第249話 男性にしかできない趣味らしい。

 混浴の露天風呂にかりながら、先輩方の話を聞く。


 どの先輩もセレブな奥様になることが決まっている為、話の内容は、ほとんど旦那だんな様の自慢話だ。


 下高したたか先輩は、家賃収入や株の配当などの不労所得だけで、全く働かなくても生活に困らないような、資産家の一族に嫁いだそうだ。


 お相手の男性は30代後半で、下高先輩でも勝てないほど麻雀が強いらしい。


 とくに贅沢ぜいたくもせず、見た目もかなり地味な方だとおっしゃっていたが、庶民とは住む世界が違う、雲の上の人には違いない。


 鹿跳しかばね先輩の結婚相手は、葬儀屋の社長さんだ。

 超高齢化社会では火葬場が大繁盛で、会社も急成長しているらしい。


 嫁ぎ先に葬儀屋を選んだ理由は、社長さんが「しかばね」という名前を欲しがっていたからだそうで、鹿跳先輩は、結婚しても姓が変わることはなく、逆に嫁ぎ先の方が「しかばね葬儀」に社名変更する予定なのだそうだ。


 口車くちぐるま先輩は、とある新興宗教の教祖様に嫁ぎ、今では教団のナンバー2らしい。


 新興宗教と聞くと、つぼを売りつけられたりしそうな悪いイメージがあるが、仏教系の団体で、怪しい要素は、ほとんどないそうだ。


 本人は「ただ、お寺に嫁いだだけ」とおっしゃっていた。


 くろがね先輩の結婚相手は関取。つまり、お相撲すもうさんである。


 僕は相撲に全く興味が無いので、小結の槍大海やりたいかい関と言われてもよく分からないのだが、かなり人気がある日本人力士らしい。


 将来は相撲部屋の女将おかみになり、自分の産んだ子を横綱にする事が、鉄先輩の将来の夢なのだそうだ。


 他の先輩方の結婚相手も、医師、教師、会社の経営者など、前途有望というか、既に成功していらっしゃる「勝ち組」の方々ばかりである。




「皆さん、素敵な旦那様のところに永久就職なさっているようですけど、そんなお金持ちの方々と、どうやって知り合ったのですか?」


 僕が先輩方に聞きたかったのは「誰と結婚したか」ではなく、「その相手とどうやって知り合ったか」だ。


「それは、やっぱり、子守こもり先生のコネだよね」

「そうそう。子守先生って、いったい何者なんだろうね?」

只者ただものではないですよね」


 先輩方は、口をそろえて子守先生の名前を挙げる。


 脇谷わきたにさんのように自力でアプローチした訳でもないし、リーネさんのように入学前から親に結婚相手を決められていた訳でもないようだ。


「子守先生って、そんなにすごい先生なのですか?」


「進路調査票に、自分の希望を書いて提出するだけで、『超優良物件』を紹介してくれるんだよ。顔が広すぎでしょ?」


「そうだよね。結局、私達も全員無事に進路が決まった訳だし」

「就職浪人する人は、誰もいないですからね」


 超優良物件を紹介してもらえるのは「相手から見て先輩方が超優良物件だから」のような気がする。それで、子守先生のところに超優良物件が集まるのだろう。


「だから、ダビデ君も進路調査票には、希望を具体的に書いたほうがいいよ」

「具体的に……ですか」


 僕が結婚相手に求める「具体的な希望」って、何だろう。

 相手の職業? 趣味? 収入? 資産? どれも違う気がする。




「アリミさん、甘井さん、そろそろ上がりましょうか?」

「そうですね~。ダビデさんの顔が真っ赤で、ちょっと心配です」

「はい。僕は、このままだと、のぼせてしまいそうです」


 下高先輩の合図で、3人一緒に露天風呂からあがる。

 ほとんどの先輩方は、いつの間にか、先にあがってしまったようだ。


「体は、しっかりといてから、あがりましょう」


 僕は下高先輩の隣で、持っているタオルを固く絞り、体をしっかりと拭いてから脱衣所に戻った。




「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ‼」


 脱衣所に戻ると、脱衣カゴの棚の近くから、歓声が聞こえてきた。

 人だかりの中心に立っているのは、長身の口車先輩だ。


「ハカリ、ちょーイケメン!」

「ハカリも、男子だったら良かったのにぃ!」


「もし、私が男子だったら、君達は全員、私のものだな!」

「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ‼」


 なるほど、口車先輩は男子の制服も似合うのか――って、それ僕の制服です!


