第22話 セイラの奇妙な証言

 出始めからセイラは斜め前の四季と接触してしまった。ただ、そこからの四季のパフォーマンスは神ががっていた。



「ーーねぇ起きて 眠らせないのはわがままじゃなくておねだり 意地悪じゃなくて悪戯 ぜーんぶ君のせい♪ ねぇ気付いて 見えてるんでしょその可愛らしい小さな足跡 夜に回す糸車 ぜーんぶ君のため♪ 」



 四季の歌声はもちろんのこと、ちょっとしたターンやジャンプに手足の指先までもが客を魅了するには十分な圧倒的オーラがあり、産まれ持ったアイドルの素質だろうが……時に残酷なもので才能は何十年の努力を一瞬で凌駕してしまうのである。



 細かい技術だけで言えばアイリの方があったのだろうが、表現力を含め客の視線が集中するのは四季であった。



「超絶可愛い四季ちゃ~ん」


 カウンター席で見ている客が示し合わせたようにコールを始めた。四季は一生懸命に踊りながらも、手を振る余裕まで見せていた。



「ーーホントは童から卒業したいんだよ あなたと釣り合うような大人になりたい♪ いつまでもピュアだなんて思わないでね 心に秘めた思い君を挑発してるんだよ♪」



「ーー私からは『サヨナラ』は言えないから、忘れないでね。ずっと 待ってる君を……」



 曲が終わると同時に店内にはどよめきにも似た、大喝采が響き渡った。




「今日はありがとうう! 『ドゥルキス』は定期的にライブをやるから、友だち連れて遊びに来てね。じゃあ。いっきますよ~春夏秋冬、どれが好き~?」



 四季が耳に手を当て客を煽ると、凄まじいレスポンスがすぐさま返ってきた。



『『ぜ~んぶ』』



「そう、『『四季が好き~』』ほんと、今日はありがとう! またね!」



 四季はマイクを置くと控え室へと先ほどと変わってクールに去っていった。残された6人は、何事か起こったのか理解できずに呆然と立ち尽くしていると、声援が聞こえてきた。



「俺は誰が何と言おうと氷芽が一番だ!! 完全にリズムに乗れてなかったけど、そこも可愛いぞー 結婚してくれー」



「私は胸のアイリに? いや、アイリの胸が弾む度に心が弾んだぞ!」



 デストラとディアボロス始め、客には元からのを含めて、新たに押しメンが出来た。



「みなさまありがとうございました。ここからは通常営業に戻りますので、引き続き、ごゆっくりと楽しんでいって下さい」



 マサムネが話すも、熱気の余韻が店内を漂っており、各キャストに通常の倍以上のドリンクが殺到した。

 残っていたキャスト全員も控え室に戻ろうとしている所にマサムネが声をかけた。



「ご苦労さん。いや、感心したよ。お前ら本当に自主連とかしてたんだな。売上UPにも繋がるし、口コミでの宣伝にもなるし、素晴らしい」



「そんなに練習なんてしてないよ。曲だって最初に決めてたのと違うし、四季ちゃんが歌った曲何て知らない、そもそも四季ちゃんが、あんなに歌も躍りも出来るなんて……これ美雨ちゃんに化かされてないよね?」



