第76話 成績上位者が発表されるらしい。
中間試験も無事に終わり、答案用紙は全て採点されて帰ってきた。
僕が不得意な家庭科の試験は期末のみなので、結果は全体的に良かったが、国語と英語、つまり語学系の教科は予想以上に難しかった。地歴と公民も語学系ほどではないが、僕にとってはかなり難しく感じるくらいのレベルだ。
しかし、僕以外は女子生徒しかいないだけあって、数学や情報、理科の問題は信じられないくらい簡単な問題ばかりで、これが本当に高校生向けの試験なのだろうかと疑ってしまうほどに易しかった。
100点の答案用紙を続けて3枚も返されたのは小学校低学年のとき以来だ。
「甘井さん、もうすぐ四天王が発表されるみたいですよ」
寮の食堂前のロビーは校内新聞の発行日と同じように賑わっている。
中間試験の成績上位者の名前がここに
昼食の前に天ノ川さんが僕を誘ってくれたので、立ち止まって2人で一緒に結果を確認することにした。
大きな模造紙を壁に貼っているのは、おそらく6年生の先輩だ。
ヨシノさんが助手で、貼るのを手伝っている。
これもきっと広報部の仕事なのだろう。
「なんで四天王なんですか?」
「
天ノ川さんの話を聞いただけで、ジャイアン先輩が「納得いかなーい!」と言って、ほっぺたを膨らませている光景が目に浮かんだ。
「ここは優しい世界ですね」
「ふふふ……、今回もやっぱり4位だったみたいです」
最初に6年生の成績上位者が貼り出された。
上級生から順に貼り出されるようだ。
6年生成績上位者
1位 下高 音奈
2位 草津 照
3位 相田 美魚
4位 心野 智代
ジャイアン先輩が万年4位ということは、上位4名は
「甘井さんは、6年生の上位の先輩方をご存じですか?」
「2位の
いきなりとんでもない質問をされた事は、黙っていたほうがいいだろうか。
「そうでしたか。私の聞いた話によると、草津先輩は
肛門科の先生のお嫁さんか……あー、なるほど。
「3位の
オムライスに「みうおさん♡」と書いた記憶があるので、おそらく当人だろう。
「相田
草津先輩もジャイアン先輩も面白い先輩だと思うが、「面白い」というのは誉め言葉なのだろうか。
「そういえば、今貼り紙している先輩も6年生ですよね?」
あの先輩のオムライスに、僕は「きずなさん♡」と書いた覚えがある。
相田先輩と一緒だったはずだ。
「あの方は広報部の部長さんで、
「そうだったんですか」
寮の人たちの全貌が少しずつ分かってきて、なかなか興味深い。
「四天王筆頭の
「それは
6年生の先輩方は雲の上の方々ばかりだが、そこまで凄いとは……。
「次は5年生ですよ」
5年生成績上位者
1位 古田 織冷
2位 升田 知衣
3位 交合 生初
4位 足利 芽吹
「
「1つ上の先輩方は実力伯仲で、試験ごとに毎回順位が入れ替わっています。今回はオリビヤ先輩が1位みたいです」
「たしか茶道部の部長さんでしたよね」
上田さん本人は「お姉さま」ではなく、なぜか「師匠」と呼んでいたが。
「茶道部には6年生がいませんから、5年生のオリビヤ先輩が部長になられたそうです」
そういえば、茶道部って普段はどんな活動をしているのだろう。ただお茶を
「4位の
「そうですね。管理部の仕事は、とても忙しいそうですよ」
アルトリコーダーを予約したときに、わざわざ101号室まで届けてくれたのが足利先輩だ。それに、僕のスマホは今も管理部で預かってもらっている。
「いよいよ4年生ですね」
4年生成績上位者
1位 甘井 道程
2位 天ノ川深雪
3位 大石 御茶
4位 横島 黒江
「ふふふ……、甘井さん、やりましたね。アマアマ部屋でワンツーですよ!」
「僕が1位……って、これ、ホントですか?」
天ノ川さんが嬉しそうに両手を上げて手のひらをこちらに向ける。
これは……そうか、ハイタッチというヤツか。
――パチン!
もちろん、成績1位もハイタッチも生まれて初めての事だ。
僕は不覚にも嬉しくて泣きそうになった。
「甘井さん、おめでとうございます」
「ぐぬぬ。2位は取れると思ってたのに……」
ハイタッチの音に釣られてやってきたのは、残る四天王の
横島さんは穏やかな笑顔だが、大石さんは悔しそうだ。
「すみません、僕なんかがトップで……」
いきなり新入りの僕がトップを取ってしまったら、今までずっとここで頑張ってきた人達は面白くないだろう。
「いえ、全然……そんな事ないですよ」
「ダビデさん、次は負けないからね!」
「ふふふ……、私たちは去年までと同じ順位ですから」
そういえば、陸上部で一緒に走ったときに宇佐院さんが言っていた。
去年までいた優等生が飛び級扱いで「
どうやら、その人の後釜としての役割は果たせたようだ。
続いて3年生の成績上位者が貼り出された。
3年生成績上位者
1位 羽生嵐 葵
2位 高木 初心
3位 信楽 鼓
4位 搦手 環奈
この4名の中では、高木さんと信楽さんとは普通に会話できるが、羽生嵐さんと搦手さんとは、まだ話したことがない。
続いて2年生。
2年生成績上位者
1位 浅田 千奏
2位 安井 愛守
3位 尾中 胡桃
4位 入部 誘
上位2名は名前で分かった。「あいしゅさん♡」「ちかなさん♡」と2人分続けてオムライスに名前を書いてあげた覚えがある。
食堂で見かける仲の良さそうな、あの2人組。
舌足らずな感じでしゃべるほうが
3位の
尾中さんは、あれからも何度か101号室のトイレを借りに来て、その都度掃除までしてくれている。
入部さんは、名前を知ったのは最近だが、ネネコさんと2人で体験会に参加したときに受付で「ただハダカを見てシャセイするだけですから」と言った子だ。あのセリフは僕の脳内ボイスレコーダーに永久保存され、消去不可能となっている。
最後に1年生。
1年生成績上位者
1位 真瀬垣里稲
2位 畑中 果菜
3位 大間 名子
4位 中吉 梨凡
1年生は全員顔見知りだが、成績上位者の共通点は「お姉さまの面倒見の良さ」だろう。
ヨシノさん、
今回、僕の場合は自分の事だけで手一杯だったが、次は僕も兄として、しっかりとポロリちゃんをフォローしてあげなければならないだろう。
ちなみに天ノ川さんは、ネネコさんの質問には答え、悪い事をしたら叱り、いい事をしたら褒めるが、試験に関しては放任主義らしい。
「今日はこの4人でランチにしない?」
「そうですね、私は構いませんけど……」
「ふふふ……、もちろん、私も賛成です」
大石さんの意見に横島さんと天ノ川さんが賛同する。
「4人って、僕も一緒でいいんですか?」
「当たり前じゃない。ダビデさんが四天王の筆頭、つまり首席なんだから」
「甘井さん……もしかして、私たちと一緒ではご迷惑でしたか?」
「いえ、みなさんが誘ってくれるのでしたら、喜んで」
「それでは、甘井さんと私は、いつもの席ですね」
天ノ川さんは、いつもと同じように僕の左斜め前の席へ。
大石さんが僕の正面に。最後に横島さんが僕の左隣に座る。
4年生は18人しかいないので「首席」というのは大袈裟だが、学年1位には違いない。僕は「四天王の筆頭」として、成績上位の3人と一緒に楽しいランチタイムを過ごしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます