第96話 ロリコンはお呼びでないらしい。

 今日の放課後は管理部の部活動。

 部活動と言っても、やっている事は、売店でのアルバイトのようなものだ。


 入部してから2週間。商品の補充にも、だいぶ慣れてきた。

 梅雨も明け、完全に夏になると、売れる商品も変わってくる。


 僕が気づいたのは、紙パックの紅茶飲料で、今まではミルクティーが売れていたのに、最近ではレモンティーのほうがよく売れている。


 お菓子ではチョコレートが全く売れなくなり、アイスは飛ぶように売れる。

 よく売れる商品に関しては、補充も頻繁に行わなければならない。



「ねえミチノリさん、カンナ先輩から『ロリコンを持って来て』って言われたの。リーネと一緒についてきてくれるかしら?」


 売れた分のアイスを補充していると、背後からリーネさんに声を掛けられた。


「あの……、リーネさん、それって、僕が『ロリコン』って事なんですか?」


 搦手からめてさんがフレンドリーに接してくれるのは、僕に親しみを感じてくれているからだと思っているし、世の中で「ロリコン」と呼ばれる人種が女性から疎まれているという事も理解している。


 僕がリーネさんと組んで仕事をしているから、搦手さんから見たらそう見えてしまうのかもしれないが、「持って来て」だと人間扱いされていない気がする。


 それに、僕がリーネさんを抱えて運ぶことは可能でも、逆は不可能である。


 かわいい後輩には極めて寛容な僕ではあるが、そこは、せめて「連れて来て」と言って欲しいところだ。


「違うの?」


 リーネさんは、僕の顔を見上げる。


 たしかに僕は、周りからどう思われようともポロリちゃんが好きである。ネネコさんも好きだし、リーネさんも嫌いではない。この3名は1年生の中で特に小柄な3名でもある。


 それに、僕は4年生ではあるが、1年生とは同期生なので、1年生の方が他の学年のお嬢様方よりも話しやすいというのも事実だ。


 だが、いろいろとお世話になっている天ノ川さんを筆頭に、クラスメイトのみんなの事も好きだし、もちろん、先輩方にも憧れている。


 決して「小さくてかわいい女の子」だけが好きというわけではない。


 これは「僕の許容範囲が特に広い」とか「僕に節操がない」というわけではなくて、「ここのお嬢様方が学年を問わず、みんな魅力的」であるからだ。


「リーネさんがそう思うのなら、そうなのかもしれませんけど……」


「なら、いいじゃない」

「ダビデしぇん輩、アイシュの補充はアイシュがやっておきましゅ」


「分かりました。安井やすいさん、続きはお願いします」


 すぐ近くにいた安井さんのお言葉に甘え、リーネさんに連れられて、搦手さんのところまで移動する。


 搦手さんがいる場所は、衣料品コーナーの奥。カラフルな下着類が吊り下げられており、オトコの僕にとっては、近寄り難い場所である。


 僕自身は女性用の下着にもある程度は慣れたし、興味もあるが、下着売り場に僕がいるというのは、お嬢様方からすれば、あまり望ましいことではないだろう。


「カンナ先輩、これでいいかしら?」

「リーネちゃん、なんで下着売り場に、ダビデ先輩を連れて来てるの?」


「『ロリコン』って、ミチノリさんの事じゃないの?」


 搦手さんはリーネさんと僕の顔を見て必死に笑いをこらえている。


「リーネちゃん、私が頼んだのは『ロリコン』じゃなくて『折梱おりこん』。バックルームに置いてある、プラスチックでできた折りたためる箱のことだよ」


「ごめんなさい。リーネが間違えました」


 ああ、そういう事でしたか。


「すみません、僕も気づきませんでした。すぐに持ってきます」


 リーネさんがしょんぼりした顔で僕を見上げるので、相方としてフォローする。


 バックルームに置いてあった、それらしき箱は、見た目よりは軽く、リーネさん1人でも持てそうなくらいの重さだった。


「搦手さん、この箱であってますか?」


「ありがと。それであってます。じゃあ、ついでに2人も一緒に手伝ってね」

