第63話 学園ラブコメ編③ ときめきでもリアル
あぁ~ 最悪だよ!
夢の中でさえ、これが夢であって欲しいと望む位に最悪だよ!
俺は机に頭を打ち付け続けた。どれくらいが経ったのであろう……音楽室から皆が戻ってきた。
「ど どうしたんだよマサムネ? 」
デストラが自分の席に着くために俺の後ろを通り過ぎた。俺は打ち続けるのを止めると、そのまま机に突っ伏した
「いや。夢から覚めないかなぁ。って」
哀れむような目で見ているだろうと予測しつつ、席に着くため椅子を引く音が聞こえてきた。
「マサムネ。さっき、廊下で美雨先生に伝言を頼まれたんだけど、日直は四時限目で使う教材を職員室まで取りに来てほしいってさ」
え? 俺が日直なの? とりあえず顔を上げて黒板を見ると右下に日付けと日直の名前が書いてあった。
よりによって俺とセイラかよ……
「マサムネ。美雨先生はいつも日直を使うから、予め準備してた方が良かったのに。ほら、早く行かないと僕が美雨先生に怒られちゃうよ」
そんな美雨先生の決まり知らねーから。 仕方ないので足取り重くセイラの席まで行くと、セイラはラノベをカバーも付けずに机に立てながら読んでいた。
くっ! こいつ悪役令嬢ものをカバーも付けず教室で読んでる……だと。
そして視線をラノベから俺に移すと、明らかに侮蔑の目を向けてきた。
「な なによ? 」
無駄に体裁を作るよりは、一気に当たり前感で言った方が良さそうだ。
「セイラ 俺と付き合え」
あっ ラノベから手を離した。
「な な ななんで アンタと付き合わなきゃなんないのよ」
こっちは急ぎたいんだが
「そういう決まりだからだ」
「 ひ人のソプラノリコーダーを弄んで……べ べつにマサムネだったら直接ても……」
無駄にゴニョゴニョして分からんから、セイラの腕を掴み立ち上がらせた。
「いいから行くぞ 」
セイラは抵抗しつつも顔を赤らめていた。
「ちょっと待った! マサムネ。はっきりさせときたいんだけど」
メンドクセー女だな。セイラの腕を離すとセイラは俯いた。
「け けけ 結婚を前提に。って事で……いいのかな……そういう決まりだ。ってことは運命。って事だよね」
流れを理解した俺はため息を付いてから答えた。
「とりあえず、職員室から教室まで前提で頼むわ。美雨先生から教材を運んでくれ。って頼まれてんだよ! 俺たち日直だから」
こいつ急に黙り込んでどうしたんだ。後ろの方からはデストラと氷芽の会話が聞こえてきた。
「ね デストラ 私と付き合って」
俺たちの会話が聞こえていたのであろうデストラは呆れたように呟いていた。
「氷芽さんは日直でもないし、何に付き合うのさ?」
「もちろん 結婚を前提に」
絶対に氷芽は含み笑いしてんだろーな。
「何 言ってんの?僕をからかわないでよ~」
「からかってないけどな~ デストラは嫌なの? 」
「い 嫌じゃないけど……」
「あはは。冗談なのにデストラの顔が真っ赤だよ」
「もう 氷芽さん~」
くっだらね。現実の氷芽が見たら雪女なのに凍え死ぬだろーな。
ってかセイラは沈黙を続けたまま動かない。
「おい。早く行くぞ」
「1人で行ってよ! バカ」
セイラはまたしてもラノベを読み始めた。
うっわ~ めちゃくちゃ怒ってるんですけど……
現実ではセイラの怒る姿なんか見ないから逆に凄い怖い。
まぁ 良いや。1人でも何とかなるだろ。
職員室に入ると美雨が、手招きをしていた。
「あら マサムネ1人 ちょっと荷物が多いけど大丈夫ですか? 」
「ハイ。で、何を運べば」
美雨が机から手に取り、渡してきたものを見るとオリーブオイルだった。
家庭科の授業なのか?
美雨はさらに指を差したので、そっちに視線を向けると縄があった。
オリーブオイルに縄?
「で 最後にアレを運んで欲しいの」
美雨は遠くを指差すと、人体模型が置かれてあった。
全部を一辺に運ぶのキツイし、なによりお前は何の授業をしようとしてんの?
