第176話 占星術は幸せを呼ぶ技能らしい。

 11月も終わりに近づき、生娘山には、もう雪が降り始めている。


 昨日までは食堂で行っていた、アマアマ部屋恒例の夕食後の座談会も、今日からは場所を変えて、101号室のリビングで、コタツを囲んで行う事になった。


「ふふふ……今から準備させて頂きますので、しばらくお待ちください」


 部屋に戻ると、天ノ川さんはコタツに入らずに、自分の机の前へ向かう。

 引き出しを開けて、何かの準備をしているようだ。


 僕達3人は、先にコタツに入って、天ノ川さんを待っている。

 コタツでは、いつも僕の左側がポロリちゃんで、右側がネネコさんだ。


「お兄ちゃん、今日はね、ミユキ先輩がみんなを占ってくれるの」

「占い? 天ノ川さんって、そんな事まで出来るんだ?」


「ボクのお姉さまは宇宙人の妹だからね。そのくらい出来て当然じゃね?」

「ふふふ……それなら、私もネネコさんに占星術を伝授しないといけませんね」


 準備を終えた天ノ川さんは、笑顔で僕の正面の席に腰を下ろした。 


「マジ? ボクも占えるようになるの?」

「ネコちゃん、すごーい!」


「占星術って、そんなに簡単に覚えられるものなんですか?」


「細かいところは、占い師自身が占う相手に合わせてアレンジする必要がありますけど、難しくはありませんから、なろうと思えば誰でも占い師になれますよ」


「それは面白そうですね」

「ふふふ……まずは、演出からいきましょうか」


 天ノ川さんは、僕が見たことのない丸い器具をコタツの横に設置してから、照明を落とした。部屋の天井にはうっすらと星空のような模様が映し出されている。


「ポロリは、生娘祭のときに、ネコちゃんと一緒に理科室で見たの」

「プラネタリウムですか。これは、いいですね」


 コタツのテーブルの上には4つに畳まれた状態のハンカチが敷かれ、その上には直径3センチくらいの、透明なガラス玉が置かれた。


「これって、ただのビー玉じゃね?」

「水晶玉の代わりですか? ちょっと小さすぎる気もしますけど」


「大きな水晶玉は何万円もしますが、これなら100円ショップで買えますから」


「何万円もする水晶玉だと、落として割ってしまったら大変ですね」

「そんな間抜けな占い師だと、そもそも当たらなそうじゃね?」

「ポロリもそう思うの」

「いや、誰にでもミスはあるでしょ」


「ふふふ……それでは、最年少の鬼灯おおずきさんから占って差し上げましょう」

「えへへ、お願いします」


 天ノ川さんは、念を込めるように、ビー玉の上に両手をかざす。水晶玉がショボくても、占い師が天ノ川さんなら、お客さんは安心しそうな感じである。


「鬼灯さんは、3月31日生まれですから、牡羊座ですね」

「はい。ポロリは、おひつじ座です」


「アルマジロとリーネも、おひつじ座だったよね?」

「うんっ。サクラちゃんとリーネちゃんも、おひつじ座なの」


 有馬城ありまじょうさんは名前がさくらさんだから、おそらく4月の上旬生まれ。

 リーネさんの誕生日は、4月3日だったはずだ。


「牡羊座の人は行動力があって、好きな事に対して一途なタイプが多いようです。その反面、興味がない事に対しては無関心になってしまうようです」


「えへへ、ポロリも、そうなのかも」

「たしかに、ポロリちゃんは、お料理一筋な感じだよね」


「お姉さま、ボクは?」


「ネネコさんは、8月7日生まれですから、獅子座ですね」

「うん。ボクは、しし座だよ」


「獅子座の人は、目立ちたがり屋で、自信家なタイプが多いようです。気を許した相手に対しては、我がままになってしまう傾向があるようです」


「マジ? それ、ちょっと違くね?」


「そうかな? 僕は結構当たっていると思うけど」

「うん。ポロリも、そう思うの」


 ネネコさんからは、いろいろと相談や注文を受ける事が多いが、それは僕に対して気を許してくれている証拠なのだろう。


 カレシである僕としては、全然イヤな事ではなく、どんな願いもかなえてあげて、思いっきり甘やかしてあげたいくらいだ。


「甘井さんは、10月11日生まれですから、天秤てんびん座ですね」

「はい。僕は天秤座です」


「天秤座の人は、平和主義者で、争いごとを好まないタイプが多いようです。物事を0か1かで判断しない為、周りからは優柔不断だと思われてしまいがちです」


