第四話 気づきたくなかったこと

 僕の部屋にいる時にだけ聞こえるこの声は幻聴なのだとそう思っていた。思っていたかった、けれど今はライトの声が僕には必要なものに変わっていた。

 誰かに言われたからではなく何かをやるのは僕が決めていい、自由なのだとそう言われたのは初めてだった。きっとライトがこういった発想ができるのは彼自身、旅をして自由にのびのびと生きていきたいからに違いない。

 彼がうらやましいと思う。彼のようになりたいと思う。彼のことが知りたいと思う。だから、僕は彼に言った。


「今度はライトの話を聞かせろよ。冒険のもっと詳しいことが聞きたい」


––––ボクの話ね、わかった!


 嬉しそうな声で彼は応えてくれた。それが僕にも伝染して、心がきゅうっと喜びを伝えてくる。

 僕は真っ白なノートを取り出すとペンを握った。彼の冒険を記録しよう、彼の人柄を知ろう。今度物語を書くときに彼のような人を主人公にするために……。


––––ボクはたくさんの国を渡って旅をしてた。


 いろんな植物があるフラの国。妖精が住むフェアル国。色々な国に行って、色々なことを学んで、色々な人と出会って別れて。


 そこまで聞いて僕はまた、あの妙な違和感に眉を歪ませる。この世界にそんな名前の国はないはずなのに、知っていると思うのは何故だろうか。

 ふと、閉じていたB5のノートが目についた。僕は、おもむろにページをめくった。



 なんで僕は忘れていたんだろう。



––––コルドに一時帰って、旅を再開したばかりだった。突然辺りが真っ暗になった。隣にいたはずの相棒もいなかった。


「なぁ、その相棒の名前は?」


––––……ごめん、相棒の名前も教えられないや。


「じゃあ、どんな見た目をしている?」


 気づきたくなかった。知りたくなかった。この答えを否定してほしくて、僕は必死に違いを探す。


「見た目……? ボクの肩にのるくらいのサイズで黒くてふわふわしてて……瞳が黄色と青色で……どうしてそんなこと聞くの?」


 僕は頭を抱えた。その見た目は思い浮かべていたものと同じだった。


 コルド、それは寒く雪ばかり降る国。国の名前は英語のコールドからそのままとったし、ホトもそうだコルドとは反対に暑い国だからと英語のホットからとった。

 色々な国を旅する少年。それは、いつの日か書いてみたくて、やっと書き始めた物語。少年はコルドに存在する名の呪いを解くため旅をしている。そんな話。


「相棒の名前は、アウルム」


 ライトの驚く声が聞こえる。僕はその声を聞いて確信せざるを得なかった。


(あぁ、やっぱり彼は……)


 ノートに書かれた三文字を指でなぞる。


 彼の名前は––––––––…………。

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