第24話 心を読めないもどかしさ
「……連絡した方が良いのかな」
夕飯や風呂を済ませ一段落した午後九時。俺は自室のベッドに寝転がりながらスマホ片手に唸っていた。
あの後は結局みんなでソラちゃんと話しただけで、面会時間後はそのまま解散したのだ。
……やっぱり長岡さんに連絡した方が良いよなぁ。持ってる情報を照らし合わせる必要はあるし、ただまあそれは明日でも良いんだろうけどさ。
持っていたスマホが突然ブーッと振動する。切り替わった画面は着信を示すもので、俺は表示された名前を見る間もなく応答した。
「っはい!? もしもし長岡さん!?」
めちゃくちゃビックリした……。前にもこんなことあった気がするな……。
『長岡先輩じゃなくてすみませんねー! あずですよーあず!』
「えっ、立花さん?」
『宮田先輩が電話しても良いよって言ったんじゃないですかー!』
「……あ、お昼廊下で会った時のあれか」
そう言えば俺別れ際に電話ならいつでも出るからって言ったんだっけ。別に良いんだけど、長岡さんからだと思ってた手前心臓に悪い。
『嫉妬しちゃいますよ?』
ポソッと呟かれた言葉。ゴクリと生唾を飲む。
……心読めないと不安になるなぁ。立花さんは今何を思ってそう言ったんだろう。
「嫉妬する程俺のこと好きじゃないでしょ?」
『興味はあります!』
「光栄、で良いのかな。よくわからないや」
『自分で言うのもなんですが、あずが男子に興味持つなんて殆どありませんよ? 宮田先輩は特別です!』
ふんすという鼻息が聞こえてくるような勢い。特別と言われると何となく優越感に浸りそうになる。だけど。
「今だけだよ」
短く素っ気なく、俺は彼女を突き放す。一過性の好意にすがりたくはない。
『だとしても今は特別だから良いんじゃありません? 先輩って何か人間関係の話だけはネガりますよね〜。他は割とポジティブなのに』
ぬ……、中々痛いところを突いてくるな。まさにその通りだから何も言い返せない。
「……そう言えば立花さん、あの後どうなったの?」
『あ、露骨に話逸らした』
対面していたらじとっと睨まれてそう。俺は立花さんの遠回しな追求には応えず、無言で二の句を待った。
『先輩のおかげで仲直り出来ましたよ。ただ一緒にご飯を食べるのは恥ずかしいらしいので、とりあえずはあずが話しかけられたら話を振ってあげるってところに落ち着きました!』
「そっか、確かにいきなりお昼はハードル高いね」
『ですです!』
上手くいっているなら何よりだ。電話越しにでも立花さんが嬉しそうなのが伝わってくる。
『……んー……』
「どうしたの?」
『いや、そのね? 聞きたいことがあるというか……、いやでもなぁ……』
煮え切らない態度。立花さんが言い淀むって何か珍しい気がするなぁ。結構何でもスパッと言うイメージあるし。
「別に遠慮はしなくて良いよ? ていうか立花さんが遠慮とか珍しいね」
『それどういう意味ですか! 失礼ですよー!』
「あははっ、でも本当に気にしなくて良いからね」
『……何か納得いきませんが、それでは』
コホン、と立花さんは咳払いを一つする。
『宮田先輩って長岡先輩と付き合ってるんですか?』
「えっ」
『放課後教室から二人が一緒に帰るところ見えたんです。男女で下校なんて、付き合ってるようにしか見えませんよ』
「……あー」
見られてたのか……。長岡さんに迷惑かかりそうだなぁ。後で報告しておこう。
「確かに一緒に帰ったけど、別に付き合ってるとかそんなんじゃないよ」
『本当ですか?』
「うん」
『それなら良かったです』
「……」
……ん? 良かった? 結構意味深なこと言ってるけど、それは意味を理解して言ってるの? それともからかうための嘘?
