第73話 ゴールドランク

 マシュハドの街には冒険者ギルドがあり、そこにいる冒険者達はお金を積めば大抵の事はやってくれる。現実世界の各種代行サービスと似た様なものだろう。

 ただそこには異世界仕様な所もあり、人殺しも普通に請け負うのだ。近所に出た盗賊の捕縛、討伐。逃げ出した奴隷の捕縛、討伐。治安を守る為には殺しも厭わない、チカラが正義という異世界の世界観が色濃く出ている事柄だろう。


 冒険者ギルドにはランク制度が採用されていて、強さ、ギルドへの貢献、依頼達成ポイントからランクを査定し、下からアイアンランク、カッパーランク、シルバーランク、ゴールドランクとあり、その上にもプラチナランクと続くのだが、このマシュハドの街に常駐している冒険者の中ではゴールドランクが一番高い。 

 そして、そのランクが高い一部の人達が組んでいるPTがひとつだけあり、それがゴールドランクPT「不動の山」なのだ。


 先日、その「不動の山」にギルドの長から直接依頼が来た。内容は「黒髪のゴーレム使いが、危険な魔道具を用いて何かを企んでいるので、捕縛して欲しい」との事だった。報酬は金貨60枚とちょっと安めだったが、ギルドの長の頼みとあって断る事は出来ず受けるしかなかった。

 



「これはデカい壁だな。」

「いや、自然の物だろう。」


 依頼を受けた「不動の山」のメンバーは、ゴーレム使いが残したとされる、異世界には見ない珍しい轍を追いかけて、マシュハドの街から西にひた走る事5日間、ついにダンジョンの入口を囲む様にそびえ立つ崖の前まで辿り着いていた。


 珍しい轍はそのまま大きな門の中に続いて行ってるのだが、崖の上でストーンゴーレム達が目を光らせているのが見え、簡単には先に進ませてはくれない様だった。


「ゴーレム使いが潜んでいる場所で間違いなさそうだな。」

「ここはワシの出番かのう~。ふぉふぉふぉ。」

「そうだな。セイン、門を破壊してくれ。」


 「不動の山」のリーダーで斧使いのサンヨが、崖の上から見てくるストーンゴーレムを眺めながら、魔法使いの老人セインに魔法を使う様に頼んだ。


「どれ、ちょっと離れとれ・・・水陣!」


 魔法使いの老人セインが魔法を使うと、門の下から水が激しく噴き上がり、頑丈な木製の門がバキバキと音を立てて吹き飛んでいった。


「ふぉふぉふぉ、こんなもんじゃな。」


 魔法使いの老人セインが、自分の魔法の威力にうっとりとしながら顎鬚を撫でていると、崖の上にいたストーンゴーレム達が門の中には進ませないとばかりに、どんどんと門の前に飛び降り、集まりだして来ていた。


「流石ゴーレム使いだな、これだけの数はそうそうお目に掛かれないぞ。」

「参ったね、これ程多いとはねぇ~。」

「凄い数っす。」

「お前ら気合い入れろよ、いくぞ!ウラク、ダイカ、マルン。」

「お、おう!」

「・・・。」

「いやだね~まったく。」


 リーダーの斧使いサンヨがメンバーに掛け声をかけると、太った盾使いのウラク、肝っ玉モンクのダイカ、無口な槍使いマルンの前衛組が飛び出し、集まり壁を作り始めているストーンゴーレム達に突っ込んでいった。


「おい、サミー。お前は何処か目立つ場所が無いか探ってくれ。」

「分かったっす~。パッキーお願いするっす~。」

「ギャァー。」


 リーダーの斧使いサンヨが、前衛ではない探索要員の弓使いサミーに声を掛けた。サミーは自分で探索出来るスキルは持って無いのだが、代わりに探索をしてくれる契約獣とコンビを組んでいる。

 

