第79話 門作り

 階層間を繋ぐ階段を土で埋め、車でも通れるようにスロープ状に改装した為、中々急な上り坂となってしまっているスロープを上り、2階層まで上がってくると体育館ぐらいの大きさの部屋に出る。


 通称「体育館部屋」


 昨日、被害の確認の為に見に来た時は、あちこちにアイアンゴーレムの残骸が重なり、散らばっていたが、不眠不休で働いてくれたゴーレム達によって綺麗に片付けられ、今はアイアンゴーレムの残骸は一つも見当たらない。だが、その代わりに毎朝4時になるとリポップされるモンスターが地面に転がっていた。


 ダンプカーのタイヤの様な形と大きさで、ダンゴムシ型のモンスターのピルバグ。自ら移動したりはしないのだが、その代わりに外殻が異様に硬く、初めの頃はつるはしをチカラ一杯突き刺し、ようやく倒す事が出来ていた相手だった。だが、アイアンゴーレムの腕をランス状にして突き刺しても倒せるようになり、ミスリルソードを手に入れてからは草を薙ぐ様にすれば簡単に切り裂く事ができ、今では単なる雑魚キャラに成り下がってしまっていたのだった。


「よいしょ~。」


 片腕でミスリルソードを振り回すと、ズバッと床に転がるピルバグを苦も無く切り裂き、紫黒の煙へと変えていく。


 体育館ぐらいの大きさの部屋が、車が1台通れるぐらいの通路で繋がり、真っ直ぐに3部屋連なった形の2階層を、散歩をするような感覚で歩き回り、あっさりと本日湧き出たピルバグを殲滅し終えると、1階層へと上るスロープの元にやって来ていた。


 10体のアイアンゴーレムを引き連れたまま、ゴルと一緒にスロープを上って行くと、かなり久々に聞くブーンという独特な羽音が聞こえて来た。

 どうやら罠を壊されてしまったせいで1階層のモンスター、ハチ型のニードルビーが自由に飛び回っている様だ。


 ニードルビーは鳩ぐらいの大きさがあり、空中を飛び回り、お尻にある太い針を突き刺してくる。一見、話を聞いただけだと強いモンスターの様に聞こえるが、実際には刺されても針に毒は無くチクッと痛いだけだし、薄くて小さな羽だと飛ぶのに精一杯の様で、動きはかなり遅く、近くに飛んで来たら手で叩き落とせばあっけなく死んでしまうぐらい弱い奴だ。1階層に相応しい最弱のモンスターだろう。


 ニードルビーはそんな最弱のモンスターなだけに1日にリポップする数が敬太が知っている中では一番多く、毎日50匹前後湧いてくる。1匹倒すと1万円。塵も積もればなんとやら。まぁ、ちまちま倒すのが面倒なんで罠を仕掛けたんですけどね。



 1階層へと続くスロープの坂道を上り終えると、とりあえず目に付いたニードルビーらを片っ端からバシバシと素手で叩きまくり、次々と紫黒の煙へと変えていった。


 スロープから続く部屋には20匹ぐらいのニードルビーがいたが、あっという間に全て叩き終え、目障りな物が居なくなると、地面に散らばる罠の残骸が目に付いてしまう。


 スロープを背に左手側にある通路の奥がニードルビーの湧き場所で「蜂の巣部屋」と呼び、罠を仕掛けていた場所なのだが、そこへと続く通路から木っ端だの、罠に使っていた支柱だの、切れた電線なんかが吐き出される様にして部屋の中に散らばっている。どれだけの威力で破壊したのだろうか・・・。


 復旧作業の優先順位としては、まずは外敵をダンジョンに入れなくするように門を直すのが一番大事で、それが終わったら罠を直すって感じなので、ここの罠の残骸は一旦無視する形になる。


 滅茶苦茶になっている蜂の巣部屋の中に居るニードルビーも叩き落したら、ダンジョン入口の門の方に向かい、途中の部屋に居たニードルビーも全部倒して進んで行く。



 ダンジョン入口の門まで辿り着くと、外でえっちらおっちらとストーンゴーレムを運んでいるアイアンゴーレムが見えた。


「ゴーさん、ここも『吸収』しちゃってくれる?それで『吸収』が終わったものと、まだのものと分けて置いといてくれると助かる。」


 外に集められているストーンゴーレムの残骸の山を見てから敬太が指示を出すと、手首から擬態を解きながらドロリと地面に降り立ったゴーさんはシュタっと敬礼ポーズをして、それから敬太が連れて来た今日の分のアイアンゴーレムと共にダンジョンの外に出て行った。


 さて、外のストーンゴーレムの残骸の始末はゴーさんに任せて、こっちはこっちで門の残骸の撤去をしてしまいましょうか。



 手始めに、地面に落ちている門の補強の為に打ち付けてあった鉄板や、砕けて飛び散っている木っ端なんかをホイホイと「亜空間庫」に回収していき、ある程度周りが片付いたので、今度は基礎部分に残っている柱なんかの大物を回収し、折れてしまっている門の枠組みや、曲がったボルトにぶら下がっている木材なんかも回収していった。


 便利な物で「亜空間庫」を使うと10分とかからず門の残骸の片付けは終わってしまった。だが、ここからが問題だ。素人でも作れる木の門だと簡単に破られてしまうので、破られない様な門を作らなくてはならない。