「チョー当たってるじゃん!」

「お兄ちゃんは、平和主義者なの」


「僕自身は、単に気が弱いだけじゃないかと思いますけどね」


 クラスメイトの栗林くりばやしさんや、3年生の柔肌やわはださんも、僕と同じ天秤座だ。

 もしかしたら、僕と似たような性格なのかもしれない。


「お姉さまは、みずがめ座だよね? みずがめ座はどうなの?」


「水瓶座の人は、自由主義者で、変わり者が多いらしいです。人の意見に流されないタイプなので、流行にはいつも乗り遅れてしまうそうです」


「それって、頑固なだけじゃね?」

「ネコちゃん! そんな事言っちゃダメだよぉ!」


「つまり、他人に踊らされないってことですよね。僕は天ノ川さんが変わり者だとは思えませんけど」


「ふふふ……チー先輩も水瓶座ですし、私も似たような性格だと思いますよ。

 ――それでは鬼灯さん、悩み事や、気になっている事はありますか?」


 4人の性格を占ってもらった後は、ポロリちゃんの悩み事相談らしい。


「ポロリは、お兄ちゃんとネコちゃんが、うまくいくかどうかが気になるの」


 僕のかわいい妹は、自分自身の事よりも、兄と親友の仲がどうなるのかが、とても気になっているようだ。


「それって、余計なお世話じゃね?」

「僕達は、今のところ順調だよね?」


「ふふふ……占星術の得意分野は相性占いですから、さっそく占ってみましょう」


 天ノ川さんは、用意していた1枚のシートをコタツのテーブルの上に出した。

 大きな円の中に、時計の文字盤と同じように12個のマークが描かれている。


「この表の1番上のマークが牡羊座で、時計回りに牡牛座、双子座と続きます」


「ボクは、しし座だから、これだよね?」

「そうだね。僕は天秤座なので、一番下のマークかな」


「単純に、2つ隣か4つ隣の星座同士は相性がいいそうです。いかがですか?」


 表を確認すると、獅子座と天秤座は、乙女座を挟んで2つ隣だった。


「ネネコさんと僕は、2つ隣ですね」

「相性は、いいって事じゃね?」


「そうですね。甘井さんとネネコさんの相性は、かなり良いと思います」


 天ノ川さんの言葉を聞いて、ネネコさんと自然に目が合う。


 たったこれだけの事で、なぜか心が満たされたような気がした。僕は占いというものを、今まで信じていなかったが、この結果に関しては信じたいところだ。


「えへへ、ポロリはミユキ先輩と2つ隣で、ネコちゃんとは、4つ隣なの」


 牡羊座と水瓶座は2つ隣で、牡羊座と獅子座は4つ隣だ。

 ポロリちゃんは、天ノ川さんともネネコさんとも相性がいいらしい。


「僕も、天ノ川さんとは4つ隣ですね」


 天秤座から見た場合、水瓶座は4つ隣の位置にあるようだ。

 つまり、僕は天ノ川さんとも相性が良いという事か。


「牡羊座、獅子座、射手座、この3つの星座が火のグループで、双子座、天秤座、水瓶座が風のグループです。同じグループの星座同士は相性がよく、火と風の2つのグループも、お互いに相性が良いと言われています」


「お姉さまとボクは6つも離れてるけど、これはどうなの?」

「お兄ちゃんとポロリも、ちょうど反対側なの」


 獅子座と水瓶座、牡羊座と天秤座は、お互いが向かい合うような位置にある。

 この場合は、どう判定されるのだろうか。


「向かい合う位置の星座同士は、性格は正反対になりますが、お互いが相手の事を理解していれば、最も相性の良い組み合わせになるらしいですよ」


 たしかに、ネネコさんと天ノ川さんは全然違うタイプな気がするし、ポロリちゃんと僕も、物の考え方が全く違うような気がする。


 それでいて、これだけ仲が良いのだから、やはり相性も良いのだろう。


「そうだよね。お姉さまとボクの相性が悪いはずがないもんね」

「えへへ、お兄ちゃんとポロリも、とっても仲良しなの」

「つまり、アマアマ部屋の4人は全員相性が良いという事ですね」

「ふふふ……そういう事になりますね」


 これが単に偶然の結果なのか、天ノ川さんのアレンジによるものなのかは分からないが、この占いのお陰でアマアマ部屋の4人の仲がますます深まった事は間違いないだろう。お嬢様方はなぜ占いが好きなのか、僕にも分かったような気がした。

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