開戦
まずは二つの骨の砲塔からそれぞれ俺とフミカを狙って極彩色のエネルギー弾が放たれる。俺はそれが出た瞬間には射線上から離れるように駆け出し、祭壇にいる妖艶な美女の姿となったチェルノボルグに向かって走り出す。避けた後に一瞬見たフミカの方は得意のバリアで無傷のように見えた。
――何故貴様らは戦う? 他者のためというにはまだ若いだろう。
祭壇の階段を踏み込み、手に持った槍の柄を棒高跳びの棒のように階段の角に突き立て大きく飛び上がる。すると先程まで俺のいた所に極彩色のエネルギーが通っていく。宙で身動きを取れないところに二段重ねで、もう一発のエネルギーが飛ぶ。槍を振りかざして念じる。槍を空へと向けて解き放つのは相手のより遙かに小さな極彩色のエネルギー。だがそれは俺の身体を吹き飛ばすのに十分な推進力となるので、攻撃を避けながら着地をする。
――己の力を振るうのが楽しくないか? 誰かのためにという大義の下に、攻撃をした時、そこに快楽を覚えなかったか? やった、当たったと。
攻撃が止む。まるで其れは問答に対しての答えを求めているようだ。
「そのような言葉では、私は惑わされません!」
――本当に惑わされなければ、そのように怒る必要もあるまい。
その言葉と共に、目の前を塞ぐようにシェードの雑兵が現れる。これはフミカの方も同様だろう。軽く一振り横に大きく槍で薙ぎ払う。雑兵達はたやすく祭壇の下へと突き落とされて消滅していく。それを、二度三度と薙ぎ払うと後方から魔法の火の雨が降り注いで残った雑兵を消し飛ばす。
――達成感はないか? 自らの壁を乗り越えた時。その壁を破壊した時。障害を打ち倒す時。一つの冒険を終えた時。
フミカのおかげで道ができた。階段を一段飛ばしずつで駆け上がっていく。チェルノボルグが手をこちらへと向けると、階段がスロープへと変わる。ずり落ちそうになる身体を、槍をスロープへと突き立ててずり落ちないように踏みしめる。
「ユウさん、足場を作ります!」
後方から大きな岩が二つチェルノボルグへと飛んでいくが、直前で砕け散る。その一瞬の視界を封じた間にフミカは魔法の足場を俺の目の前に用意してくれた。それに足をかけて、一気にヤツのそばへと近寄る。粉塵の中を一気に駆け込み、槍を振り下ろした。
――好奇心はないか? いくつもの結末がある物語で、後味が悪かったとしてもすべての結末を知りたがるものだろう?
金属のものを叩く音が響く。空振りだった。首元を撫でられる感触がしたので反射的に飛び退いて、撫でられた部分に手を当てる。振り返ればヤツが俺の首筋をなでたのか、手は宙を泳いでいた。ヤツの背後からフミカの打ち出す水を極限まで圧縮して放つ魔法が迫るが、当たるとただの水となってその場に水たまりを作った。
――もしここで、この選択をしたら。現実では難しいが夢の中ではそれが自由だ。異界渡りの中には夢の中で渡るものもいる。お前たちが夢の中でやったことは本当に正しいことなのか。問うたことはないであろう?
ヤツは両手を広げる。それはまるで走り込んでくる子を待ち構えているような。余裕のつもりだろうか。まさに攻撃してくれといわんばかりの隙だ。フミカは水の魔法だけではなく、火、土、氷と様々な属性の魔法を背後から打ち込んでいる。それに合わせて俺も槍を構えて、その三つ又の先それぞれからエネルギー弾を連続で打ち出して攻撃する。粉塵が舞い、ヤツの人影が見えなくなるほどに視界が遮られていく。
――すべてだ。すべてが許される。それどころか、数多の世界を統べることができれば、やり直しすらも許されるだろう。世界はまるで一冊の本だ。読み進めた部分を破り捨てて、紙を付け足して新しい展開を作り出すことすらもできる。
視界を遮る粉塵がすべて唐突に消えて、目の前にチェルノボルグの顔が出てくる。フードがめくれて、その晒された素顔は赤い瞳と蒼い前髪が特徴的であった。
――さぁ、選択の時だ。これは貴様らにとっては夢のようなものだ。ゆえに、己が衝動のままに選ぶのだ。規範に沿うというのもまた、それに従いたいという衝動だ。どのような選択であっても、それを寿こう。
ヤツの背後に浮かび上がった八つの塊がすべて、フミカの方を向く。そして八つのそれは回転運動をしながら輝きを増していき、八つの砲撃をフミカに叩きつけた。フミカも負けじとバリアを張るが、少しずつ後退していく。
「フミカ!」
「ユウさん、私は大丈夫です。それよりも、女神像に……」
エネルギー弾がバリアを強く押しのけるせいか、甲高い音が響く。その音がフミカの声を遮るが、俺は翻って女神像へと駆ける。
俺の頭の中で声が響く。さぁ、私の名前を呼べと。それこそがこの場を切り抜ける策であると。女神像を見据える。見えないものを見ようとすることを意識していくとチェルノボルグと女神像を繋ぐ黒いラインが見える。そのラインへと右手をかけようとする。
――ほう、何をする気だ? その身では、右手はおろか、全身は吹き飛ぶやもしれんぞ? そのような賭けに出るのが、貴様の衝動なりや?
出来る。そう信じるのだ。それがフミカに教わった最初の魔法だ。黒いラインに触れる。俺の右手は吹き飛ぶことはない。それを掴む。そこから何をするのか。ラインを断ったところでなにになるか。既に流れ込んだ力では意味がない。力を奪う? 力に振り回されるのが落ちだろう。それではチェルノボルグの手のひらの上だ。女神の名前を呼ぶ? それもまた、女神の手のひらの上だ。
俺は、俺の意志を固める。どちらの手のひらの上にも乗ってやるかと。黒いラインが色を変える。俺の手が触れている部分から、青色へと変わる。その青はラインを伝って、チェルノボルグと、女神像それぞれへと向かう。チェルノボルグへと向かったものは黒の色と拮抗をする。そして女神像へと向かった青色は、そのまま女神像を貫き、罅が入る。
――何という魂の力だ。だが、それが何になる?
罅が入った女神像は、罅からピンク色の光を放ち始めた。次の瞬間、女神像は光へと代わる。光が収まった頃にそこにいたのは、幼いといえるピンク髪の少女が立っていた。その顔立ちは、文藻さんと似ており、よりそれを幼くしたものだった。
それと同時に、空間にピンク色の亀裂が入り、大きな揺れと共に風景が砕けた。
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