第180話 モテ期が訪れてしまったらしい。
「これ、私が焼いたの。ダビデ君も、食べて、食べて!」
夕食をとった後にケーキを食べるのは、カロリーオーバーな気もするが、お嬢様方にとって、お菓子やケーキは別腹なので何も問題はないそうだ。
「おいしい紅茶も用意しました」
「ありがとうございます。いただきます」
105号室の4人に注目された状態で、パンケーキを頂く。
花戸さんが作ったケーキなら、きっと、とても甘いケーキだろう――と予想しながら口にすると、思っていた通りの激甘なケーキで、渋めのストレートティーとのセットが、とてもおいしく感じられた。
「これは、ケーキも紅茶もおいしいですね」
「ホント? 良かったー!」
花戸さんも、永井さんも、僕の反応に喜んでくれているようだ。
「ダビデさんって、寮では、いつもそんなオシャレな服を着ているの?」
こちらは、
「いえ、この服を着るのは、今日が初めてです」
「私、その服どこかで見た事あるかも…………あっ! 分かったー! ハカリ先輩の服でしょ?」
「よく分かりましたね。花戸さんの言う通り、
「そうなの? ダビデさんって、女子のお下がりとか普通に着れるんだ?」
「はい。先輩からのお下がりだけでなく、
「ナコちゃんの体操着ですか? それじゃあ『お下がり』じゃなくて『お上がり』じゃないですか!」
なるほど。永井さんの言う通り、後輩からもらうと「お上がり」かもしれない。
「僕の方が、体が小さいですからね。そのお陰で服を買わずに済みましたけど」
「私の服も、お姉ちゃんのお下がりだよ。たまには新しい服も着たいのに……」
「もう! そんな事言うと、リボンじゃなくて他の子にあげちゃうからね!」
「ユメちゃん先輩の服なら、かわいいから、私も欲しいです!」
「ごめんね、コユビ。私の服は、あんまりかわいくなくて……」
「お姉さま! 私、そんなふうに思った事は、1度もありませんから!」
105号室の4人も、101号室の4人と同じように仲がいいようだ。
姉妹同士が部活の先輩と後輩でもあり、まるで本当の姉妹のようである。
「ダビデ君、アマアマ部屋の4人って、いつも一緒に行動してて、すごく仲がいいみたいだけど、部屋では普段何してるの?」
今度は花戸さんからの質問だ。
「4人とも部活がバラバラですから、いつも一緒という訳ではないですけど、朝食の後と夕食の後は、かなり長い時間おしゃべりしています。最近では、リビングでコタツに入って、のんびりしている事が多いです」
「そうなんだー。もう1つ聞いていい?」
「はい。どうぞ」
「どうしてダビデ君は、クラスの誰かじゃなくて、
「それ、私もずっと気になってた。普通、同じ学年の子と付き合うよね?」
花戸さんや馬場さんから見ると、僕が1年生と付き合うのは不自然な事で、同じ4年生と付き合うのが自然な事らしい。
僕としては、カノジョになってくれる人が存在するだけでも有難い事なのだが。
「それは多分、僕の精神年齢が女子の皆さんより3つほど低いからだと思います」
「えーっ! そんなこと無いよー。ダビデ君、私達よりずっとオトナだし」
「つまり、蟻塚さんがオトナっぽいって事?」
「それは無いでしょ。ネコがオトナなら、私だってオトナなはずだし」
「私達1年生から見たら、4年生は、みんなオトナに見えますけど……」
「僕がこの寮に来たのは今年の4月ですから、1年生の皆さんとは同期生ですし、4年生の皆さんとは年齢が同じでも、僕の方がレベルはずっと低い気がします」
「ダビデさん、試験の成績は、ほとんど学年1位なのに」
「それで、それで、ダビデ君は、なんで蟻塚さんを選んだの?」
「僕が選んだなんて、とんでもない。僕はネネコさんからの『誕生日プレゼント』で付き合ってもらえる事になっただけですから」
「お誕生日プレゼントでカノジョになってくれたって事? マジで? それって、今の私と同じじゃん」
「実は、その通りなんです。僕はネネコさんにしてもらった事を、今、リボンさんにしてあげているだけなんです」
「ダビデ先輩、それって、私が同じ事をしていたら、先輩のカノジョになれたって事ですか?」
