第42話 妖怪ドゥルキスの優雅な日常

 今宵の閉店後のドゥルキスは次回のライブのセンターを決めている最中だった。

 四季はテーブル席で頭にヴィバルディを乗せたまま、腕組みをし目を閉じては思案していた。



「どうしよっか。私的にはルナルサか美雨を押したいが」



「四季ちゃん。なんでその2人なの?」



 セイラは今回もセンターになれないのかと肩を落としながら四季に尋ねた。



「いや、その2人は使いづらいって声と、いまいちキャラが立ってないから、ここで目立たせようかと」



「ちょっと待て、誰がボクと美雨めいゆいは『使いづらい』と言っていたんだ?」



 ルナルサの赤い瞳に力強く睨まれた四季は視線を逸らした。



「て 天の声かな……ま まぁ。分からないでもない……気を悪くしたらすまないが、仮にドゥルキスでの人気投票があったとしよう」



 四季はコホンと咳払いをすると自信満々に話を続けた。



「まず1位は座敷童子の私だろ? で2位は氷芽ひめ。3位がアイリかリリム……」



「え? 四季ちゃん。私は? 金髪碧眼エルフの美少女に愛嬌たっぷりの絶対的エース『セイラ』ちゃんは?」



 四季はセイラに目を向けると、ニヤリとした。



「残念だなセイラ。出勤回数が多い割に、お客様から貴様へのコメントは少ない。あっても、『セイラ可哀想』とか『セイラが四季に奪われてる』とか、ポンコツとしか思われてないぞ」



 エルフであるセイラの長耳はシュンとしたまま垂れてしまった。ルナルサは、なるほど。と小さく呟いた。



「ボクは出勤回数が少ないから人気も出ないのか」



「いや、ルナルサは『ガサツ系なお嬢様』も良いと言ってくれた優しいお客様もいたが、今はお嬢様キャラをやってないから、ただの『ガサツ』だ、それで人気が出るか!」



 黙って聞いていた美雨が口を挟んできた。



「私が人気ないのは事実ではないです。出勤回数が多くはないですが、一定の応援も頂いておりますし」



「それは応援というか、婚約破棄された際の同情だ……」



 美雨の鋭い目付きが四季に向けられると四季は黙ってしまった。

 セイラは横に座ってお茶をすする氷芽に抱き付いた。



「氷芽ちゃ~ん。何で氷芽ちゃんは人気あるの?」



 氷芽はセイラを引き離そうとセイラの肩を押した。



「暑苦しいから離れてくださいな。私も人気が欲しくてやってる訳ではありませんわ。『雪女』ってバックボーンが良いのでしょうね」



「え~ それなら『エルフ』って、バックボーンも良いはずだよ~」



 それを聞いたルナルサはパチンと手を叩いた。



「それだ! 『バックボーン』だよ。座敷童子に雪女。人気あるのは間違いない。エルフにサキュバスにケットシー。これも有名どこではある。九尾狐とイフリータ……何それ?って感じじゃないか」



「まぁ。一理あるが百里はない。結局は座敷童子でも私だから人気があるんだ。リリムはサキュバスにも関わらず男よりも女性からの人気がある。アイリは良く分からんが、ルナルサと美雨よりは上かな」



 四季を睨んでいた美雨は独り言の様に呟いた。



「凄い自信だこと」



「アイリ、考えたにゃ」



「アイリは黙っててくれ。ろくでもない事しか言わないんだから」



「むっ 四季ちゃん。アイリを甘く見ちゃダメにゃ。四季ちゃんは河童の三郎とのコンビ。氷芽ちゃんはジャックランタンのデストラとのコンビ。アイリはでぃあちんとのコンビ。コンビがあれば人気が出るにゃ」



 沈黙の後、その場にいた全員が納得の表情をした。



「アイリちゃん。さすが! そうだよ。私が人気がないのもコンビがなかったからだ」



「あら、セイラはガブお姉さまとのコンビがありますわ」



「いや、氷芽ちゃん。あれはコンビじゃないよ……何かご主人とペットみたいな……」



「なら、氷芽。私だって爺やとのコンビがある!」



「う~ん。爺やさんは美雨とのコンビになりそうですわね」



 カウンター席で1人端っこで煙草を吹かしながらワインを傾けていたリリムが口を開いた。



「ようは今が人気なくても、これから人気が出れば良いだけよね?」



「リリムさ~ん。そうだけど、そんなに簡単じゃないよ」



 リリムは煙草を灰皿に押し付けると、テーブル席へと向かってきた。



「何を持って『人気』がある。と言うのか知らないけど、まずは名コンビになり得る客を捕まえる。そして、定期的にそのコンビ相手に通ってもらうのがいちばん早いんじゃない?って、私もコンビ相手なんていないし、いらないけど」



 ルナルサは顎に手をやると考えるように言葉を口に出した。



「なるほど。じゃあ、爺やは美雨に任せるとして、ボクは誰か探さないといけないな」



「爺やさんはルナルサの爺やさんです。ルナルサに任せますので私が探します」



「いや、それは申し訳ないから、爺やは美雨が遠慮なくコンビを組んでくれ。ボクは大丈夫だ」



「いえいえ、私こそ大丈夫です。幼少の頃からのお付き合いですから、ルナルサがコンビを組むべきです」



「いや、ほんっと~に 大丈夫だから。寝過ごしたけど、今日は日曜で休みじゃん。って位に大丈夫だから!」



「そんなそんな。私だって銀行がなくてもコンビニで返せるから大丈夫!って位に大丈夫です」



 四季がヴィバルディに合図をするとヴィバルディは、ルナルサと美雨の間に小さい雷を落とした。2人が驚いてる間に四季が話してきた。



「美雨が冗談を言うのは珍しいな。それだけ爺やとのコンビが嫌だったのか。取りあえず次のセンターは『美雨』にしよう」



「あっ センターを決める話だったの忘れてたね」



 セイラは恨めしそうに美雨を見つめた。



「曲は出来てるから後で渡す。詞だけ作ってきてくれ。美雨のセンターを見て爺や以外にもコンビになる客がいるかもしれない」



 いつにもまして憂いを帯びた美雨の表情があった。美雨のセンター初ライブはどうなるのか。

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