第74話 亜空間庫の使い方
敬太は改札部屋で遅い食事を済ませると、ネットショップで必要になりそうな物を買い漁ったり、「亜空間庫」に残っていた「ゴーレムの核」を使い、敷鉄板でアイアンゴーレムを作り出したりと、外に打って出る準備をしていた。
「ケイタ。わしも出るぞ。」
「モーブ・・・そうですね。お願いします。」
「うむ。」
すると、モーブも一緒に打って出てくれると言い出したので、少し考えたがお願いする事にした。相手は6人。敬太に考えがあっても、その上をいかれアッと言う間に追い詰められてしまう可能性は大いにあるのだ。危険でも攻め入る時は最大戦力で行くってのが、定石だろう。
「さて、準備はいいですか?」
「うむ。大丈夫じゃ。」
「それじゃ、ゴーさんセット!」
モーブとちょっとした打ち合わせを終わらせると、最後にゴーさんとアイアンゴーレムを使い、敬太の体に纏わりつく様に変形してもらう。そうするとゴーレム達の鉄がプレートアーマーの様になって敬太の体を包み込み、スキル「同期」(シンクロ)を使い、敬太の動きに合わせて動いてくれるので、重さを感じる事はない鎧が出来上がる。何処かの武器商人の社長の様に飛べたり光線を打つことは出来ないが、それに近い見た目になっているだろう。
「クルルン、テンシン。外に出ちゃダメだからね。」
「うん。」
「は~い。」
「では、行きましょう。」
「うむ。」
気合いを入れて、改札部屋の扉を開けダンジョンに出た。
「ギャァー。」
すると、すぐそこにある小屋の屋根の上に大きな鳥がいて大声で鳴き出し、小屋の中から人が飛び出て来た。
「なんだお前ら?何処から湧きやがった!」
真っ先に筋骨隆々で、青みがかった斧を持つ男が話しかけて来た。改札部屋の扉は敬太が許可した人じゃないと見る事も出来ないらしいので、突然現れた様に見えたのだろう。
「あなた達こそ何ですか?」
「うわっ!しゃべったっす。」
「ふぉふぉふぉ。」
「人が入ってたんだねぇ~。」
「お前がゴーレム使いなのか?」
そんなに驚か無くても・・・。しかし、なんだろうゴーレム使いって。確かに敬太はゴーレムを使い薬草を採取したり、人を運んだり、ダンジョンを守らせたりしているが、そんなあだ名がついているのだろうか?
「そうかもしれませんが、分かりません。」
「えっ?・・・違うの?」
「やっぱりゴーレム使いはもっと下の階層にいるんじゃないの~。」
「ふぉふぉふぉ、ならば、ここまで続いていた轍は、お前さんが付けたものじゃ無いのかのう?」
轍か・・・。ジープのタイヤの跡を追って来たのかもしれない。
ちらりと横に目をやると、ゴーグルと防毒マスクをしたモーブが、鉈を握りいつでも飛び出せるようにしている。
6人組は壁を背にしている敬太達を取り囲むように、徐々に展開しているが、まだ攻撃しては来ない。
「轍は、多分私が付けた後です。」
「ほら見ろ!やっぱりゴーレム使いじゃねえか。」
「ご、ゴーレム使いなんだな。」
敬太がゴーレム使いだと判明すると、6人組の雰囲気が変わった。そろそろ来そうだな。
敬太は軽くモーブに目配せをすると、打ち合わせ通りにモーブが1歩後ろに引いてくれた。
「縮地・・・剛打だよ!」
するとその瞬間、ふくよかな手ぶらのおばちゃんが消え、敬太の目の前に現れたと思ったら殴られて吹き飛ばされてしまった。
「くっ・・・流石に固いねぇ。」
「サミー、じじい打て!ウラクとマルンは突っ込め!」
「了解っす。」
「ふぉふぉふぉ。」
「い、行くんだな。」
「・・・分かった。」
敬太が殴られた勢いで、後ろの壁に激突し、息を詰まらせていると、続々と飛び掛かって来るのが目に入った。
しかし、敬太は焦らなかった。対人戦はモンスターと戦うのとは違う、完全に対人戦用に戦闘を組み立てなければならないのを知っている。苦い経験を経て、あれこれ考え、作戦を立てているのだ。
「亜空間庫」
壁に背中を付けながら、腕を前に出し狙いを付け、集中して「亜空間庫」を使った。
「なんだいこれは?」
「わ、わ~。」
「・・・恥ずかしい。」
「おいおい、どうなってんだ!」
「キャー見ないでっす。」
「ふぉふぉふぉ。」
まずは「亜空間庫」に全て取り込んでしまう。6人組の武器、防具、服、荷物、履物全てだ。有効範囲は10~15mぐらいだが、きっちり「亜空間庫」の適応範囲を検証していたので、取りこぼしは無かった様だ。
襲い掛かろうとしていた6人組は、急に武器が無くなり、素っ裸になっしまい、驚き、恥ずかしがり、あたふたしている。
「モーブ、今です!」
「うむ。」
第一段階が上手くいったので、続けて第二段階に移行する。
パンッ!パンッ!
