第53話 うるせー奴ら
閉店後ドゥルキスの控え室ではキャスト全員が集まっており、ついにセイラがセンターを務める次回のライブについて話し合われていたが場の空気は重かった。ヴィバルディを頭に乗せた四季は全員を見渡すと残念そうに呟いた。
「やっぱ、TVの話は無しになった」
「えー 何でぇ? この金髪碧眼美少女エルフ『セイラ』ちゃんの鮮烈デビューは? 」
テーブルに両手を付いて身を乗り出したセイラの顔は泣きそうになっていた。
「う~ん。何でだろね? 私も理由は知らないんだ。 ただ今まで通りドゥルキスを続けていけば何かは起こるよ。セイラもモチベ落とさずに頑張ろ」
「あら。珍しく、まともな事を言いますわね。四季の事ですから、不平不満を垂れ流してはドゥルキスも放り出すかと思いましたわ」
「まぁ。そんなに都合良く行かないって事だね。ドゥルキスは始まったばかりだし切り替えていこう」
「いい頃合いです。この際、やりたい人だけでやったらどうですか?」
「美雨。どういう事かしら? 貴女はドゥルキスを辞めたいの?」
いつもの窓際でワイングラスを持ちつつ、タバコを吹かしながらリリムは口を開いた。
「アイドルを辞めたいのです。恥ずかしいし練習の時間を私は別な時間に当てたいのです」
美雨の後に両手を湯飲み茶碗に添えてお茶をすする氷芽も続いた。
「美雨の言うことも分かりますわ。私も、もう十分楽しんだので、やらなくて良いならやりたくないですわ」
黙って聞いていルナルサが両手を叩くと言葉を口に出した。
「では、こうしたらどうだ? 2人が辞めると5人だから次は戦隊もの。で行こう! 私は赤色だから私がリーダーで」
「にゃにゃ。それも楽しそうにゃ! 話を聞いて癒して飲んで、飲んで飲んで飲まれて……ラム!ララララム!ラララダーリン飲まなきゃ嫌だっちゃ!水商売戦隊『ウォーターガールーズ』にゃ」
アイリの謎のコールに四季はため息付いた。
「別に水商売戦隊『ドゥルキス』で良いだろ。ってか、戦隊ものはやらないよ。美雨と氷芽も気持ちは分かるけど、次のライブが終わってから決めようよ。一番頑張ってくれたし、年齢的にもセイラの引退ライブだからさ」
四季の言葉にセイラは両手を合わせるとウインクをした。
「ちょっと 四季ちゃん。私は引退しないよ。『えるふの国のお花畑出身。セイラ17才です』」
「永遠の17才ですか。あなたは? 実年齢は一番上じゃない。頭がお花畑になってます」
セイラは四季から身体を美雨に向けると、首を横に傾げた。
「エルフは長命だからね。でも、ニンゲンの年齢に換算したら17歳だよ。だから、四季ちゃんの次に年下だよ」
「嘘だね。入店時の面接でマサムネにニンゲンの年齢換算だと20歳。って言ってた」
セイラはまた四季に向き直ると、人差し指を立てて鼻に当てた。
「し~。 何で言うのさ四季ちゃん。でも、ニンゲン換算で20歳はルナルサちゃんと一緒だし。四季ちゃんとアイリちゃんの次に年下じゃん! 氷芽ちゃんも美雨ちゃんもニンゲン換算なら22歳じゃん! 」
「ちょっと。私を巻き込まないで下さいな。美雨だけで良かったじゃないですか? 」
氷芽は知らずに力が入っていたのか、持っていた湯飲み茶碗は凍り付いてしまった。
我関せずで時折ワインを口に含み、タバコを吹かしていたリリムが我慢できずに割り込んできた。
「年齢なんて記号よ記号! このワインと一緒で何年産まれかを表してるだけ。第一、年上なら何だって言うのよ。逆に年下だったら何だって言うのよ。気にするだけバカよバカ!」
その場にいた全員がリリムの言葉に納得しつつも、一番気にしているのは、あなたでは? と思っているかの様な静寂が場を支配した。
