第五十五話 新たなるターニングポイント? 物語の糸は、ここで紡ぐのだ。
……糸を紡ぐ。
遥か昔に、切れた糸。
想い出という名の糸。
俺は探していたのかもしれない、その糸を繋ぐために……
そう思ったのは、脳を過る瞬間。
本当に束の間で、何故そう思ったのだろう?
……きっと、
泣きじゃくるこいつの顔が、そう思わせたのだと思う。
――
それがこいつの名。中庭の大樹の下で俺は言う、こいつに物申す。
「ミズッチ……いや、
「保健室?」
涙を拭きながら俺を見る海里、上目遣い潤んだ瞳……ドキッとしながらも、
「ああ、保健室」
「じゃあ、君が連れて行って、保健室」
と、海里は素直に返事をしてくれた。それが何よりの救いだ。
そして一緒に歩く。
二人三脚ほどに足並みが揃っている。気が付けばもう中庭から校舎内だ。光と影のワルツを目の当たりにしながら廊下を進む。保健室は一階、すると鉢合わせだ。
――ミズッチと。
よりによってこんな時に……
「君たち、もうすぐ授業だけど、どこ行くの?」
「こいつ……じゃなくて、海里さんが具合悪いようなので、保健室へ連れて行くとこ」
……ごめん、ミズッチ。
ちょっと、誤魔化した。
「そうだったの。
「ああ」
ミズッチと別れて、俺たちは保健室に入った。距離にして一分ほど……でも俺には、その三十倍に感じられた。そして室内には先生も、生徒もいなくて俺たち二人。
いつの間にか泣き止んでいる海里……
俺は目のやり場や、どう声を掛けていいのかも悩みながら、
「取り敢えず、ベッドに寝ておこうか……
保健の先生もいないし、俺、暫くいるよ」
「……ごめんね、君に迷惑かけたみたいね」
「おいおい、何しおらしくなってるんだよ。調子狂うだろ……って、あっ、いやいや、それに何だか、俺がお前を泣かせたみたいだから、その……お詫びだよ」
「ウフフ……そうね、お互い様だね」
と、さっきまでこの世の不幸をいっぺんに背負ったような表情で泣いていたのが、驚くほどにケロッと……『おいおい、誰のおかげで俺は』という具合にムカッときて、『余計なお世話だ』と言いたいところだけど、もはや言う気にもなれずで……
まあ、兎に角だ、海里をベッドに寝かせた後、俺は保健室のドアを閉め忘れたことに気付き、その近く……ドアの近くまで足を運んだ。すると、何かカサッと踏んだような気がして足を除けると、手紙? らしきものが落ちていた。
手に取り、その手紙らしきものを見ると、……俺宛のようだ。封筒が薄いピンクでハートの柄。中の紙まで同色の……恋文? のような趣で、しかし書いてあったのは、
――波多氏上。
なんのこっちゃ? はた、しじょう……ええっ、果たし状!
達筆だけれど、
いきなり漢字を間違えている。
で、俺は徐に中身を見る。……読む、黙読する。
『
深読みするも……
…………? 意味はわからないが、このままでは埒も開かないだろう。
「未来君、どうしたの?」
ヌッと俺の背後に、確かベッドに寝かしたはずの海里が近づいていた。
ギクッとなるも、「のわっ!」と、悲鳴を上げることを免れながらも、
「な、何でもないよ。それより保健室の先生がまだ来そうにないし、俺、次のアマリリスが鳴ったら、ここ出るから」
「そんなあ、ここにいてよ」
と、俺の腕を掴み、海里はまるで子供のように駄々を捏ねる。
俺は思わずプッと大笑いしそうになったけど、何とか耐える。
「ちょっとの間だけだよ。それにまた来るから、大人しくしてるんだぞ」
「……うん。なるべく早く来てね」
と、海里が言ったのと同時に、アマリリスが鳴った。
思えば、海里が俺のことを「未来君」と、名前で呼んだのは初めてだ。
……そのような気がした。心の片隅では、彼女の存在が特別なものに……いや、それはだな、日本の学校生活が初めての彼女の面倒役を、ミズッチに頼まれたから。
……そう、それだけのことだ。
ならば、彼女を守ること。それもいいだろう。
そして、いざ出陣!
アマリリスが合図、その合図だ。
夕映えと近づく午後の風景をバックに、俺は静かに保健室を出て知の新館。
知新館へと歩みを繰り広げる。爽快かつ軽快な趣ではなく、しっかりと地に足を着けて歩くというイメージ。知新館は食堂と隣接している場所で、少し離れた場所。
【早坂海里の視点】
それからそれから、お話は続くの。
まだこの場所から、保健室からの。
少しばかり眠っていたみたいで、少しばかりの眠り姫の刻も満喫したから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます