セーブポイント
危険なリーブラビルからトラックで離脱して早数十分。当初はとりあえず遙ちゃんを取り返そうとした俺と吉乃だけだったはずが、気がつけばあの子に逢坂博士、そして妹の未結と人数が増えていた。途中でトラックから軽自動車へと乗り換えて、俺は助手席に今いた。後部座席では女子たちは皆近い歳だからか、話が弾んでいるように聞こえる。
「それでこれからどうしましょうか、由城君。この人数連れてどこに行くべきか悩ましいわね」
「逢坂博士はどこか良いところ知らないですか?」
「その逢坂博士って吉乃ちゃんに合わせた呼び方しなくてもいいわよ。流石に年齢近い男の子にそう呼ばれるのはね」
「じゃあ逢坂さんで」
「それでよし。良いところについては知らないわ」
逢坂さんがカーナビの電源を入れて、テレビ報道を流す。大学病院でテロか? といった内容で速報が流れており、不審な人物を拘束したが逃げられたことや、建物の損壊の状況が語られていた。
「竹内遙ちゃんだっけ? 春眠病患者の。その子についての報道はなさそうね」
「この状況で大学病院に戻すのも正直な」
「由城君の家で匿うことができないの?」
「ただの一般人の家に何を求めてるんですかね」
「吉乃ちゃんがいるからいけるいける」
無理だろって思っていると、スマホが震える。どうやらメッセージを受け取ったようだ。確認をしてみると、フミカからのメッセージだった。高峰教授から来ていたという話を聞いて心配しているという内容で、会いたいらしい。
場所は……鷹司家のある最寄り駅と。
「あれ、彼女さんから?」
「そういうのじゃないから、ちょっとこの駅まで行ってもらってもいいですか?」
「別にいいけど、なんで?」
「元々遙ちゃんに出会ったのは彼女がきっかけでしたから、義理として」
「ふーん、まぁいいでしょう」
こちらからも、話すことがあるから今から向かうとメッセージを返す。すると差出人不明の人物からもメッセージが届く。
「なんだ、これ。おい未結」
「何ですか、ユウ兄さん。他の子たちは寝ているのであまり大きな声で話さないでくださいね」
「道理で何か静かだと思ったら。差出人不明なメッセージ来て、これから行先で合流するって伝えろって言ってるんだが」
「あぁ、ナビですよ。その際に紹介してあげます」
かなり人が増えそうだ。フミカに一人じゃないことを伝えると、帰ってきた誰かと一緒でも構わないという返事が返ってきた。
目的地へとたどりつくと、路上で駐車している車のそばにフミカがいるのが見える。その車の運転席では文乃さんが座っており、スマホをいじっていた。逢坂さんが車をその後ろに停めたら気づいたのか、俺が助手席から降りてきたからか文乃さんが降りてくる。
「えらい遅かったなぁ。女性に運転させて助手席から降りてくるってええ御身分やな」
「文乃さん。ユウさん、よく来てくれました。昨日はアーディアルハイドで見ませんでしたけど、どうしたんですか?――あ、その頬の傷はどうしたんですか?」
「話すと長くなってな。皆と一緒にそちらの家へと行っていいか?」
「いいですよ」
そういって、フミカが逢坂さんの車に目を向けると逢坂さんと目があったと思ったら少しムッとしていた。そしてそのままフロントガラスから見える後部座席をみる。
「何で竹内さんがここに?」
「誘拐があってな」
「まさか、ユウがついに誘拐に手ぇ染めるとは思わへんかったわ」
「いやいや、誘拐犯のところから奪い返してその途中だったんだよ」
「それで長い話ということなんですね。分かりました、確かにそれならお祖父様の家が一番安全でしょう」
「助かる」
「それでは、ユウさんは私達と一緒に乗ってくださいね。状況を確認したいので」
「あぁ、そうだその前に」
逢坂さんに、いい場所があると伝えて文乃さんが先導してくれることを伝える。そして後部座席を開けて、あの子をつまみ上げて出す。
「フミカ、お土産」
「あ、フミカお姉ちゃんだ、やっほー」
「え、えぇぇぇ!?」
「よーし、こっちの車に乗り換えるぞ―。お前は一番いい席の助手席をやろう」
「やったー」
あの子を文乃さんの車の助手席に搭載しながら、俺とフミカは後部座席へと座る。
「あれ、何でその子いるん?」
「話せば長くなる」
「そればっかりやなあ、車出すで」
