第三十四話 時系列を超える旧号の願い。その回想は未来へ繋がる。


 ――くどいようだけど、まだ少しの間、回想は続く。


 でもな、明日の世代へつなげるためには、必要なエピソードたちだ。

 俺は、そう信じる。


 だからだな、回想といっても、侮ってはならない。これでも二〇一五年の時間の流れと同様に、並行して音を立てながら休まず、未来に向けて進み続けている。


 だれが何と言おうと秒針を右回りに、未来永劫に刻み続けるのみなのだ。



 ……響く銃声。


 そして俺は、ついに最終回を迎える。……そう思った。迎えたくない瞬間でありながらも心の何処どこかでは、まるで夢を描いたように期待し、快感にも酷似する瞬間に思えた。


 回を重ねるごとに情報屋の仕掛けは難易度を増し、エスカレーターのように相手も手強くなってきた。いつ返り討ちに遭ったとしても、おかしくないくらいに……。


 だけど、

 けれども、それが愉快だった? もっと別の表現もあったかもしれないが。


 ……まあいい、今は静かな刻だ。


 白い天井を見ながら、脳が起きているのか眠っているのか、その境界線も曖昧な中での語りだけど、君は聴いてくれるのか? それなら、俺は前に進めるような気がするし、きゅうニイの心だって、きっと喜んでくれる。そんな気もするのだ。



 ――そして一つの雄叫おたけびがあったそうだ。「なぜ学園に血が流れるんだ?」との一言の雄叫びが……その一言を発したのは、初子はつこ先生だったそうだ。


 八七年、または昭和の六十二年だ。第一子の誕生を迎えてすぐだったそうだ。俺たちも知らなかった先生の思い。そして先生の、その言葉の意味を……。


 それはまた、旧ニイの願いだったのと、時系列を飛び越えつつ、

 恥ずかしながらもっと後で知る事になる、例えるなら九月一日の新学期……無理して来なくていい。また元気に、明日も笑えるようになってからでいい。


 あの時、消えたのは、

 きっと、そのようなことを、伝え終えたからなのだと。


 ……俺の場合は、

 やはりこの病院で、この体中から二発の銃弾が摘出されたことだ。その摘出された二発の銃弾こそが、その真実を物語る結果となった。学園には多大な迷惑をかけたが、警察も本格的な捜査に踏み切った。仁平じんぺいは初子先生と力を合わして全面協力……すると、隠蔽されていた真実が次々と発覚。情報屋稼業も明るみになってしまうが、それと引き換えにはなるが、久保くぼが反社会的勢力と繋がりがあるということを、表の光にさらけ出した。


 ……そう。少しばかり時は経ったが、

 教師生命を絶った上で、犯罪者というレッテルを貼りつけたのだ。


 そして学園の歴史的な不祥事に、当時の校長と教頭までもが去り、

 しばらくは路頭に迷ったが、春を迎えた頃と思われる。初子先生が教頭になったということを、風のうわさ? いや、戦友たち大切な仲間が俺に伝えてくれたのだ。



 とはいっても、その前に俺は、


 ……そうそう、まだ回想中だ。前回の続きだな。まだ点滴がぶら下がっている、二種類ほど。左腕の関節部分には針が。両脚に力が入らず特に脹脛ふくらはぎより下。時期に治るそうだが暫くは、ここから動けず入院で、車椅子の生活で、って……。



「おいおい鬼の霍乱かくらんか?」

 と、いつの間にかみつぐは、俺の顔を覗き込んでいた。


 わわっと通常は、ここで焦るはずなのだが、……それどころではなくて、何故なにゆえか涙が溢れていた。溢れるどころか止まらなくなった。馬鹿みたいに流れて、


「……ごめんな」

 と、何故なぜだかつぶやくばかりだ。


 貢は、女の子をあやすようにポンポンと、俺の肩を叩いた。


(こいつは――いつもリンちゃんに、こんなことをしているのだろうか?)

 と、かすかながらに思いつつも、


「初恋は憧れ。実らないものだよ。見た目もね、セカンドが丁度ちょうどいいの。遠慮しなくていいんだよ。あたしが面倒見てあげるからね」


 などと、佳子が締め括る。ここぞとばかりにショートボブの丸い顔を、満面な笑顔にして迫ってきた。ここが病室だということも忘れたのか、構わず抱擁。小柄でも弾力のある体で、大柄な貢を押し退けて抱擁。ということで、キスキスキスだ。


 更に接吻、口づけ、チュウ……。


 そんな佳子の唇と体温を、

 ……何と、まとめて受け入れる俺がいた。



 すると、白き台の上からポンポンと、


 通常よりも重たいサッカーボールが、――遊び心ありきだが、情報屋の武器用として魔改造を施していた。誰のため? ……もう正直に言おう! それはわからなかった。今なら母のため。そして想い人……リンちゃんを守るため。それだけど思っていたけど、同時に我が青春だった。その中でも一番よく使用した武器の鏨も、旧ニイの願いとともに時を超えて、それを象徴としたアイテムだ。――知られざるその思いも乗せて、涙とともにあり得ない勢いでボールは跳ね、白い世界へと誘った。


 まるで魔法少女。子供から大人へ変身……と、いうわけではないのだが、涙を見せたがために、青春の一ページを捲るという類のニューアンス。また時系列を飛び越えるという場面の一部始終を、目の当たりにすることとなった。



 あくまで例えるならだ。――実は自己最高の一時間という記録の果てにリフティングの失敗。ときシリーズ二章目の十話にも及ぶ長き回想想い出は終幕を経て、その先には、その転がるボールを、そっと拾い上げる奴がいた。よし! 頭が『そ』の三段活用を披露した。


「まだ、少しばかり重いな……」

 それが奴の感想だった。


「まあ、少しは軽くなったよな」


 と、俺は言う。……そう、軽くなった。お袋との距離感。三十年の時を経て、溝も浅くなったような気がする。そんな俺は、この場に立っている。同じレベルで、同じ意味だが対等に、奴も……貢も立っている。戦友という名のもとに。


 ――そして、夢ではないのだ。

 その隣には、リンちゃんがいる。俺には生涯で初の、夢の共演だ。

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