第21話 花咲くひとは

 ゲリラライブ当日になり『ドゥルキス』は開店時間前から珍しく全員が出勤していた。そして19時を迎えると、ドアが開き元魔王のディアボロスが入って来た。



「久しぶりだな、マサムネ」


「いらっしゃいませ。ディアボロス、元気そうで。カウンター席に座って下さい」



 ディアボロスはゆっくりとカウンター席に座ると、カウンター越しにはアイリがおしぼりを持って立っていた。ディアボロスは視線を上げる事もなく答えた。



「む。このけしからん胸はアイリだな」



 アイリはニッコリ微笑むとおしぼりを手渡し、嬉しさからか猫耳がピクピクと動いていた。



「あったりぃ~にゃ。さすが、でぃあちん。元気だった?で、何、飲むの~? 私はカルーアにするぅ」



「相変わらずだな。最初はブランデーをロックで頼む」



 アイリはマサムネから、カルーアとブランデーを受けとると、ディアボロスに渡した。



『かんぱ~い』



「でぃあちん、今日は面白い事あるからぁ、アイリのギャップを楽しみにしててにゃ」



 グラスを傾けながらディアボロスは優しくアイリの胸を見つめた。



「ふっ。私もガン見が出来るまでに成長したか。語尾が変わってきてる様な気もするが、まぁ。可愛いから良いか。それに今年初めのおみくじの内容が素晴らしくてな。見てくれ」

 

運勢【吉】ツイッ◯ー運勢占い


願事 おっぱ◯の助けありて叶うかも

待人 ◯っぱいは来ぬ

恋愛 ◯っぱいは振り向かぬ

旅行 いざおっ◯い

病気 お◯ぱい中毒に注意

失物 お◯ぱいを失う



「凄くないか?これを見たときは、さすがの私も震えたよ」



 ディアボロスはポケットから、携帯を取り出し逆にすると、アイリに見せるためにカウンターに前のめりになった。


「良いのか悪いのか分かんないねぇ。おっぱい。しか書かれてないにゃ」



 アイリも携帯を覗くために前のめりになると、お約束の神々が作りし、アイリのへぶんずばれーがディアボロスの目に入ってきた。



「もはや世界遺産ではきかない銀河遺産だ。アイリ、君のおっぱいは宇宙だ。悠久の時を経て、果てなく膨張を続けては全てを飲み込み、そして産み出す。破壊と再生の根源なのだ……」



 ディアボロスの話はまだ続きそうだったが、新たなお客様の登場によって遮られた。



「デストラ! 嫌がらせをしに来たのですわね?」



 バックバーで待機していた氷芽は、ドアが開き入ってきたデストラを見るやいなや、すぐに牽制し出した。



 両手を後ろに隠しながら、一直線に氷芽の真っ正面のカウンター席までデストラは早歩きでやって来ると、隠してた両手を差し出す様に前に出した。



「お お前に やる!」


 両手には握られた赤いバラが、デストラの心を表してるかの様に何処か不安気に、それでも存在を誇示するかの様に精一杯に立っていた。



「今は1本しかないけど、次は12本持ってくる。そして次は99本。その次は108本いつになるか分かんねーけど、最後は999本やる! ……今は経済的にもこれだけしかやれないから、すぐに枯れちゃうかもだけど…………」