『宮田先輩!』
「っ!」
『えへ、ドキってしました?』
「そういうこと……。心臓に悪いからやめようね?」
『宮田先輩にしかしませんよー。……っと、じゃあそろそろ切ります! おやすみなさいませー』
流れるようなおやすみに慌てて返答する。
俺にしかしない、っていうのも冗談なんだろうな。特別というよりはおもちゃって言葉が似合う。自分で言うのも変な話だけどさ。
今度こそ長岡さんに連絡をするためにスマホを操作する。
「ん? 長岡さんから不在着信?」
画面の右上は青くチカチカと点滅しており、着信履歴にもしっかりと長岡さんの名前が刻まれていた。しかもついさっきだから、多分立花さんと話していた時にかかってきたんだろう。
俺から電話をかける……、何かちょっと気恥ずかしいな。
長岡さんが通話に出たのはかけてからすぐのことだった。
「もしもし、長岡さん?」
『宮田くん。こんばんは』
「今日の操二のことで話があるんだけど、今大丈夫?」
『大丈夫だよ。私もこの後どうするかとかも話しておきたかったし』
長岡さんもそう思ってたのなら話は早い。もしかしたら既に心を見られていたのかもだけどね。
『あ、その前に。さっき宮田くん誰かと話してたの? さっきかけたけど繋がらなかったんだよね』
「ああ、うん。ちょっとね」
『……こういう時電話って不便だよねー。
「誰と話してたのって質問すれば一発ではあるよね」
答えるにしろ黙秘にしろ、訊かれたら頭には浮かべてしまう。幸いなのか、俺には話す相手が殆どいないからあまりそういうことはないんだけどさ。
『で、誰と話してたの? 立花さん?』
「えっ」
『図星。今のはテレパシー使わなくてもわかるよ』
まあ俺の交友関係の狭さに鑑みると消去法で絞られるんだろうけどさ……。まさか一発で当てられるとは思わなかった。
『ふーん』
「ただの雑談だよ」
『まあ良いけどね。別に宮田くんと付き合ってるわけでもないし』
その言葉の裏は何だろう。顔が見えない電話はやっぱりもどかしいな。
「立花さんには俺と長岡さんが付き合ってるように見えたらしいけどね」
『どういうこと?』
「今日一緒に操二を尾行しただろ? 校門出る時二人で居たのを見られたっぽくてさ」
『んふふ、私が宮田くんと付き合ってる、か。実はそれ言われたの初めてじゃないんだよ?』
「え」
他にも噂されてるってことか? でもクラスではそんなに話した記憶もないし……。
『舞ちゃんがそういうことにしたがるんだよね〜』
「島本のことが好きな子だっけ」
『それは愛ちゃん』
「……あ、何か話の道筋が見えてきたかも」
一ヶ月くらい前にその二人がグラウンドで島本を見てたことあったよな。早く愛さんに決着をつけてほしがってたのが舞さんってことか。島本へ告白する上で邪魔になる長岡さん(理由は勿論島本が長岡さんのことを好きだからだ)を俺とくっつけて、その間に愛さんに告白させようって魂胆だろう。
『多分思ってるので正解だよ』
「まあそれしかなさそうだからね……」
迷惑にならなかったら良いんだけど、とは思う。ただそれを言う意味はなさそうなので口にはしない。向こうがそうしたがっているのなら何を言おうが無駄だ。
『それはそうと、ソラちゃんの話なんだけどさ。宮田くんどこまで聞いた?』
「操二からは、一応ソラちゃんとのあらましは大体聞いたかな。出会ってからお見舞いに来る経緯まで」
『私と一緒だね。じゃあとりあえず聞いた話を話すから、食い違いがあったら教えてね』
「はいよー」
俺の応答を皮切りに、長岡さんは話し出した。
朝から調子の悪かったソラちゃんが下校途中に修羅場中の操二と出会い、倒れる。気付いたら病院で、翌日お父さんの代わりに操二が来ることになった。
俺は操二視点の情報を都度都度補足しながら相槌を打っていた。
『……こんな感じかな?』
「うん。やっぱり特に食い違ってるところはないかな」
『そっか。じゃあ後はどう解決するかだね』
「最終目的は島本に聞いたことをこのまま伝えたら良いんだろうけど、それは操二が嫌って言ってたんだ」
『私はそこあんまり理解出来ないんだよね……。別にやましいことじゃないでしょ? どちらかと言うと良いことだし』
長岡さんは不思議そうに疑問を口にする。確かに言う通りやましいことではないし、むしろ褒められるべき話だ。
「だけど、俺は何となくわかるよ。操二の気持ち」
『男の子だからわかるってことなのかな?』
「かもね。俺の考えと操二のそれが一致してるとは限らないけど」
ただ仮に同じだったとしても、解決策は見つからない。下手に嘘をつくのもどうかと思うんだけど……、はてさてどうしたものか。
『これは単純な疑問なんだけどね』
「? うん」
『高槻君って本当にサッカー部をやめて良かったのかな?』
「やめて良かったって聞かれたら、まあ他の部員にも迷惑がかかるし……」
『ごめんごめん、そうじゃなくてさ』
そういうことじゃない? 俺は長岡さんの言っている意味がよくわからず、続きを待った。
『高槻君自身がどう思ってるのかなってことだよ』
語りかけるような口調。考えるよりも先になるほどと口から零れていた。
『もし良かったら今回の話は私に任せてもらえないかな?』
「長岡さんに?」
『うん。高槻君がどう思ってるか次第だけど、丸く収まるような気がするんだよね』
「手伝えることはある?」
『いや、別に大丈夫だよ。ありがと』
俺は正直どうすれば良いか思いついていないので、反対する理由もないため了承する。即座に思いつく長岡さん、流石だな。
それから電話は生徒会の話を少しして切った。とりあえず明日は生徒会に顔を出す予定だ。
長岡さんは一体どんなことをするつもりなんだろう。寝るまで俺の頭はそれでいっぱいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます