第82話
十七.【草原の暮らし・初めての竜】
「モコおいで」
モコとはニニが附けた名前で、それはパルプという種類の竜類。リスとイタチの合いの子みたいな姿で、リスより少し大きくてイタチのように胴長。けれど顔は平べったくてトカゲみたい。ニニがはじめて貰った竜。勿論手なずけの呪文を教えてもらって、手なずけた。呪文は繰り返せば繰り返すほど絆が深まるのだという。今ではいつも彼女の足下を駆け、彼女が座ると肩の上に乗る。夜眠るときも一緒。
彼女は嬉しくて仕方ない。用もないのに居留地を隅から隅まで、モコを連れて歩いて回った。
モコという名は、毛がフサフサしていたから何となく附けた名前だけれど、奇しくもそれは先住民の言葉で竜の意味だった。リコ父さんを驚かせた。
「ほう。お前は先住民の言語を知っているのかね?」
ニニは首をふった。よく分からなかった。自分がこの地方の人間なら、どこかで聞いていたとしても不思議ではないけれど。
「モコとは竜類ばかりでなく、トカゲも、蛇も、全部含む。精霊の龍もモコだ。先住民達はあまり区別してなかったようだ」リコチャキ父さんは穏やかに続けた。「モコに限らず、先住民の言葉を今でも詳しく知るのは、魔導師や神官達、そして我ら龍使いの民。お前は何処から来たのかな?」
彼女は首をかしげた。それについてはさっぱりだった。いつも考えるけれどいくら考えてもさっぱり。楽観的な彼女はこう思っていた。今が幸せなんだからいいじゃない――。
それは記憶ではなく、感じる。ここはとても幸せだと。今まで自分が居た所よりずっと。
夜はオオカミの毛皮の毛布にくるまって寝る。はじめてその毛布を貰ったとき。ニコ母さんは笑顔で言った。
「大きな街の大金持ちだってこんな贅沢な毛布は持ってないのよ」
その言葉通り、これ以上ないほど柔らかで暖かかった。王様の気分、いや、彼女は女の子だから、お姫さまになった気分だった。
天幕の中の照明器具はカンテラ。その名前は聞いたことある気がした。見たことないけどこれがそうか、と彼女は感心して思った。
それはまるで大きな土瓶だった。中に油を入れ、口に灯芯を差し込み、火を灯す。優しくて赤みの強い光が天幕の中を仄かに照らす。
ニコ母さんがはじめて火をつけて見せてくれたとき、ニニは思わず言った。
「素敵!」
ニコ母さんはにっこり微笑んで言った。
「大きな街に行けば、筒灯という物もあるわ。持ち歩けるしとっても便利なんだけどね」
「ツツトウ?」
「そうよ」
「へえ……」
それは知らないと思ったニニだが、後日大きな街で目にしたそれは、よく知っている物だった。名前も記憶にあった。けれど使った記憶はなかった。ランプだった。
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