 デストラの声は、だんだんと小さくてなっていった。

 氷芽はため息を付きながら控え室へと向かった。



「やっぱり、ダメか……」



 デストラはバラを握り締めたまま項垂れていると、氷芽が戻ってきた。手には大きいグラスとビンを持っていた。



「このビンは消毒用のエタノールですわ。これをグラスに注いでっと……」



 氷芽はそのままデストラがバラを受けとると、グラスの中に入れた。



「あっ。俺のバラなんかいらないってのかよ!」



 怒るデストラに氷芽は一瞥すると、グラスを両手で包み込み力を込めた。グラスからは中の様子が分からない程に白い煙が溢れてきた。



「加減が分かりませんね。この位で良いかしら」



 氷芽はグラスから両手を離すと、白い煙の中に手を突っ込み、バラを取り出し、確認すると、デストラに見せるように差し出した。



「上手くいったじゃない。ドライフラワー、これで暫くは枯れる心配はないわ。でも、私は君以上に短気ですからね。出来る限り早くしないと勝負にもなりませんわよ」



 氷芽はバラを片手に持ちなおし、デストラにウインクをした。デストラは目を丸くさせると、大声で叫んだ。



「うぉぉぉ。氷芽!! 俺、すぐに稼いでまた持ってくるよ。好きだーー」



「暑苦しいのは苦手だわ。バラを999本持ってこられてからが勝負ですわよ。今の君の立ち位置は勝負する以前ですわ」



 デストラの耳には入ってないようで、勝手にカウンター席に着くと、初対面であろう隣のディアボロスに絡み始めた。



「みた? 俺のバラを枯らさないようしてくれたよ。あれは俺の事をいつまでも待っている。って、事だよな?」



「知らん。私は胸のアイリしか見ておらん……ん? アイリが胸で胸がアイリ? と、とにかくおっぱいは正義だな。お前も何か飲め、おごってやるぞ」



 ディアボロスとデストラが噛み合ってない会話で盛り上がりつつ、じょじょにお客様も増えて来てはテーブル席まで満杯になった。



「マサムネ! どうしよう?こんなにお客様いると、逆に踊る場所ないんだけど」



 テーブル席で接客をしてたセイラは、飲み物を取りにバックバーに来てはマサムネに問い掛けた。



「まぁ。もともとカラオケはあっても、ステージ何て用意してないからな」



「えー。せっかく、今日も皆で早めに集まってフォーメーションとか頑張ってたのに!」



「急ぐ事ないだろ。考えてみろ? 客が多く来るためにアイドルをやる。ってだけで、客が多く来ている今はやる必要もないんじゃないか?」



 セイラはお酒を受け取るとマサムネを睨み付けてから勢いよく言葉を口に出した。



「ホビロン! 私、輝きたいんです。ボンボリたいんです!!」



「汚ねっ」


 マサムネはセイラの飛んできたつばを袖で拭いていると、セイラは一言残してテーブル席へと戻っていった。



「ホントにびっくりする位に論外!」



「なんなんだ、あいつは?何を言っているのか分からん。ってか、メガネ拭きてぇ」



 酒を作り終えたマサムネは、メガネ拭きを取りに控え室のドアを開け入った。



「ジャーマネ。今日の客の入りはどんな感じ? あと、ミルクが牧場ミルクじゃないけど、どうなってんの?私、牧場ミルク以外は飲めない。って言ってるよね?」



「お前、いないと思ってたら、ここで何やってんだ?しかも、座敷わらしから口裂け女にキャラ変か?」



 控え室には、椅子に座り鏡に向かってメイクをしている四季の姿があった。



「アイリにメイクは後でして貰うわ。それより私たちの出番はいつよ? テッペン越えのケツカッチンでチャンネーがシースーよ」



「分からない言葉を無理に使うな、余計分からん。セイラにも言ったが、満卓で踊る場所がない」



 鏡越しに眼鏡を拭くマサムネと四季は目を合わすと、笑顔を浮かべた。



「場所がない? 笑わせてくれるわね。なかったら、作れば良いじゃない。ジャーマネ、私が指を鳴らしたら照明を私たちにしか当たらない様に消して、曲を掛けてちょうだい。曲はこの携帯から流してくれれば大丈夫」



 四季は椅子から立ち上がると、携帯をマサムネに渡した。そのまま控え室を出てバックバーに壁かけてあるマイクを持ち、一席だけ空いてあるカウンター席に立ち手を振った。



「みんな~。今日は『ドゥルキス』に来てくれてありがとう」



 バックバーで接客をしていた美雨が背伸びをし慌てて、四季に耳打ちをした。



(辞めなさい。お客様が多くて場所がないじゃない)


(客が多いからこそやるんだよ! 場所は見てなさい)



「突然で驚かしちゃったかな。てへっ。今日は私たちキャストによるアイドルグループ『ドゥルキス』の初ライブだよ~。だ・か・らテーブル席に座ってる人、テーブルを端に仕舞ってカウンター席まで移動して」



 テーブル席に着いていたお客様からも、歓声と期待の声が上がり、自主的に場所を作ってくれた。



「何か分からねーけど、面白そうだな!」


「俺はアイドルオタだから見る目は厳しいぜ」



 四季は様子を見ていたが、大方、場所が出来上がって行くと、お礼を述べた。



「みんな大好き~。手伝ってくれてありがとう! あっ。因みに今からのライブは強制的に1ドリンク制だからね。よし、キャストは全員、そこの場所まで集合よ」



 四季はポッかりと出来た場所を指差すと、待ってた、と言わんばかりにすぐに集まるもの、足取り重く時間を掛けて進むものがいたが、四季をセンターに後ろにセイラとアイリ。その後ろに美雨・氷芽・リリム・ルナルサが控えた。 



 四季は鳴らない指を頑張って五回は挑戦したが、鳴らなかったので、指を鳴らすと同時に舌打ちをして、マサムネにアピールした。





 店内の照明は一気に消えてから、四季を中心にライトは当たり、曲が流れ始めた。


「さっ。みんな、一花咲かせましょう」



 四季の一言が合図かの様に、ダンスが始まった。伝説として語り継がれるアイドル『ドゥルキス』が産声を上げた瞬間である?

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