 僕が脱いだ制服を入れたはずのカゴには、パンツしか残っていなかった。

 仕方がないので、とりあえず、パンツだけは穿いておこう。


「甘井クン、制服を無断で借りてしまって悪かったな。その代わりと言ってはなんだが、甘井クンには、私の制服を貸すから、それで許してくれ」


「え?」

「なんだ? 私のセーラー服では不満か?」


「いえ、口車先輩はイケメン女子ですから、その学ランも良く似合っていらっしゃいますけど、僕がセーラー服を着るというのは、無理がありますよね?」


「それは、どうかな? 実際に着てみないと分からないだろ?」


「私が着せてあげます。ダビデさんは、きっと似合うと思いますよ~」

「それでは、これも『罰ゲームの一環』という事に致しましょう」


 鹿跳先輩は、口車先輩のスポブラを僕に着せようとしている。

 下高先輩も、その案に賛成らしい。


「ホントに僕が着るんですか? でも、さすがに下着は無理だと思いますよ」

「スポブラなら大丈夫ですよ。サイズも大き目ですし」


「――ほら、入りましたよ」

「あっ、意外と伸びるんですね」


 僕のほうが口車先輩よりも肩幅がある分、スポブラのゴムはきつめだが、口車先輩のトップバストと僕の胸囲チェストは、さほど差が無いようだ。


「セーラー服も、ハカリのなら着られますよね?」

「そうですね。首と肩さえ入れば、何とか」


 ウエストも口車先輩の方が僕より細いはずだが、うちの学園のセーラー服は、妊婦さんでも着られるような構造になっている。


 したがって、首と肩さえ入れば、僕でも着ることは可能である。


「ほら、セーラー服も無事に着れましたよ」

「スカートは、もっと簡単ですからね~」


 スカートも、妊婦さんでも穿ける仕様なので、フックの位置を1つ、ずらせば、僕のウエストでも余裕だった。


「せっかくですから、靴下もどうぞ」


 セーラー服を着たら、当然靴下も必要だ。

 僕は素直に靴下まで穿かせてもらう事にした。




「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ‼ ダビデ君、かわいい!」


「ほら、みんな喜んでいるじゃないか。女装も悪くないだろ?」

「そうですか? オトコで、この格好は、どうかと思いますけど」


 たしかに、セーラー服は、地味でもかわいいかもしれないが、それを着ているのが僕だと、残念でしかないと思うのだが……。


「甘井クン、女装というのは『男性にしかできない、最も男らしい趣味』だ。男らしい男はモテる。即ち、女装をすればモテるという事だ」


 ――女装をすればモテる?


 口車先輩が言うと、もっともらしく聞こえるが、全く根拠がない気がする。


「甘井さん、3段論法は、前提条件が正しくないと成立しませんから、ハカリさんに騙されてはいけませんよ」


「やっぱり、そうですよね。ちょっと安心しました」

「あっはっはっ! 私の口車も、オトナには通用しないか」


 女装が「男らしい趣味」なのかどうかは別として「男性にしかできない趣味」というのは、正しいのかもしれない。


 口車先輩が毎日着ていたセーラー服。そう思うだけで、なんだかドキドキする。

 着るだけで、こんな気分になれるのは、やはり、僕がオトコだからなのだろう。


「甘井クン、この学ラン、明日も卒業式の後に少しだけ貸してもえないか?」

「明日ですか? 上着だけでよろしければ、かまいませんけど」

「おー、それは助かる」

「口車先輩は、明日、それを着て何かされるのですか?」

「ああ、後輩達へのファンサービスだ。最後だからな」


 さすが口車先輩。卒業式でもそうやって、後輩達の心をつかむのか。

 6年生の先輩方の最後の制服姿、僕もしっかりと見届けなくては。











 以下、筆者からのお知らせです。

「ろりねこ」を、ここまで読み進めて下さって、ありがとうございます。


 近況ノートに書いた通り、1月28日付で、運営様より修正依頼のメールを頂きました。「過剰な性描写」を修正するようにと言われても、どこからが「過剰」なのか筆者には判断できませんから、「修正依頼が来た場合は即刻修正致します」と自分で表記した話に関しましては、本日中に全て公開を中止させて頂きます。


 R15と言っても、実際は小学生でも読めてしまいますので、これは仕方がない事だと思っております。未読のフォロワー様には申し訳ありません。


 筆者の頭の中には、既に最終回の構想まで出来ており、あと10話程度で完結の予定だったのですが、「エロ抜き」で表現できるかどうかは微妙なところです。


 今回は、お風呂回でも「エロ抜き」のつもりでした。いかがでしたでしょうか。

 次回は「卒業式」の予定です。


 では、カクヨムコンで最後まで応援して下さって、ありがとうございました。 

 また、今後も宜しくお願い致します。 2021.1.30  更場 蛍

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