「狐だからって簡単には摘ままないわよ」



 セイラは後ろを振り返り美雨に話し掛けると、美雨自身もまだ理解できてないのか、珍しくボンヤリとしていた。




 控え室には四季が既にいつもと変わらない感じで椅子に座っていた。



「四季ちゃん。どうしちゃったの? あんな事が出来るなんて聞いてないよ」



「分からないけど、出始めにセイラと接触した途端にスイッチが入ったかな。何か疲れちゃったから少し眠る」



 四季はそう答えると、机に突っ伏してスヤスヤと寝てしまった。



「接触・・・ え? もしかして。いやいや有り得ない。でも、そうとしか」



「何、一人でブツブツ呟いて、気味悪いですし狭いところで迷惑ですわ」



 鏡に向かってメイクを落としていた氷芽は、控え室を行ったり来たりうろたえているセイラに注意した。



「分かったかも。四季ちゃんの凄かった理由!」



「アイリよりダンスでも目立ってたよ~。なんで? なんで?」



 突然セイラが叫ぶとアイリが、不服そうに言葉を口にした。



「前に弓矢で四季ちゃんの頭上を狙った時あったじゃん。その後疲れて、私寝ちゃったんだけど、その時に何か言われてたんだよ」



「何を言われたのですか?」


 美雨が話を急かす様に、身を乗り出すように聞いてきた。



「その時は所々しか分からなかったけど、多分こう言ってたんだと思う。『セイラおきなさい。あなたにシキにあたえるスキルをあずけます セッショクルト シキニスキルガウツツリマス)って」




「どういうことだ? あの弓矢が関係あるってこと?」



 ルナルサは考え込む様に腕組みをしながら答えた。



「分かんないけど、それしか考えられないよ」



 全員を見渡してセイラが言うものの、誰もが納得はしていない表情をしていた。



「アイドルはアイドルとひかれあう……むにゃむにゃ」



「何ですか、突然? 四季の寝言のようですわね。紛らわしい」



 氷芽は驚いたが四季はまたスヤスヤと寝息をたて始めたので、化粧を落とすことに集中した。

 アイドルグループ『ドゥルキス』のお陰で今日の売上が大分良かったのか、マサムネは閉店後も終始ご機嫌だった。それは先日に遅刻をした罰として後掃除をやるはずだったルナルサを帰宅させた事からも伺える。



「いやぁ。今日は凄いな。四季、アイドル向いてるんじゃないのか?」



 全キャストが帰宅した後にマサムネと四季はカウンター席で祝杯をしていた。



「向いているかは分からないけど、凄い楽しかった」



 マサムネは四季に牧場ミルクをコップに注ぎながら褒め称えた。



「いや、向いてるって。本当のアイドルみたいだったぞ」



 四季は控え目に笑うと話はじめた。



「普段は人に見られる事が少ないから、存在しているのに、ないものとされて来たから……親に殺されて、私なんていない方が良いんだ。って思ってたから」



 マサムネは四季の頭をなで始めると、四季は涙を我慢しているのな小刻みに震え始めた。



「誰かに見てほしかったんだ。ここにいるんだよ。気付いてよ。って……そしたらアイドルって自分の存在と真逆だから憧れちゃったんだよね。ひそかにアイドルのPVや曲を聞いて、真似事を一人でずっとやってみたりしてさ」



 四季は堪えきれずに涙を流し始めた。



「私もアイドルになれば、少しは見てくれるのかな?って、ファンに元気や勇気だったり癒しを与えたいんじゃなくて、私が一番貰いたかったんだ。アイドル失格だよね」



「動機は何でも良いんじゃないか? お前の姿に今日の客は感動してたのは間違いない。それはお前が起こした事で、誰にでも出来るってもんじゃない。お前はお前が思ってるより、みんなに好かれてるぞ」



 四季は垂れてくる鼻水も気にしないほどに泣くと、ばつが悪そうにマサムネに告げた。



「絶対に今日、泣いたって事は言わないでよ」



「言わねーから、安心して泣け」



 四季は暫く声を上げて泣き続けた。




 翌日の開店前のドゥルキスではキャストの間で、四季がドルオタだった事が判明し、その話題で持ち切りだった。セイラの証言は無かったことになっていた




「マサムネーー! 貴様、昨日言うなと念を押しただろーが」



 マサムネは意地の悪い笑顔を浮かべた。



「泣いたって事は言ってないぞ。ドルオタだって良いじゃないか。何かにハマるって事は素敵だと思うぞ。あと、マサムネじゃなくて店長だ」



「私はキャストじゃないから、マサムネだ!」

 四季は両腕を回しながらマサムネの腹にパンチを決め出した。




 さぁ、無駄に長いアイドル編も終わり、今日も元気に『ドゥルキス』開店です。

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