モーブと二人でネットランチャーを撃った。すると筒の中から広がった網が飛び出し、当たった人に絡まって行く。1本49,980円となかなかの値段がする防犯グッズなのだが、効果は抜群だ。かなりのスピードで3m×3mの網が広がりながら飛んで行くのだ。狙われたら避ける事は難しいだろう。
網が被さり藻掻いて暴れるほど絡まってしまう。足は取られ地面に転がり、何もする事が出来ない。
「ふぉふぉ・・・舐めるな小僧・・・水獄じゃ!」
一番、敬太達から遠くにいた魔法使いの老人には、網の掛かりが浅かったようで、素っ裸で地面に転がりながらも、網から腕だけを出して魔法を撃ってきた。
距離が開くとネットランチャーの網を避ける事が出来るとは。これは使ってみないと分からない事だった。
「亜空間庫」
しかし、これも想定内だ。敬太は目の前に現れた水の塊を「亜空間庫」にしまってしまった。そう「亜空間庫」には魔法ですらしまう事が出来るのだ。
これはモンスターと戦っている時には気が付かなかった事なのだが、シルバーランクPTと対人戦をやった時には魔法を撃たれ、それに苦しめられたので、どうにかならないかと考え、思いついた戦法だった。
自分の魔法で検証し、撃った「火玉」を「亜空間庫」にしまう練習をしてきた成果が、今ここで役に立った訳だ。
「な、なんと・・・。」
「マジかよ・・・。」
「見ないで欲しいっす。」
敬太が魔法に対応している間に、モーブが6人全員と大きな鳥にネットランチャーを撃ち終えていたので、次の作戦に移る。
「モーブ、行きましょう。」
「うむ。」
敬太とモーブは撃って空になったネットランチャーの筒を地面に投げ捨て、新しい武器を両手に持ち、地面で蠢いている6人組に迫った。
プシュー バチバチ!
行動を封じた後は、制圧だ。片手に催涙スプレーを噴射しながら網に絡まった人に近づき、怯んだ所でスタンガンで止めを刺す。催涙スプレー対策に、モーブにはゴーグルと防毒マスクを付けてもらい、敬太はゴーさんの鎧で空気を遮断してもらっている。
「め、目がああぁぁ~~。」
「いたたたたっ!けほっけほっ。」
「・・・痛い。」
催涙スプレーも防犯グッズで1本6,300円。米軍正式採用の物で、真面にくらうと痛さで動けなくなる程の威力らしい。スタンガンは国内最強クラスの威力がある77万ボルトで15,800円だ。こっちも動けなくなる程痛いらしい。
敬太とモーブで1セットずつ持って回って行く。催涙スプレーをプシューっとかけたら、スタンガンでバチッ!
国内最強クラスのスタンガンの音がデカくてビビるけど、直接地肌に当てた威力は凄まじくバチバチッっと2度~3度当ててやると、うずくまったまま動かなくなっていく。
「うぐっ・・・ぐぅ・・・。」
「うぅ・・・。」
最後に小屋の前でバタバタと暴れている大きな鳥にも催涙スプレーをかけて、静かにさせておいた。
「ギャァー・・・。」
目、鼻、喉と痛みが出て、声が出せなくなる催涙スプレー。効果は抜群だ。
さて、後は抵抗出来ない内に拘束してしまおうか。
結束バンドとガムテープを「亜空間庫」から取り出し、モーブにも渡そうと後ろを振り返ると、そこには魔法使いの老人を踏みつけ、鉈を振り上げるモーブの姿があった。
「え、ちょ、モーブ!」
敬太的には襲撃者を殺す事までは考えてはおらず、拘束したら街の傍に捨てようかなぁと思っていたので、モーブの行動に驚き声を上げた。
「ん?どうしたんじゃケイタ?」
しかしモーブは、鉈をしっかりと魔法使いの老人に振り下ろしてから、敬太の声に反応して視線を向けて来た。一撃で切り離された老人の首がごろりと転がる。
よく見ると、既にもう2体ほど首が切り離されているのが、モーブの後ろに見えた。襲ってきた連中に指示を出していたリーダー格とみられる、筋骨隆々の男。敬太に殴りかかって来た、ふくよかなおばさん。そして今しがた、目の前で切られた魔法使いの老人。襲ってきた6人中、既に3人首がない状態だった。
確かに、モーブとはこうやって抵抗出来ない様にするからと打ち合わせはしていたが、その後どうするかまでは話し合っていなかった。
モーブは殺すのが当然と言ったいつも通りの態度だ。それは、間違いなく一番安全な方法だろう。復讐の心配も無いし、漏れる情報も無い。だが、敬太は未だに人を殺すのに抵抗があって、どうしてもそれ以外を考えてしまう。
「ぜ、全部殺します・・・?」
「うむ。わしはそうして今まで生き残って来たのじゃ。」
説得力があり過ぎる。敬太のただ殺すのが嫌だと言う個人的な感情論では太刀打ち出来そうもない。ゴーレム達は壊され、ダンジョンの防衛が手薄になってしまっているのもあるし、モーブを説得できる程の殺さない理由が思い浮かばなかった。
しかし、モーブが槍を持っていたガタイの良い女の首を刎ねた所を見ていると、大事な事を思い出した。
「あっ、ちょっと一人だけ残してもらっていいですか。」
「どうしたんじゃ?」
「この間、ダンジョンで拾った薬を試したいんです。」
「うむ。あれか・・・。なるほどのう。」
ここで思い出したのが10階層のボス的ポジションにいたアメダラーを倒した時に拾った「尊師の聖水」だ。黄色い液体の裏切れなくなる薬。
拾った時にモーブにも説明していたので、その効果の方は分かってるはずだ。
「うむ。子供に危険が及ばないなら、ケイタの好きにするといいじゃろう。」
「多分、思っている通りの効果ならば大丈夫だと思うのですが、その辺は実際に使ってみないと分からないです。でも、まぁその時は何とかします。」
「うむ。ケイタもまだまだ若いからな。残すのは女でいいんんじゃろ?」
地面に転がり、首を刎ねられずに残っているのは、大きな盾を持っていた太った男と、弓を持っていた女だけなので、まぁ・・・下心もあり、そうなりますかね。
「はい・・・そうですね。」
「うむ。」
敬太が女を残す様に答えると、モーブは太った男の体を踏みつけ、大きく振りかぶった鉈を振り下ろした。
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