第三十二話 粉雪が舞い散る夜、……衝撃のラストを迎えた。
寒い日の夜だ。雪がちらついている。
校舎の陰から、約十メートルの距離を保ち見つめている。……これが、俺に許された距離。
彼女は、俺の想い人。
彼女は芸術棟の前にいる。フミフミと小さな足踏み。コートは着ているけど、見るからに寒そうだ。それでも見上げている。星空を仰いでいる。……待っているのだ。
想い人を。
俺は、彼女の想い人にはなれないようだ。
だからこそ、『馬鹿野郎!
俺を出し抜きやがって。かっこつけてんじゃねえよ……』だ。
――あいつは行っちまいやがった。
だったら
でも相手がヤバい。……今度のは『
あいつは……
夜霧を裂きながら、敵陣に向かって行く。
――決めた。
いい機会じゃないか。俺は今回をもって、情報屋を辞める。
『
それから僕の想い人リンちゃん、待っててね、
君の想い人、早坂……ではなく
――走る。
俺は走る。あいつらと同じように、粉雪を払い除けながら走るのだ。
イメージは、バラード調のインストールメンタル。
盛り上がる演出。ドラマとかでよくある大きな倉庫。ここが現場、仕掛けの場だ。音羽の指示で
「仁平、貢は?」
「ほお、
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう、どうなんだ? 無事なのか?」
「血相を変えなくても無事だ。……お前にしちゃ珍しいな。もう潮時か?」
「ああ、その気だ。道連れ付きだけどな。最後の依頼があってな、あいつの首根っこ
間は置かれたが、
「だったら俺もだ」と、仁平が、
「それから、あたしも」と佳子も、そう答えた。みな笑顔だ。
――仁平は言う。
「貢には十分、時間を稼いでもらっている。佳子には、さっき警察を呼んでもらった。俺は
「……そうか。友の仇が討てるんだな」
「ああ、今日で終わりだ。だから、お前には貢の援護を頼みたい」
「合点承知よ。リンちゃんと約束したんだからな」
仁平は驚いた。
「お前、リンダさんと
「んなの、あるわけないだろっ! テレパシーだよ、テレパシー」
……無論、俺は超能力者でもない。
倉庫の鋼鉄の扉を正面とするなら、左の窓には俺。右側には仁平が待機する。佳子は警察到着時の第一目撃者としての役割を担ってもらう。よし! これで決まりだ。
――すると、久保の持っている銃が、貢の額に突き付けられていた。
おまけにだ、久保と同様に銃を持った男たち五人に、囲まれていた。……これって、絶体絶命というものではないのか? ああっ、悠長なことをしている場合じゃなくて、
一刻の猶予もない!
「ふっ!」と掛け声。その瞬間にもボールを蹴り上げた。俺の遠距離戦といえば、サッカーボールだからだ。見る見るボールは高速回転化し、窓ガラスを突き破った。響く銃声にも負けず、ボールは球威を保ちながら、久保の顔面を捉えた。直撃した。
不意を突く攻撃。早坂……やっぱり貢は、メイクなしでも風と同化した。『
もうすぐクリスマスだ。イブの夜も近い。
久保は八割強の確率で、その日を刑務所で過ごすことになるだろう。だからこそ正義でなくても
白い
久保は、拘束の闇に落ちる。仁平は「
誰もが涙した。
情報屋稼業は、この瞬間をもって幕を閉じたのだ。
それでもこの倉庫付近に、警察は到着するのだが、佳子は『ただの第一目撃者』となって、立派に最後の任務を果たした……という。もう思い出になるのだ。
仁平と佳子とは現場で別れた。それでも俺は走って……いたはずだ。
――なのに、
粉雪程度でも寒いはずなのに、
フッと脚の力が抜けた。今は夜の情景のはずなのに、
見えるものは真っ白だ。スーッと静かなる、涙にも似た感触を覚えた……。
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