 契約獣の名前はパッキー。キャンキャスと言う大きな鳥型で、翼を広げると3m近くの大きさになる奴だ。そこそこに目が良く、高い上空から地上を見下ろしモンスターや探している物を見つける事が出来て、コンビを組んでいるサミーに「通信」スキルで伝える事が出来るのだ。


(ギャァー)

(分かったっす)

「サンヨ、ここから西に進んだ所に小さな門の様な物があるみたいっす。」

「おう、見つけたか。行くぞ!」

(パッキーありがとっす)

(ギャァー)


 崖の上から飛び降りてくるストーンゴーレム達を次々と瓦礫に変えながら、リーダーの斧使いサンヨが声を上げると、散らばり各々が山を築き始めていた前衛組が1か所に集まりフォーメーションを組み出し、そこに後衛組を組み込むと、西に向かって移動を始めた。

 この辺りは、流石ゴールドランクPTと言った所だろう。フォーメーションを組み四方を警戒しながらも飄々と歩き続け、逃がすまいと続々と襲い掛かるストーンゴーレム達を物ともせずに、破壊して進んで行く。




「ふぉふぉ・・・。おい、サンヨ。もう休ませとくれ、MPがカラッカラじゃ。」

「もう少しだ、じいさん。マジックポーション飲んで歩け!」

「うちのパッキーも、もうすぐだって言ってるっす。」

「ほれほれ、じいさんはだらしないねぇ。」

「相変わらず人使いが荒い奴らよのう、ふぉふぉふぉ。」


 冗談なのか本気なのか分からない会話をしながらも、壊していっているストーンゴーレムで道を作っていき、夕方にはダンジョンの入口の門の近くまで辿り着いていた。


「あれっす、パッキーが見つけた門が見えるっすよ。」

「やっと着いたかい。」

「・・・遠かった。」

「なんだか開けてる場所に出たな。」

「丁度いい、あの門の傍で休憩するぞ。」


 拳大のストーンゴーレムが雑木林の木の上からビュンビュン降って来るのを躱し、叩き壊しながら、リーダーの斧使いサンヨが休憩を提案した。

 先に見える門の前は、一面耕され開けており、まるで畑でも作ろうとしている様に見えた。その為、雑木林の中より見通しが効き、休憩地とするには丁度良いと思ったのだ。


「じじい、ダイカ、マルン、飯の準備してくれ!」

「ふぉふぉふぉ、まったく老人を労わるという事を知らん奴じゃな。」

「あいよ~。」

「・・・分かった。」


 残ったメンバーで、時折雑木林の中からから突っ込んで来るストーンゴーレムを相手にしながら、野営地を整えていき、食事をして、夜の帳が降りた頃には、襲ってくるストーンゴーレムは居なくなっていた。


「ふぅ~ようやく弾切れか?」

「ふぉふぉふぉ、流石にしんどかったのう。」

「ゴーレム使い半端ないっす。」


 いかにゴールドランクPTとは言え、1,000体のストーンゴーレムを倒し終えると、もはや疲労困憊。野営地の周りにはストーンゴーレムの残骸が積み上がり、戦闘の激しさを物語っていた。


「よし、今日はここで休むとするか。」

「そうだね。あたしゃ疲れたよ。」

「・・・疲れた。」




 翌朝。


「ふぉふぉふぉ、いくぞい・・・水陣!」


 ダンジョンの入口周辺の雑木林、通称「呪いの森」に監視、防衛の為に放っていたストーンゴーレムを壊滅させた一行は、一晩休んで体力を回復させ、魔法で門を破壊するとダンジョンの中に突入していった。


「うわ、またゴーレムがいるっす!」

「分かっちゃいたけど、いやだね~。」

「ウラク、マルン前に出ろ!ダイカとサミーは後ろだ。ほら、じじい行くぞ!」

「ふぉふぉふぉ。」


 ダンジョンの中には「実働部隊」のアイアンゴーレム100体と「殲滅部隊」の大きなアイアンゴーレム12体が待ち構えていたが、瞬時にフォーメーションをダンジョン仕様に切り替え、しっかりと対応していた。


