第二十四話 国際的な問題? 勉強不足を、物語は待たずに進展しちゃった。


 五階の五〇二号室から一階の一〇一号室まで全十室が共通の、九棟の出入り口。


 郵便受け……というよりも、正確には集合ポストともいうべき場所から少し出た所のアスファルトは、ひんやりとは程遠く、ぬるい風までもがあおっている。その中をエンジェルリングまばゆい黒くて長い髪と、半袖の白いワンピースをなびかせつつも、『鬼の形相』で、女の子がそびえ立っている。……と、そう言いたいところだけど、



「フン!」

 と、ふくれ面。


 ――見た目は、結構……可愛かわいいから、まあ、その程度にしといてやるか。


 我ながら『It's a girl-friendly principle.』

 という具合に、恭平きょうへいを上回った。これをもって俺は、ただの『自己中』ではなくなったのだ。何と『ナルシスト』の要素も加わって『パワーアップ!』……って、


 ああっ、もう好きにしてくれ!


 と、脳内では『Desperate Give Me Chocolate Pose.』だ。


 それでなくても英語は苦手なのに、

 ……そんなことをしている間にな、もう女の子は何処どことなりと行ってしまったぞ。



 俺の右手は、

 ムニュッとした感じを、ハッキリと覚えている。ミズッチほどではないが、正面衝突をした拍子に、女の子の柔らかい部分を触ってしまったようだ。


 言葉はわからない。


 多分、英語だとは思うけど……勉強不足は否めない。そのため、弁解する余地もなく怒らせてしまった。国際的な醜態を此処ここさらしてしまったのだ。


 何か、落ち込むなあ……。


 それでもってオマケにな、

 このタイミングで「どうしたの?」と、聞こえてくるのだ。


 それはそれは、とても懐かしきお方・・の声で、


(同情するなら、新しきプラモデルをくれ)と、そう思えた。……否、そう思いながら・・・・・・・も胸中で、そう言い直しながら・・・・・・・・・も、ヌッと現れた彼女の顔を、下から見ることとなった。


 ――おお、懐かしき懐かしき!

 と、脳内で繰り返すことにより間を持たして、その果てに「よお」と、声をかけた。


日向ひなたぼっこ?」


 と、彼女は目を丸くするが、その言葉の前には(そんな所に寝転がって)が、省略されているのだ。それさえも『阿吽あうんの呼吸』で理解できるほどの関係になったのだ。


「……まあ、そんなところかな」


「ねえねえ、それよりも『ヒロスト最新版』やろうよ。ここよりも、未来みらい君のお部屋の方が最適だよ。……それにね、見せつけてやるんだから」


 って、おいおい、

 何をそんなに熱くなってるんだ?



「今日はサタデーだぜ、彼氏はいいのか?」


「いいの! ヒロストしたいんだから」


 見ての通り、ふくれ面だ。

 まだ脈あり……かな? 内緒だけど浴室で、裸の付き合いできる仲だしな。……それにな、同じふくれ面でも俺の中では、やっぱりミズッチの方が可愛い。


「はは~ん、彼氏と喧嘩けんかしたな?」


「べ、別に……」


 図星のようだ。

 嘘は下手。ミズッチはすぐ顔に出るタイプだ。まだ大人とは違う。


 だからこそ、


「条件がある」


「な、なあに」


 動揺するミズッチを目の当たりに、

 そう。今度こそ『打倒・タイガー!』だ。俺が主導権を握るのだ。


「昼飯も付き合え。俺のプラモデルも見ろ」


「いいの?」


「お祖母ちゃんが大量のソーメンを作ったみたいなんだ。俺とお祖母ちゃん、二人で食い切れないから手伝って欲しいんだ。ミズッチはいつも腹ペコだろ?」



 ……あっ、からかいすぎた。


「失礼ね、わたしはそんな大食漢じゃない!」


「わ、わかったから、そんなに胸を押しつけないで」


「本当に?」


「ほんとほんと、ごめんなさい」


 という具合に、呆気あっけなく撃沈。意図も簡単に主導権を握られた。まだまだミズッチにはかなわないようだ。しかし、これをきっかけに、ヒロストで精進することが決心できた。


 そして、ミズッチの次の台詞せりふは、


「ウム、わかればよいよい」

 ……のはずだったが、一味違って「あれ? ときさん……お父さんは、まだ帰ってなかったの?」と言ってくれたことで、やっと父の存在を思い出したのだ。


「そういやまだ帰ってないな……」

 その途端、ミズッチの表情が変わり、


「探そうか? お父さんも一緒にソーメン食べるんでしょ」

 と、訊いてくるから、


「大丈夫。ああ見えて親父は気紛きまぐれだから」


 そう答えて、俺は一昔前のトレンディードラマ風な、ジーパンと純白なTシャツという姿のまま、ようやく上半身を起こして……。



 パコーン!


 と、気持ちいい効果音とともに、火花を散らした。


 多分……お約束といえば、あまりにも当てはまりすぎだけども、起き上がる俺と、覗き込むミズッチとの、お互いの顔が接触……キスというにはあまりにも痛い激突! 額と額がぶつかった。で、感想はといえば、実はあるのだ。


「とんでもない石頭だなあ……」


 それはミズッチ。……ああ、俺はまた、気持ちいいくらい地面に倒れた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る