 そこで、真っ先に思いついたのが牢屋の様な鉄製の門。開け閉めが簡単に出来て、それでいて頑丈。何処で買う事が出来て、どうやって設置するのかは分からないけど・・・。


 しかし、ここで思い出す。マシュハドの街に行った時、アイン鉱山の麓の森でシルバーランクPTに襲撃され、その際、敷鉄板すら切り裂く者がいた事。

 現実世界では頑丈で壊す事が出来ない様な牢屋の扉でも、簡単に切り裂き破壊出来る者がいる世界なのだ。


 そうなってくると、もっと分厚い鉄の門とか、中世ヨーロッパ風の落とし格子の様な大掛かりな門が必要なのかもしれない。

 しかし、それらもどうやって入手すればいいのか、どうやって作って行けばいいのか、日曜大工の枠を出ない敬太の技量、知識ではさっぱり分からなかった。


「う~ん・・・。」


 敬太は長い時間腕を組み、どの様な門が現実的には良いのか考えていたが、頭の中にある知識だけではいくら考えても答えが出る事は無かった。

 ふと地面に目をやると、ゴルが暇そうにして地面で丸まっている。


「戻ろっか。」

「ニャー。」


 ちょっと腹も減って来ていたので、スマホの時を見ると既に12時を過ぎていたので、入口の寸法だけちゃちゃっと測り、後は現実世界に戻って調べようと頭を切り替えた。


「ゴーさん。改札部屋に戻ってるね。」


 外に居るゴーさんを見ると忙しなく「吸収」の作業をしていたので、一緒に部屋に戻っても仕方が無いと思い、声だけかけてこのまま外に置いていこうと思った。

 

 しかし、声を掛けられたゴーさんは「分かった」とばかりにシュタっと敬礼ポーズをした後に、傍にいた1体のアイアンゴーレムを指差していた。

 敬太は一瞬何かと考えていたら、その指差されたアイアンゴーレムが敬太の方にテコテコと歩いて近づいてきた。


「連絡係かな?」


 何となく察した敬太が確認の為ゴーさんに尋ねてみると「その通り」だと言わんばかりに再び敬礼のポーズを決めていた。


「分かった、それじゃコイツは部屋に連れて行くね。また夜ご飯の前にでも様子を見に来るよ。」


 



 改札部屋に戻ると、部屋に籠ったまま過ごしていたモーブ達と昼食を済ませ、簡単には作れないかもしれないと、門の話をした。


「うむ。そうか。」


 ダンジョン関係の事は敬太に一任しているモーブは、一言だけ返事をし、自分は居候なのだからそういった事は任せるとの事だった。信頼されているのか、そこまで問題視していないのか。どちらにせよ、任されたからにはしっかりした物を作らなくてはないらないな。


 早速、敬太は怪我のカモフラージュを施し、今度はゴルに2代目ハードシェルバッグに入ってもらい、昨日に続き今日も現実世界に戻って行った。


 今回調べるのは門の作り方なので、調べ物をする量が多くなりそうだし、自分で門を作るとなったら図面も引く事になるかもと思い、長期戦を見越して実家に帰る事にした。



 タクシーを使い、いつもの様にススイカで支払いを済ませると玄関のカギを開け、一直線に自分の部屋へ行き、久しぶりにパソコンを立ち上げた。

 ファンの回る音が部屋に響き、パスワードを入力するとデスクトップ画面が映し出される。


 足元ではチャックを開けて置いていたバッグからゴルが顔を出し、ここは何処だとキョロキョロしていたが、ゴルも知っている敬太の実家だと分かるとステテテと足音を立てながら家の中の探検に出かけて行った。


 実家にもゴルの水の器があるので、軽く水洗いをした後に、水を入れて床に置いておく。探検に疲れて帰って来たゴルは水を欲しがるだろうと見越しての事だ。



 さて、家まで戻って来た目的を果たそう。

 門から始まり、頑丈、鉄など関連しそうなワードを入力して欲しい情報を探していく。メーカー品から、輸入品。世界各地の門の写真や中世ヨーロッパ風の城の写真。それから柵や扉でも使えそうな物を探してみる。


 しばらくネットサーフィンをし、あーでもない。こーでもないと色々な所を探ってみたが、それで分かったのは、敬太が求める様な頑丈な門は売ってないって事だった。

 きっと近所の業者に金を積めばやってくれる所はあるのだろうが、業者の人を連れて異世界に行くってのはどう考えても現実的じゃない。


 そうなると残された道は自作と言う事になるのだが、敬太が求めるのはシルバーランクPTとの戦いの事を考慮して、それでも耐えられそうな敷鉄板10枚分ぐらいの厚みがある物か、それぐらい頑丈な物になるのだが、とてもじゃないが素人の敬太には自分で作って設置するなんて事は出来そうもなかった。

 敷鉄板10枚分という事は厚みは20cm以上、重さ8tからの鉄の扉になってしまうのだ。まぁ、どう考えても人のチカラで開け閉め出来ないだろうな・・・。


 頑丈な門作りにおいて、早くも暗礁に乗り上げてしまった感があり、途方に暮れてしまう。


「う~ん。」

「ニャーン。」


 敬太が腕を組み唸り声を上げると、いつの間にやら探検から戻って来ていたゴルが足元から声を上げていた。

 下から敬太を見上げているゴルをひょいと抱え上げ、膝の上に乗せると、柔らかい毛並みを楽しんだ。




 結局、夜になっても良い案は浮かんで来なかったので、気分転換に歩いて駅まで向かって行く。

 良く聞く話で、漫画家や小説家が行き詰まると、散歩をして閃きを得たり、良いアイディアを思い付く事があると言うので、敬太も真似して歩いてみたのだが、特に効果は出なかった様で、何も思い付かないまま駅まで辿り着いてしまった。


「はぁ~。」


 こうして、何の成果も得られないまま、半日を無駄に潰してしまったという結果だけを残し、トボトボと改札部屋へと戻って行くのだった。

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