その静寂を打ち消すかの様に頭上で眠っているヴィバルディをさすりながら四季が口を開いた。
「ち 因みに、氷芽と美雨はアイドル抜けた後は、どうするつもりだ? 2人でコンビ組んで漫才とかコントでもやってみるか? それとも普通に縁側で茶でも啜ってるか?」
氷芽は少し考えると凍り付いた湯飲み茶碗を置いてから答えた。
「漫才なんて出来る訳ないですわ。そうですわね、エンガワでお茶も良いですが、ヒラメのヒレは高いですわ」
「氷芽。そっちのエンガワじゃないです。猫を撫でながら日向ぼっこしているような、あなたの母国の家屋にありがちな縁側です」
猫の言葉に反応したアイリが猫耳をピクピク動かしながら、隣に座る氷芽に体を擦り付けてきては、正座をしている氷芽の膝に頭を乗せると顔を上に向けた。
「ごろにゃ~ん。アイリ、氷芽ちゃんと日向ぼっこするにゃ」
ルナルサが凍った湯飲み茶碗を両手で暖め、元に戻すと氷芽に返しながら呟いた。
「エンガワでボケたのか、本気で間違ったのか分かりにくい」
四季はヴィバルディから手を離すと腕組みをした。
「確かに! 氷芽と美雨は絶望的に突っ込みもボケも下手だからな。何だ今のは? ゆるふわなボケに、鈍器の様な鈍い突っ込みは? キレッキレとは真逆じゃないか! ドンドンドンキだ」
「べ 別にボケた訳じゃないですわ」
氷芽は自然と膝枕をしているアイリの頭を撫でながら否定すると、四季はニヤリと片方の口角だけを上げた。
「じゃあ。ガチで間違ったんだ」
「氷芽もですが私も突っ込みではなくて訂正です」
美雨も四季に睨みながら答えると、黙っていたセイラが手を上げた。
「あの~ 次回のライブについては……」
「セイラ! ちょっと黙ってて、この2人にボケと突っ込みを教えるから」
セイラはゆっくりと手を下げると同時に長耳はペタンと垂れてしまっていた。
四季は言葉を続けた。
「雪女と九尾狐の漫才とかコント。ってのも良いかも知れない。滑っても、氷芽が吹雪を出せば物理的に寒い。って事で片付けられるし。私がネタを書けば良いし」
「それなら四季も入れてトリオでやれば良いじゃない。雪女と九尾狐と座敷わらし。のコント」
リリムが提案するとルナルサも悪のりを始め、お題を出し始めた。
「コント『浮気』」
四季は咄嗟に美雨を指差した。
「だ 誰よ。その隣にいる白銀の女は?」
美雨はやる気がないのか冷めた目で四季を見つめるだけだった。
「何も言い返さない。って、もう100%浮気じゃない! バカ」
四季はそう言うと美雨の隣で正座をしている氷芽を睨み付けた。
「良くも私の男を取ったわね。この泥棒猫!」
猫の言葉に氷芽の膝枕で気持ち良さそうに眠っていたアイリの猫耳がピンっと立つと頭を上げた。
「にゃ! アイリは泥棒じゃないにゃ」
「きいぃ! あんた。白銀の女だけじゃなく、こんな黒ギャルまで連れ込んでたのね! この白黒2人を挟み挟まれ隅から隅へ、表にしたり裏返しにしたり……いやらしい」
「ハハハ。それ浮気じゃなくて、コント『オセロ』じゃん」
セイラが笑いながら答えると、四季の冷ややかな視線と言葉が突き刺さった。
「空気読め。うるせー奴だ」
「な 何よ。いつまで経ってもライブについて話し合わないからだよ」
セイラ以外の全員がキョトンとなり、互いに顔を見合わせた。
「え? みんな集まった最初の目的忘れてるでしょー。 前にもこんなのあったし。ホントに何なのさ! うわーーーーー」
セイラの魂からの叫びが反響したドゥルキスでした。
セイラのセンターは果たして開催されるのか……
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