第183話 思い出に残る物が欲しいらしい。

「ネネコさんは乾燥肌なので、冬場は背中がかゆくなるらしいんですよ」

「あっ、それ分かる! タイツとかも、かゆくなるからダメなんだよね」


 2人でコタツに入ったまま、カノジョとおしゃべりを続ける。

 リボンさんが生足派なのは、ネネコさんと同じ理由らしい。


「それで、僕が時々、背中をマッサージしてあげています」


「それって、センパイがネコの背中をかいてあげてるって事?」

「はい、僕達のスキンシップです。ネネコさんから頼まれた時だけですけど」


「センパイとネコって、すごく仲がいいのに、やってる事が、全然恋人っぽくなくない? ホントはもっと『いろいろ』してあげてるんでしょ?」


「『いろいろ』というのは?」

「……もっとエッチな事とか」


「それは、リボンさんのご想像にお任せしますけど、その辺りに関して、今カノとしては、どうなんですか?」


「え? それは、どういう意味?」

「カノジョって、『カレシにエッチな事をされたい』とか思うものなんですか?」

「好きな人が相手なら『期待に応えてあげたい』とは思うんじゃないかな?」


「それは僕も同じ考えですけど、本当は嫌なのに、僕に無理に合わせてもらうような事はしたくないですから」


「センパイは優しいよねー。ネコがうらやましいよ」

「優しいんじゃなくて、ただ臆病なだけですよ」


「ネコなら、センパイに何をされても、多分嫌がらないと思うけどなー」


「リボンさんがそう言ってくれると心強いですけど、寮で風紀を乱すようなことをして、誰かに見つかったら、僕は退学になってしまうかもしれませんよね?」


「カレシとカノジョだったら、別にいいんじゃないの? 退学にはならないよ」


「前に、ネネコさんと僕が最後までしちゃってるとリボンさんが勘違いした時に、花戸さんが言っていましたよね? 『バレたら退学だよ!』って」


 あの時は、僕がネネコさんの乳歯を抜いてあげただけなのに、性行為えっちなことをしたと勘違いされてしまい、手芸部の皆さんは大騒ぎだった。 (第64話参照)


「あの時は、まだ4月で、1年生のほとんどが、12歳だったからだよ」

「え? 相手が1年生でも、13歳なら問題ないって事ですか?」


「うん。1年生の最初の授業で教わったんだけど、13歳になるまでは、好きな人が相手でもエッチしちゃダメなんだって。もしエッチしちゃうと、相手の男の人が『強制性交』でケーサツに捕まっちゃうから、絶対にしちゃダメなんだってさ」


