当たりよりも、親方のげんこつのほうが痛いのなんの。これじゃどっちがモンスターだか分からねぇって。話せば分かるってのに。




そうそう、聞いてくれよ! 俺さ最近彼女ができたんだ。彼女は2歳年下の女子高生の由利っていうんだ。




彼女さー前の避難所でなんか嫌な事があったらしくて、こっちでも皆と打ち解けていなかったんだ。でもすげー可愛くて俺は仲良くなりたくて仕方なかったんだ。




そんでさー俺ぁ馬鹿だから、ミスして材料を無駄にして、親方にまたすげー怒られて落ち込んでた時に由利がシルバと笑顔でじゃれあっていたのを見かけたんだ。そしたらシルバが俺を見つけ慰めてくれたんだよな。




でもなんか由利が遊んでたの邪魔したみたいで悪くって、シルバを抱いて渡そうとしたら、泣きそうな顔で逃げられちまってさ。




……ショックだったねー俺がなんかしたんかよって頭にきたわけよ。そんでイライラしながら家に帰ったら、母ちゃんが居てさ。こんなことがあってムカついたんだって話をしたら、逆に怒られたよ。「その子は今、心がとっても傷ついていて今必死に戦っているってのに、お前には優しさってものが無いのかい!」ってな。




原因は教えてくれなかったけど、俺だって村の仲間だ。兄貴みたいにはできないけど、女の一人や二人ぐらい守ってやるよ。




それから数日してまた彼女に会えた。今度は逆で俺がシルバとじゃれていたら、彼女がたまたま通りがかりシルバが彼女に飛び付いたんだ。




今度はシルバを抱っこしてるから逃げなかったけど、顔は泣きそうだった。だからさ俺は言ってやったんだ。




「俺ぁ馬鹿だけと、女の一人や二人くらい守ってやる! 辛いなら俺を頼れ! 絶対に守ってやる!」




いきおいで言っちまったけど、我に返ったら俺はなにを言っているんだって、自分で言っていて恥ずかしくなったよ。顔は熱いし恥ずかしくってその場を逃げ出しちまった。




それから由利とは挨拶するようになったけど、由利が俺に近づくことは無かった。由利は男が近づくと避けているみたいだった。




挨拶をかわすだけの日が何日も過ぎ、俺はまたミスをした。面倒臭くって安全帯を付けずに仕事してたら、親方に怒られたんだよ、怪我したらどうするんだって。怪我より親方のげんこつの方が痛いっての。しかもその日は帰れって追い出されたんだ。




先輩にもマジで絞られたよ。今の世の中は前と違って救急車も無い。本当なら助かる命だって助からないこともあるんだから、今は前より安全を第一に仕事をしろと。




解っているけどそんなに怒らなくたっていいじゃん。




また落ち込んでいるとシルバが寄ってきて慰めてくれたんだ。シルバはいつも落ち込んでいると慰めてくれる。




そんな落ち込んでいた俺を見かねたのか由利が話し掛けてきてくれたんだ。




「……なんかあったの?」




「また親方に怒られて、今日は帰れって追い出された」




「なにしたの?」




「いやーちょっと面倒臭くって、安全帯を付けずに仕事してたら怒られた」




「あんた、こないだ女を守るとか言ってたのに、自分一人守れないの? 怒られて当然じゃない、いつまで甘えているの?」




「……そうだけど」




「男なら言い訳しない」




結局俺はそのときにまだ名前も知らなかった女子高生にまで怒られたわけだ。でも自分を守れない奴が女を守るなんて言えねぇよな……心を入れ換えよう。




それから由利とは少し話ができるようになったそんなある日、由利がシルバとじゃれていて俺も由利に近づき話しかけた。でも由利には1m以上は近づかない。由利はまだ男が恐いみたいだからな。




微妙な距離で話していると、シルバが由利に抱っこされたままシルバが体を伸ばしてきた。




シルバは俺の腕に巻き付くと、俺を引っ張った。同時に由利も引っ張られているみたいで、俺たちは手の届く範囲まで近づいた。




俺は泣きそうな由利を見て、なんとか離れようとした時に。




「ま、まだ名前も名乗ってなかったよね。私は森谷由利、17歳です」




それから俺たちは普通に話す仲になった。




もう俺は由利が好きで好きでたまらなかった。でも由利はまだ男が恐いようだし今は由利に負担の掛けることはしたくねぇ。




でもそんなある日、話していると由利が急に泣き出したんだ。俺は無意識に背中を擦っちまったんだけど、そしたら急に由利が顔をあげてビックリしていたから、俺は直ぐに手を引っ込めて謝った。




「ごめんね、勝手に擦って」




「嫌じゃなかった……優しさが伝わる手だった」




それから由利は避難所であったことを話してくれた。俺は話を聞いてぶっ殺すと息巻いていたら、兄貴がもう殺していたなんて、さすが兄貴。




由利は話の最後に、自分は汚れた人間だから、私に構わないでいいよなんて言うから、俺は怒ってしまった。




「ふざけるな! 由利は汚れてなんかいねぇ! 俺は由利が好きだ! 辛いなら俺を頼れ、絶対に守ってやる! 由利は黙って俺に守られろ!」




由利は俺に抱き付き、子供のようにわんわん泣いた。




それから俺たちは付き合うようになった。




そんな俺は一人を守るのに精一杯なのに、兄貴は4人と結婚したんだぜ? やっぱ兄貴はすげー! 一生付いていきます!






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