「・・・転牙。」

「た、盾突。」

「兜割だぁ!」


 それぞれの手には少し青みがかった武器を持ち、行く先を阻む様に広がるアイアンゴーレム達をバターの様に突き刺し、切り裂いている。


「矢弾っす。」

「ほれ、水槍じゃ。」


 それに続く後衛達は「ゴーレムの核」に狙いを付け、確実に破壊していた。


「まったく、どんだけいるんだか。」

「しっかりマジックポーション飲んで、バンバンスキル使って行け!」

「ふぉふぉふぉ、こりゃ赤字になりそうじゃな。」


 アイアンゴーレム達でもゴールドランクPTの進撃は止められず、ダンジョンの通路には、動かなくなったアイアンゴーレムが所狭しと転がっていった。


「しかし、不思議なダンジョンだねぇ~。明かりの魔道具がこんなに並んでるのなんて見た事ないよ。」

「ご、ゴーレム使いは、す、凄いんだな。」

「こっち!何か通路が板で塞がってるっす。」

「なんだ?おい、じじい、頼む。」

「ふぉふぉふぉ・・・水陣!」


 1階層の蜂の巣部屋に辿り着くと、敬太が作った罠を破壊した。


「あれ?行き止りっすね~。」

「ふぉふぉふぉ、ハズレじゃったか。」

「ほれ、こっちに下りの道があるよ。」



 それから2階層の体育館ぐらいの大きさの部屋で、全てのアイアンゴーレムを破壊していった。


「行くよ、縮地・・・からの~剛打!」

「斧風斬!」

「・・・連刃転牙。」

「精密射撃!」

「ふぉふぉふぉ・・・水獄じゃ!」

「た、盾状火山!」


 残ったアイアンゴーレム達は、先には進ませまいと頑張っていたのだが、ゴールドランクPTはそれぞれの上位のスキル、魔法を乱れ打ち、気が付くと動くゴーレムはいなくなっていた。

 ただ、これには流石のゴールドランクPTと言えども、かなり消費してしまったらしく、3階層の改札部屋の前の小屋を見つけると一時休憩となっていた。


「ここで、しっかり回復させとけよ。」

「ゴーレムはもう見たくないっす。」

「はぁ~もう疲れるねぇ。」

「ふぉふぉふぉ。」

「しかし、このダンジョンはおかしな所だな。ゴーレム以外のモンスターが出て来ねえ。」

「あら、そう言われればそうだね。」

「ご、ゴーレム使いのダンジョンなんだな。」

「この明かりの魔道具、持って帰っていいっすか?」


 改札部屋の前にある小屋のドアを叩き壊し、中に入るとゴロゴロ転がって体を休めながら、会話をし始めた。

 この先にいるであろう「ゴーレム使い」を捕まえる為にも、消耗したままでは進めない。こうやって適度に気を抜き、しっかりと回復させるのも冒険者ランクが高い、経験豊富な強者達ならではの攻略の仕方だった。


「まだ先にはゴーレムがいるのかねぇ?」

「そうだな、いるだろうな。なんせゴーレム使いの隠れ家ダンジョンだ。油断するんじゃねえぞ。」

「了解っす。」

「ふぉふぉふぉ、先は長いの~。」

「・・・。」



(ギャァー)

「サンヨ!まずいっす。すぐそこにゴーレムが湧いてきたみたいっす。」

「何っ!?」


 体を休め、まったりとした時間を過ごしていたのだが、突然、小屋の屋根の上で体を休めていたサミーの契約獣のパッキーから「通信」でゴーレムが湧いた事を知らされ、小屋の中に緊張が走った。


 すぐに戦える様に、慌てて小屋の外に飛び出すと、そこにはいつものゴーレムとは違うプレートアーマーを着た人の様な物と、片腕が無い猪の獣人が立っていた。

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