風景が流れるのに合わせて、簡単に事情を話す。大学病院に預かっていた炎の超能力者の女の子と遙ちゃんに会いに行った直後に爆発が起きたこと。遙ちゃんが拐われたこと。追いかけた先でどうにか助け出して戻ってきているところと伝えた。
「超能力者、ですか?」
「うん、炎使い。金属も溶かせる」
「ユウ、映画でも見てきたんか?」
「いや、事実だから」
助手席に座ったあの子は、セーブセーブと歌いながら、外の景色を眺めてご機嫌だった。
「ユウさんばっかりずるい……」
「えっ? 今なんて?」
「いえ、なんでもないです。それでその子ですが」
「セーブだよ!」
自分が話題になったのに気づいたのか、変な返事をしてくるその子。
「セーブちゃんですが、一体どこから……?」
といいながら、耳元にフミカが顔を寄せてくる。
「彼女はアーディアルハイドの住人じゃないのですか……?」
「それが、誘拐された先で遙ちゃんをどうにか確保した後に急に夢の世界に入ってな。彼女に連れられて夢の世界から出ると、こちらの世界の違う場所に移動してたんだ」
「そこ二人で何をいちゃいちゃしてるん?」
「いちゃいちゃしてませんから!?」
「フミカお姉ちゃんがいちゃいちゃだー、いちゃいちゃだー」
軽く説明をしているうちに、鷹司家へとたどり着く。これで二度目ではあるが、何度見てもこの大きな旅館のような家には慣れそうにない。
そうして皆で車を降りる。――何か一人増えてる。未結と話しているその子は、ダボダボしたズボンを履いており、ヘッドホンを首にかけている茶髪の女の子だった。
まずは家にあがらせてもらうと、文藻さんが張り切りはじめる。それは久しぶりのたくさんのお客さんだからなのか、それとも女の子がたくさんいるからなのか、凄く声をかけてくれて世話をしてくれる。
「あらあらあら、由城君がこんなにかわいい女の子を連れてきてくれるは、知らない子もいっぱい」
「すいませんね、突然に」
「いいのよ、一日中暇してるのだから」
「おねーさんはフミカおねえちゃんのおねーさん?」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。私は文藻、あなたお名前は?」
「私はセーブ!」
それでいいのか、名前。
「外国人らしい名前ねぇ。プラチナブロンドの髪の毛はきれいね」
「アヤモおねーさん、ありがとー」
客間に移動する。まとまりのない団体だからか、修学旅行のときみたいな空気が流れる。吉乃や未結をはじめとした中学生組は中学生組で集まって話してるし、超能力を小さく手の中に発現させて見せあってる。セーブも混じってはバリアーバリアーと言って何かしていた。
「吉乃ちゃん……同年代の超能力者と会ったことないからあんなにはしゃいじゃって、ここ一般人の家なんだけどな……」
「まぁまぁ」
「ほんまに超能力やわ、見に行こ」
文乃さんが中学生組に近づいて、空とぶ炎や氷やらをみて感激の声をあげていた。
「それで、白鷺さんでしたっけ?」
「あ、はいそうです。逢坂さん」
いつの間にか近くにいた逢坂さんがフミカへと声をかける。
「吉乃ちゃんは私が由城君にちょっと預かっててもらったうちに、こんなことになるとは思わなかったのですよね」
「そうなんですか、あの子をユウさんに預けたんですね、何でですか?」
「吉乃ちゃんは身寄りがなくて預かってたのよ。超能力を持ってるから、ちょっとそういう怪異とかと戦ってたところを、彼に助けられた時に懐いちゃって」
「ちょっと待ってください。怪異とかって本当にいるんですか?」
「いるいる。彼がどうしてか異空間で戦ってたのに巻き込また上に、助けたのは本当話を聞いた時にびっくりしてさ」
「あ、それは分かります。ユウさんは無茶ばかりしますからね」
「そうそう、吉乃ちゃんから急に緊急事態を知らせるのが来た時は、預けたばっかでなにに巻き込まれたんだろうってなりましたよ」
どうやら、話は長くなりそうだ。二人の話の腰を折らないように気配を薄くしようと黙りつつ、遠目にぴょんぴょん跳ねる吉乃と、その吉乃に氷のつぶてをぶつけようとする遙ちゃんを見ながら。
ちょっと待て、それは危ないから辞めなさい。
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