「はい」

「分かりました」


 搦手さんが折梱のふたを開ける。中身は――


 まるでお花畑のようだった。


 ピンク、白、水色、ライトグリーン、そして、レモン色。

 オトナっぽい黒やベージュに加えて、派手な赤いモノもあるようだ。


「これをサイズごとに売り場に並べるの。色は見れば分かるから、サイズが同じなら全部同じ場所ね」


 こちらの商品はブラとパンツが上下一組で1つのハンガーにセットされている。


 売り場にはフックが設置されており、大きく【A65】とか【B65】とか書かれたラベルが付けられていた。


 アルファベットはA、B、C、Dの4種類、数字は60と65と70の3種類あるようだが、何故か【A70】と【D60】の組み合わせは無いようだ。


 そして、【B65】と【C65】は売り場が2列あった。


「この記号って、どういう意味なんですか?」

「リーネも知らないわ。AとかBとかは、なんとなく分かるけど」


「アルファベットがカップサイズで、数字がアンダーバスト。先輩も主夫志望なら覚えておいたほうがいいと思うよ。将来奥さんに頼まれるかもしれないでしょ?」


 搦手さんが、リーネさんと僕に記号の意味を説明してくれた。

 なるほど、Aカップとか、Bカップとか言うのは、これの事なのか。


「たしかにそうですね。こんなに種類があるなんて、知りませんでした」


「これでも、よく売れるサイズしか置いてないから。補充する商品は、ほとんどが【B65】でしょ? このサイズが一番売れるの」


 搦手さんが部室に置き忘れて、僕がしばらく預かっていた黄色いヤツも、たしかこのくらいのサイズだった気がする。あのパッドは、どうやら別売りのようだが。


「【B65】だと、トップバストはどのくらいなんですか?」


 アンダーバストとは、おっぱいを除いた胸囲であるということは、身体測定のときに教わった。僕の疑問はアルファベットの意味についてだ。


「Bカップは、プラス12.5センチだから、だいたい78センチくらい」


 つまり、この学園のお嬢様方のバストはBカップで78センチくらいが標準という事か。おっぱいを含めた胸囲で、僕の胸囲とたいして変わらないようだ。


「つまり、単純に足し算すればいいわけですね。AやCだとどのくらいですか?」


「Aだと、プラス10センチ。Cだと、プラス15センチだよ」


 つまり、1ランクアップで2.5センチ増という事か。


「Dだと17.5センチ……であってますか?」

「正解でーす」


「ありがとうございます。これで謎が解けました。これって、女性ならみんな知っている事なんですか?」


「多分ね。うちの学園だと、1年生の授業で教わるけどねー」

「そうだったんですか」


「ミチノリさん、リーネもパッドを入れたほうがいいかしら?」

「その質問をここでされても困るんですけど、特に必要ないと思いますよ」

「リーネちゃん、リーネ『も』って、どういう意味?」


「リーネもカンナ先輩と一緒で、まだAカップ以下だわ」


「わわ、私はBカップよ。リーネちゃん、何を言ってるの? ねえダビデ先輩?」


 この人は、僕におっぱいをじかませておいて、今更何を言っているのだろう。


「その件で僕に同意を求められても困るんですけど、搦手さんがそう思うのなら、きっとそうなんでしょうね」



 本日得られた知識のまとめ


 1.ブラのサイズ表記は、カップサイズとアンダーバストの組み合わせである。

 2.アンダーバストのサイズは、最小60センチからで、5センチ刻みである。

 3.Aカップブラのトップバストとアンダーバストの差は、10センチである。

 4.Bカップ以上は、1ランクアップするごとに2.5センチずつ大きくなる。

 5.当学園のお嬢様方の標準サイズは【B65】つまり77.5センチである。


 主夫を目指す者として、覚えておいて損はないだろう。

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