「1年生の授業で、そんな事まで教わるんですか? それは知りませんでした」


 そうか。それで、天ノ川さんとポロリちゃんは、ネネコさんと僕が、ベッドでいちゃついているところを目撃しても、あっさり見逃してくれたのか。


「私も昨日で13歳になったでしょ? だからセンパイと付き合う事をお姉ちゃんが許してくれたんだと思うよ」


「そうですね。今日は、せっかく僕の部屋まで遊びに来てくれたんですから、満足するまで、ゆっくりしていってください」


「うん、そうする。だからセンパイがいつもネコにしてる事、私にもしてみてよ」

「さっき話した通りなので、恋人っぽくはないかもしれませんよ?」

「それは、実際にやってもらわないと分かんないでしょ?」

「それもそうですね。じゃあ、ちょっと背中をこちらに向けて下さい」

「こう?」

「はい。行きますよ」


 僕はリボンさんのセーラー服の下から両手を入れて、優しくマッサージする。

 リボンさんの背中は、触り心地の良い肌で、特に異常は無さそうな感じだ。


「うわっ! これ、実は、かなりエッチじゃない?」

「そうですか? お互い制服だからですかね?」

「私が慣れていないだけかもしれないけど」


「ネネコさんの場合、もっと上の方まで手を入れますけど、どうしますか?」

「いいよ。やってみて」


 そのまま手を上に滑らせると、途中で何かにぶつかった。

 この手触りは、おそらくリボンさんのブラジャーだ。


 ネネコさんはノーブラなので下着はタンクトップのシャツのみだが、リボンさんは、制服の下にキャミソールを着ており、僕の手はキャミとブラの間にある。


 僕はブラのベルトの部分を避け、その上に手を伸ばした。


「あーっ、そこがいい。その、肩に近いところ」

「このあたりですか?」

「そうそう。ブラのストラップの下がかゆいから、そこに指を入れてみて」

「こうですか?」

「うんうん。これ、チョー気持ちいいね。病みつきになりそう」


 リボンさんが指示した場所は、肌の感触がスベスベではなく、若干ザラついているように感じる。この辺りを重点的にマッサージしてあげるべきだろう。


「どうですか?」

「もう最高。センパイ、マッサージ上手すぎじゃない?」

「あははは、僕はだいぶ慣れましたから。他にかゆいところはありませんか?」

「あとはわきかな。ブラのベルトの下ね」


 僕はリボンさんの両脇に手を回し、ブラのベルトの下に手を入れる。

 ここも同じように肌がスベスベではなく、ザラついているようだった。


「この辺りですね? たしかに、ここもちょっと手触りが違う気がします」

「あーっ、ヤバイ……そこそこ……もう少し前のほう」

「前の方って、ここはもう背中じゃなくて、胸じゃないですか」

「でも、そこがかゆいんだから、しょーがないじゃん」


 リボンさんの体は、ネネコさんの体よりやや厚みがあり、胸の膨らみもはっきりと感じられる。しかし、少し残念なことに、この辺り一帯は、やはり手触りがスベスベではなかった。


「ちょっと質問なんですけど、リボンさんって、お風呂はいつも1人ですか?」

「えっ? お風呂って、1人で入るのが普通だと思うんだけど」

「やっぱりそうでしたか」

「何でそんな事聞くの?」

「これ、乾燥肌というより、多分ブラのサイズがあっていないんだと思いますよ」

「何でそんなことが分かるの?」


「リボンさんは、こんなに肌がスベスベなのに、ブラの紐の下だけ肌が荒れているようですし、特に両脇のあたりは前に行くほど手が入りにくかったですから」


「すごいね! センパイ、そんなことまで分かっちゃうんだ!」


「これはたまたまです。1年生だと胸の成長は早いでしょうし、背中や脇なんて、自分1人じゃ確認できませんから、気付けなくて当然です」


「それで、私はどうしたらいいの?」


花戸さんおねえさまに見てもらうのが、一番いいと思いますけど、僕でも良ければ、今から見てあげますよ」


「センパイ、エッチな事考えてるでしょ?」


「考えてません――とは言い切れませんが、今の僕はリボンさんのカレシなので、カノジョの悩みを解決するという『大義名分』はありますよね?」


「ここで制服を脱げばいいの?」


「いや、ここだと誰か帰って来た時に、お互い気まずいですから、洗面所に場所を変えましょう。鏡もあったほうが、確認しやすいでしょうから」


「私、なんだかドキドキしてきちゃった」

「それは、もちろん僕も同じですよ」






「ねえねえ、あれって、ネコのお姉さまのブラでしょ? 帽子みたいだね」

「そうですね、毎日見ている僕でもそう思います」


 洗面所に入ると、いつも通りに干してある下着が見えるが、女子の下着を女子に見られる分には特に問題ないだろう。


「もしかして、あれがセンパイのパンツ? 結構ハデだね」


 リボンさんは、僕のトランクスにも興味があるようだ。


「あははは、あれは3枚セットで、柄は選べませんでしたから」


 これは少し恥ずかしいかもしれない。

 でも、今はカノジョだから、いいか。


「ここで脱げばいいんだよね?」


 洗面所の鏡の前で、リボンさんはセーラー服とキャミソールを脱いだ。

 上半身は真っ白なブラだけなのに、あまり恥ずかしがってはいないようだ。


「夏よりだいぶ成長しましたね。リボンさんは着やせするタイプなんですね」

「夏よりって、私の胸の大きさなんて、覚えてないでしょ?」


「そんな事はないですよ。最初のプールの授業で、僕は花戸さんからリボンさんの水着姿について感想を求められましたから」


 リボンさんの通っていた小学校にはプールが無かったそうで、この学園に来て、生まれて初めて水着を着たそうである。嘘のような本当の話だ。(第95話参照)