だが現実でも夢でも美雨は怖そうなので黙って従った。
人体模型を片腕で抱き抱え、もう片方にオリーブオイルと縄を持ち、すれ違う生徒の冷やかな視線を浴びながら、何とか教室まで向かった。
「おや。見慣れない生徒だね。君、名前は何年何組だい? 」
後ろから声を掛けられ振り向くと生徒会長の権六と副会長で権六の妹である蘭子が立っていた。
重いからさっさと着きたいのに、こいつはさっきから邪魔ばっかだな。
「権六。悪いが急いでいるんだ」
「急いでいる理由は知らないが、もう一度尋ねる、君の名前は? 」
権六は近付いてくると、片腕抱きしていた人体模型に話し掛けて来た。
やっぱ、こいつバカだ
「おやおや。だんまりかい 蘭子。この生徒はどんな生徒か知っているかい?」
蘭子は黙って首を横に振ると、権六は顎に手をやりながら答えはじめた。
「この生徒は……察するにマサムネのパートナーだろう。君の持っているオリーブオイルはローションの変わりになるし、その縄をなめす事も出来る。その縄で亀甲縛りや後ろ手縛りを楽しむのだろう」
察してねーー 全然、察しきれてねーよ!
お前は人体模型相手に何を考えてんだ!
それこそ鬼畜の所業だよ! むしろ本当にその考えに辿り着いなら、相手を
バカ過ぎる。
「この道具を見ただけで、そこまでの完璧な答えを導き出すとは、蘭子は畏敬の念を禁じ得ません。さすがはお兄さま。さす鬼です」
蘭子は目を丸くしながら片手を自分の胸に当てていた。
もっとバカがいたよ! お前の妹も手遅れだよ!!
「授業に間に合わないから じゃあな!」
一気に走り、何とか教室まで着くと冷やかな視線を浴び、教卓に縄とオリーブオイルを置いて隣に人体模型を置いた。
少しすると美雨が入ってきた。
「何故 人体模型が置いてあるのですか? 」
「あの? 美雨先生が持っていけと」
「マサムネ。その隣に丸めてあった戦国時代当時の地図を指差したのだが」
え? どういうこと……
「今日は前回に話していた戦国時代のユニークな食べ物である『芋茎縄』を皆にも味わってもらおうと思い、里芋の茎を乾燥させてみました」
そう言うと俺が縄だと思ってたものを美雨は掴んだ。
「これは茎を縄のように編み味噌や酒、油などで煮込み乾燥させ腰に結わえて出陣したのです。そして、戦場などで食してました」
マニアックな日本史の授業だな!
はぁ~ やっと昼飯だよ。こんなに長い1日は初めてだ。
「マ マサムネ」
「ん? どしたセイラ?」
セイラは片手を伸ばすと可愛らしいリボン包みがしてある弁当を差し出した。
「お弁当作ってたら 余っちゃったからアンタに上げる。 アンタいつも購買でパンばっかりじゃん」
おっ! やっとまともな恋愛ゲームになってきた!! こういうのだよ こういう普通何だけど、実際には中々起きない事をしたいんだよ。
「あ ありがとう」
俺は思わず照れながらも受け取り、リボンを解き机に広げると、セイラは前にある四季の机を反転させて俺の机に合わせてきた。
驚きながらセイラに目をやると、セイラはツンとした表情のままお弁当を机に置いた。
「な なによ。アベルとディアボロスはいつも学食でしょ。アンタがボッチなのは可哀想だから一緒に食べて上げるわ」
その言い方に思わず笑みが溢れてしまったが、構わず弁当を開けた。
これなに? 何か大小様々な形の黒いものが、ゴロゴロと転がっていた。弁当とにらめっこしているとセイラが話し掛けてきた。
「は 早く食べなさいよ。お弁当なんて久しぶりだから上手に出来たか分からないけど」
申し訳ないが上手には出来てないと思う。ま まぁ色や形よりも中身だからな味が美味きゃ全てが許される。
おそるおそる箸で物体を掴み口の中に入れた。
俺は驚いた……不味いや美味い。で驚いたのではない。全く味がしないのである。あんなに黒くなるほど焼いたのか蒸したのか炒めたのか知らんが、全く味がしないのである。食感も外カリの中フワであった。
「ど どう?」
緊張した面持ちでセイラが見つめてきた。
「あ あぁ。俺、風邪引いたのか味覚が落ちてるけど、美味しいよ。で、これなに?」
「なにって、見て分かるでしょ、カニクリームコロッケじゃん」
夢では俺の知っているカニクリームコロッケは黒い物体に成り下がったらしい。こんなん誰も分かんねーよ!!
「にゃ。良い匂いがするにゃ~って来てみたら、マサムネのお弁当、カニクリームコロッケにゃ! アイリも頂くにゃ」
お前は良く分かったな! 猫ってこんなに鼻良いのか?
