6月の出来事
第78話 夏服は冬服よりかわいいらしい。
今日から6月。お嬢様方も一斉に夏服へと衣替えだ。
僕はいつもと同じように部屋を3人に譲り、洗面所兼脱衣所で干してある洗濯物を眺めながら夏服に着替えている。
男子の制服はワイシャツが半
暑苦しい詰襟の上着を着る必要がなくなったのも、嬉しい事だ。
女子の皆さんは、というと――
「ミチノリ先輩、もう準備できた?」
夏服に着替え終わったネネコさんが、僕の返答を待たずに洗面所に入ってきた。
相変わらず、ハイペースかつマイペースだ。
着ている制服に関しては、濃紺の厚手の生地から白くて薄い生地になった。
3本のラインが入った襟のデザインは同じだが、胸を飾る黒いリボンが、夏服ではスカイブルーのスカーフになっている。
「どう? 変じゃない?」
ネネコさんは入学式のときと全く同じように、洗面台の大きな鏡の前でくるりと回る。2か月で髪も長くなり、以前よりずっとお嬢様らしく見えるようになった。
スカートの丈は短いので、ネネコさんの細くて健康的な脚がよく見える。
よく見えるどころか、もう少しでパンツまで見えそうだ。
「うん、ネネコさんには冬服より、こっちの制服のほうがよく似合うね」
「なんで? ボクって白い服のほうが似合うの?」
「そうじゃなくてさ、スカートが短いでしょ? 脚が長くてカッコいいから。僕は脚が短いから、ネネコさんが
「ボクのこと、そんな風に見てくれてたの? 意外と見る目あるじゃん」
ネネコさんが得意げな顔をすると、
ネネコさんとは最初に会った時から話しやすかったけれど、最近はだいぶ親しくなれた気がする。いい事も悪い事も、すべて正直に話すのが、ネネコさんと楽しく会話をするコツだ。
「でも、パンツが見えそうだったから注意しないと」
「べつにいいじゃん。どーせ女の子しかいないし」
ネネコさんは見られても困らないようだが、お嬢様としてはどうなのだろう。
「いや、男の先生はいるでしょ。3人くらい」
理科の
あとは全員女の先生だったと思う。ちなみにこの学園の先生方は、男女合わせても10人くらいしかいない。
「そうだった。じゃあ、男の先生には見せないようにするよ」
こういうところはすごく素直で、かわいい後輩といった感じがする。
だが、普段は僕が部屋に居ても全く気にせずに隣で着替え始めてしまうのだ。
「僕には見えてもいいの?」
「ミチノリ先輩はボクのパンツなんて、しょっちゅう見てるじゃん」
たしかにネネコさんのパンツはいつも僕が干している。
どれも猫のキャラクターがプリントされたかわいいパンツだ。
だが、「女の子の下着」と「下着姿の女の子」では、後者の方が圧倒的に刺激が強いという事は、僕がこの学園で身をもって学んだことだ。
「それはそうだけど、中身があるかないかで全然違うでしょ?」
「そっかー、それもそうだね」
ネネコさんは、どうにか納得してくれたようだ。
「ネコちゃん。次はポロリの番なの」
ポロリちゃんも着替え終わったようで、鏡の前で夏服姿を見せてくれた。
ポロリちゃんの場合、普段脚を見せるような格好をしない為、ミニスカートの下から白い太もも(ただし太くはない)まで見えるのは新鮮だ。
冬服と違い半袖なので、手のひらが袖に隠れる状態(「
どちらかというと、冬服の方が似合っていたような気もする。
だが、「ポロリちゃんが着ていた服」と「ポロリちゃんが着ている服」では後者の方が圧倒的にかわいいという事も、僕がここで身をもって学んだことだ。
「似合ってるよ。すっごくかわいい」
「えへへっ」
つまり、ポロリちゃんの場合、どんな服を着ていてもかわいいのだ。
例えば、僕のワイシャツなんかを着ていたとしても、かわいく見えるはずだ。
普通の服が、ポロリちゃんが着ることによって、かわいい服に変化する。
これはイケメンの人が、どんな服を着ていてもカッコイイのと同じ原理だ。
「ミチノリ先輩、やっぱりロリのこと好きなんじゃないの?」
「ふふふ、ネネコさん、それは当たり前の事ですよ。私だってかわいい妹は大好きですから……」
「お姉さま」
ネネコさんから僕にツッコミが入ったが、天ノ川さんが透かさずフォローしてくれる。天ノ川さんは、なんでもお見通しのようだ。
「ほら、今度はスカーフが曲がっていますよ」
僕にはスカーフの正しい角度というものが分からないし、曲がっていることにも全く気づけなかったが、さすが天ノ川さんだ。僕も見習わないと。
そして、天ノ川さんの夏服姿はどうかと観察してみると――
「天ノ川さん……」
僕は天ノ川さんの胸を見て
「甘井さん、どうかなさいましたか?」
――
漫画やアニメでしかあり得ない、と思っていた光景がそこにあった。
これは、いったいどうなっているのだろう。
「そんなにジロジロと見られたら、いくら私でも恥ずかしいですよ」
「あっ、すいません、ごめんなさい、つい」
僕は速やかに謝罪して目を逸らす。
「いや、これは驚くよ。袋に入ってるみたいだし」
ネネコさんは僕の驚きに賛同してくれている。
「ミユキ先輩、すごーい!」
ポロリちゃんは感激している。
どうやら驚いたのは僕だけではなかったようだ。
「お姉さま、これはどうなってるんですか?」
ネネコさんが3人を代表して天ノ川さんに質問してくれた。
「ふふふ、これはですね、一回り大きな制服を用意して胸の真下で少し生地を折って、こうして胸に挟むんです。そうすると汗でベタベタしなくなるので、だいぶ楽なんですよ。それに、このほうが
たしかに、冬服のときのたくましいほどの体の厚みが消えて、胴回りが細く
「山の上だから、もっと涼しいのかと思ってましたが、意外と蒸し暑いですよね」
「湿度が高いですからね。暑くなってくると突然雷がなって大雨が降ることがありますから、それだけは注意しておいたほうがいいと思います」
雷か。山の上だと危険度は増すのだろうか。
「お兄ちゃん、地元ではね、『らいさま』って言うの」
「らいさま?」
「うんっ。『らいさま』にね、おへそを取られちゃうの」
「ああ、かみなりさまの事か。そういえば、英語のサンダース先生の事をクラスのみんなは『らいさま』って呼んでいましたね」
サンダース先生は、背も鼻も高く、顔も赤い。体も声も大きくて、まるで
天狗ではなく雷様なのは、おそらく名前がサンダースだからだろう。
「そっかー、それで『らいさま』なのかー。この学園の中で一番強そうだよね」
ポロリちゃんの説明に、ネネコさんも納得している。
この呼び名は既に1年生にまで浸透しているようだ。
「サンダース先生は、この学園まで徒歩でご通勤なさっていますよ」
「毎朝登山なんですか?」
「いえ、お住まいはご近所です。近くの山の中にご家族と一緒に住んでいらっしゃいます。奥様は、この学園の卒業生だそうですよ」
近くの山の中か。自然に囲まれた素晴らしい環境……という見方もあるが、最寄りの駅まで車で30分。徒歩だと5時間。こんなところで暮らすのは大変そうだ。
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