「そういえば、センパイは、私の水着姿を見て喜んでたよね。このブラはどう?」

「かわいいデザインですけど、早めに新しいものと替えたほうがいいと思います」


「でも、これ、お姉ちゃんのお下がりなんだよねー」

「服だけじゃなくて、下着もお下がりなんですか?」


「うん。『どうせすぐサイズが合わなくなるから、買っても無駄でしょ』だって」

「さすが花戸さんですね。その通りだったじゃないですか」

「これ、お姉ちゃんが、去年まで着けてたやつなんだって」


「今のリボンさんの方が、3年生の時の花戸さんよりも胸が大きいって事ですね。

 ――ほら、この辺り、胸に引っ張られて結構きついでしょ?」


「ホントだ。だいぶ赤くなってる」


「アンダーは問題なさそうですから、カップを1つ上にしたらいいと思いますよ」

「これはA65だから、次はB65かぁ。お姉ちゃんと同じだよ。どうしよう!」


花戸さんおねえさまと同じサイズだと、何か問題があるんですか?」

「『リボンのくせに生意気!』とか言われそうで、いやだなー」


「あははは、それはあるかもしれませんけど、リボンさんだって『たまには新しい服も着たい』って言ってたじゃないですか」


「そうか! いい事考えちゃった! 今日のうちに、カレシに買ってもらお!

 そうすれば、センパイと別れても『思い出のブラ』として残るよね?」


「え? 僕がリボンさんの下着を買うんですか?」

「だって、私、まだカレシから誕生日プレゼントもらってないし!」

「――あっ!」


 考えてみれば、僕は「ネネコさんからのプレゼント」としてリボンさんに贈られたのであって、僕自身はリボンさんに何もプレゼントしてあげてなかった。


 昨日渡したお菓子は、カレシとして105号室に呼んでもらったお礼だ。

 僕は、ぬいぐるみやお弁当をもらって、お返しすらしていなかったのだ。


「すみません。カレシなのに、プレゼントをすっかり忘れていました」


「私、かわいいブラとパンツの上下セットのやつがいいな!」 

「はい。リボンさんのカレシとして、喜んでプレゼントさせていただきます」


「お姉ちゃんがやきもち焼くかもしれないから、同じサイズで2組欲しいな!」

「了解しました」


 花戸さんのお誕生日はお盆期間中だったらしく、会わないうちに過ぎてしまい、プレゼントは渡しそびれている。ここはリボンさんの要望に従うのが一番だろう。


 この後は2人で売店へ行き、カノジョに欲しい下着を選んでもらった。


 リボンさんが選んだ下着の色はピンクと黒で、先に花戸さんにどちらか好きな方を選んでもらい、残った方を自分で使うらしい。


 そして、105号室の前まで送ってあげたところで、リボンさんとお別れだ。


「センパイ、今日はとっても楽しかったよ。明日からは、また、ネコと仲良くしてあげてね!」


「こちらこそ、いろいろと勉強になりました。短い時間でしたが、僕のカノジョになってくれて、ありがとう。これからは友達として、よろしくお願いします」


「それはこっちのセリフだよ。じゃあねっ、私の元カレ!」

「花戸さんには、よろしくお伝えください。ごきげんよう」


 こうして、リボンさんとの短い交際期間は終わった。


 僕の元カノの下着の色が、ピンクになるのか黒になるのか気になるところだが、見せてもらう機会はもう訪れないだろう。

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