アイリが突然やって来てはカニクリームコロッケを手で掴み口に入れようとした時である。
学食から戻ってきて俺に近付いてきた、ディアボロスとアベルにぶつかってしまい、アイリは口を開けながらバランスを崩すと俺の方に倒れ込んできた。
ぶっちゅーー
何と言う事でしょう。俺の唇とアイリの唇が重なってしまったではないか。
それを間近で見ていたセイラは席を立つと教室を飛び出していった。
直感的と言うかゲーム的にヤバイと感じた俺も、慌ててセイラの後を追ったが見失ってしまった。
くっそ~ また親密度やらが下がるな。階段の踊り場で廊下に背もたれながらため息を付いていると。
ドン
間近にはディアボロスの顔があった。
何で俺に壁ドンしてくんだよ!
ディアボロスは熱っぽい視線を俺に向けてくると、細長く綺麗な指で顎を掴み上へと向けさせた。
何で俺に顎クイしてくんだよ!
そのまま声だけで妊娠させる事が可能なイケボで耳元に囁いてきた。
「マサムネとキスをすればアイリと間接キスした事になる」
そう言うとディアボロスは親指を俺の唇に這わせてきた。
元魔王の力は凄まじく、逃れようとしても、びくとも動けない。ディアボロスの熱を帯びた目は潤み始め、口が半開きになった。
こいつマジでスイッチ入って俺をアイリだと思い込み始めてる!
俺は力強く目を閉じ上唇で下唇をガードした。
「アイリ 胸だけじゃなくお前が愛おしい」
ガードした上唇を舌で強引にこじ開けて来ると舌を絡ませ始めた。
互いの吐息が漏れる……強引なのに優しく包み込んで来るキスは、波の様に押しては引き、引いては押す、自然と任せたくなるくらいだ。こいつ上手ぇ!
っん あ アンッ……
思わず声を上げてしまった。
「そんなやらしい声、他の男にも聞かせてたら嫉妬で狂いそうだ」
バカ……私が他の男とキスする訳ないじゃない。
あれ? おかしい! おかしいから! 何で一人称が女になってんだよ!
俺は何とか快楽とディアボロスから逃れようと、両手で押し返したが、ディアボロスは俺の両手首を片手で掴むと上へと上げ壁に押し付けた。もう片方の手は俺の学ランの下に着ているワイシャツのボタンを起用に外していた。舌は奥深くまで浸入され、俺の両膝に自分の片膝を割って入れてきた。
あっ! ヤバイ! 快楽がさらに押し寄せて来る。私とディアボロスの体温が同じ体温になっていく……このまま2人で溶け合って1つになれれば良いのに…………
ちがーーう!! 一人称が女になってるぞ俺ーー
ディアボロスの股間目掛けて片膝を入れると、一瞬だけディアボロスの力が和らいだ。ここだ! 全力でディアボロスを押し返すと、よろめきながら離れていった。
ディアボロスは黒髪の長髪が乱れ、俺も半裸になっており、互いに息を乱しながら見つめ合った。
こいつ正気に戻ってるはずなのに、何かキスする前と雰囲気が違うじゃねーか!
チャラリラ~ン
『対象者ディアボロスをスキル『ファサネイト・キッス』で撃墜しました。このままディアボロスとのエンディングが、やぶさかでなければYESをやぶさかであればNOをタッチして下さい』
スキル何て俺、覚えてたの! それに『やぶさかではない』って、どっちの意味で捉えれば良いんだ? 本来の意味じゃない使い方の方が最近は多いって言うし…… 国語のテストじゃねーか。
『仕方ない。普通にYESかNOでいいよ』
俺は目の前に現れたNOをタッチした。
『引き続き対象者を撃墜出来ます。ここで現状の親密度ワースト1とベスト1を発表します。なお既に撃墜したもの及び対象外にしたものは含まれません』
アベルやガブリーラにリリムは出てこないのか。ってか大体予想つくわ!
ワースト1:セイラ
寸評:恋はタイミングとフィーリングとハプニングが大切ですが、セイラに対してのアイリとのキスのハプニング・タイミング・そして、すれ違いばかりのフィーリング。全部が最悪です。セイラが結婚を前提に。と言ってきた時が絶好のチャンスでしたね、バカめ。
最後、おかしいだろ! まぁ、このまま行けばセイラも対象外になっちまうな
ベスト1:ディアボロス
寸評:アイリとのキスのハプニングを上手く使い、階段の踊り場という絶妙なタイミングで誘い出し、スキル『ファサネイト・キッス』でフィーリングをもコントロールし、恋のハプニング・タイミング・フィーリング完璧かつ完膚なきまでにディアボロスを攻略しました。
もう嫌……目覚めたい。このままじゃ、違う方に目覚めそう……
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