「永井さんが、ネネコさんよりも先にプレゼントしてくれていたら、そうだったかもしれませんけど、多分、ネネコさんにしか出来ない事だったと思います」
「そうだねー。私もダビデ君の事は『友達として普通に好き』だけど、そこまでは無理かなー」
「蟻塚さんは、ダビデさんの事が好きだからカノジョになったのだろうけど、その地位をリボンちゃんに譲っちゃうところは、私には理解できないなー」
「やっぱ、ネコって、ちょっと頭おかしいよね?」
「ネネコさんは、普通の人と比べて『人としての器』が大きいんですよ」
カノジョの目の前で、つい元カノを褒めてしまったが、リボンさんは怒ったりはせず、逆に嬉しそうだった。
「せっかくだから、ダビデさんには、もう少し聴いてもらっちゃおうかな」
馬場さんと永井さんは、ケーキを食べ終えるとピアノの前の2つの
――タッタタタータ、タッタタタータ。
タッタッタッタ、タッタッタッタ。タッタッタッタ、ターン――
馬場さんの弾く、聞き覚えのある
いつも姉妹で練習しているようで、音がずれることも無く、息もピッタリ。
惚れ惚れしてしまうほど、見事な連弾だった。
――パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。
僕が拍手をすると、花戸さんとリボンさんの姉妹も一緒に拍手をしてくれた。
「バナナちゃんもコユビちゃんも、すごいよねぇ」
「お姉ちゃんと私には、絶対マネできないよねぇ」
「お見事ですね。聞いたことのある曲ですけど、これは、なんて曲でしたっけ?」
「シューベルトの『軍隊行進曲』ですよ」
「お姉さまと2人で、よく弾いています」
「このくらい弾けると楽しそうですね。それまでが大変なんでしょうけど」
「好きで弾いているだけだから、全然大変じゃないよ。2学期の歌の試験も、伴奏は、また私に任せてね。ダビデさんの歌声にピッタリ合わせてみせるから」
「ありがとうございます。2学期も、頼りにしています」
1学期の歌の試験は、馬場さんのお陰で、とても助かった。 (第97話参照)
これで、2学期の歌の試験も安心だ。
「リボンは知らないと思うけど、ダビデ君は歌も上手なんだよ」
「そうなの? アタマいいだけじゃないんだ?」
「ダビデ先輩は、すごいですよね。頭が良くてカッコイイだけじゃなくて、足も速いし、歌まで上手だなんて」
「それは、ただの幻想ですよ。永井さんのピアノのほうがずっとすごいですって」
「ダビデさんは歌が上手なのは本当だよ。伴奏していて楽しかったもん。それで、私からダビデさんに、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
「馬場さんからのお願いですか? 僕に出来る事でしたら構いませんけど」
「ダビデさんの暇な時でいいから、声楽部にも遊びに来て欲しいんだ。いろいろと相談したいこともあるし」
「分かりました。放課後、時間のある時に伺います」
「ダビデ先輩、声楽部にも遊びに来てくれるんですか? やったー!」
「ネコの元カレは、明日まで私のカレシだから、そこんとこよろしく」
「ダビデ君、イヤかもしれないけど、明日はリボンと遊んであげてね!」
「ダビデさん、声楽部のほうは、明後日以降でいいからね」
「はい。明日は、リボンさんのお相手が最優先ですね。声楽部の件は、明後日以降という事で、お願いします」
この後は、10時近くまで、お菓子を食べながら5人で談笑し、僕が101号室に戻ったのは、消灯の直前だった。
帰り際に、花戸さんから「リボンのベッドで泊まっていく?」と言われたので、僕はリボンさんの顔を見て、「はい。リボンさんがお望みなら」と笑顔で答えた。
これは、花戸さんに合わせてリボンさんをからかっただけであるが、そのときのカノジョの反応は、僕の想像以上にかわいかった。
リボンさんとの交際期限は、あと1日。明日もカノジョと会うのが楽しみだ。
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