第67話 黄色い飲み物

 昼ご飯を食べ終え、ラーメンの器をテーブルの端にある白い四角い箱に戻す。


 この箱はデリバリーを頼むと食べ物や料理を出してきて、食べ終わった器を入れると消えて無くなる不思議な箱なのだが、一体中身はどうなっているんだろう。

 何度となく使っているが、どういう仕組みになっているの見当もつかない、魔法の箱だ。


 さて、先程からチカチカと点滅をしている物置を見てみよう。


「ピッ」


 っとススイカでタッチすると、引き戸になっている物置を開くことが出来る。

 中を見るといつもの様に、ポーションとマジックポーションが並べられていた。

 モーブ達の緊急用として改札部屋の道具棚にポーションとマジックポーションを3個ずつ置いているのだが、数が減ってないので補充はしなくて大丈夫だ。

 後は、寝室で寝ている奴隷の女の子にポーションを何個か分けてあげて、残りは敬太の「亜空間庫」のしまっておこう。


 リップクリームぐらいの小さな瓶に、ワイン色の赤い液体がポーション。

 同じ入れ物でブルーハワイの様な青い液体はマジックポーションだ。

 それで、こっちの黄色い・・・。黄色い?

 なんだろうこれ?初めて見た物だ。すかさず「鑑定」で見てみる。



『鑑定』

尊師の聖水

これを飲むと飲ませた相手を裏切れなくなる

飲み物や汁物に混ぜて飲ませても大丈夫だが、効果は1瓶につき1人だけ

1瓶を複数の人が口にしてしまうと効果が出ない

飲み薬です



 黄色い液体で尊師の聖水か・・・。なんか、いや止めておこう。


 効果は裏切れなくなるか・・・。どんな感じなのだろう。

 精神的に縛り付ける事が出来るのだろうか?それとも行動すら封じてしまう様な物なのだろうか?

 なんだか使いどころが難しそうな物だ。効果もはっきり分からないし、簡単には使えない代物だ。


 特にこれと言った使い道が思いつかないので、一応取っておくぐらいの感覚で「亜空間庫」の中にポーションとかと一緒にしまった。


 この初めて出た黄色いのが1つだけ紛れていると言う事は、間違いなくさっき倒したアメダラーが落とした物だろう。1体倒しただけでアイテムを落としてくれるとは運がいい。

 ブレイドラビットはポーションを落とすのだが、5~6体倒して1個落とすぐらいだ。マジックポーションを落とすロウカストも5~6体で1個ぐらいの確率だった。

 10階層に1体しかいなかったアメダラーはどうなんだろうか?

 10階層で通せんぼしていたボス的なポジションのやつは違ってくるのだろうか?この辺も後々検証する必要がありそうだ。


 だが、ボス的な扱いだとすると、あいつは毎日リポップするのだろうか?それとも何日か空くのだろうか?

 分からない事が多すぎる。

 

「ヨシオ。」

「なんだシン。」


 ダンジョンで分からない事はコイツに聞けばいいだろう。


「10階層のアメダラーって毎日リポップするの?」

「ううん、しないだシンよ。次にリポップするは7日後だシン。」

「あ~そう来るか。それじゃあアイテムをドロップする確率とかって分かるか?」

「分かるだシンよ。アメダラーはリポップするのが遅いだシン。だから100%アイテムをドロップするだシン。」

「へぇーそうなんだ。」


 検証しなくちゃいけないと思っていた事だったが、聞いてみたら簡単に教えてくれた。

 やはりアメダラーはボス扱いなのだろう。今までのモンスターとは法則が違ったようだ。聞いてみるもんだね。


「後さ『尊師の聖水』ってやつの効果ってどんな感じなの?」

「『尊師の聖水』だシンね。それは飲ませた相手の事を裏切れなくなるだシン。」

「それは『鑑定』で見て知ってる。具体的にはどうなの?」

「具体的には、なんか裏切れないな~って気持ちにさせるだシン。家族を裏切れない、友達を裏切れないとかそんな感じらしいシン。」


 なるほど。薬のチカラを使って強制的に仲間に引き込む感じになるのだろうか。


「それって副作用とかデメリットみたいなのはある?」

「これと言って無いシンけど、飲ませた相手と仲良くなりたがるってのがデメリットと言えばそうなるだシンかね。」


 考え的には間違ってない様だ。

 すぐに使おうと思う相手も思いつかないし、もしもの時にあったら便利って感じだな。


「それと、ゴルが戦闘中に急に魔法を覚えたんだけど、あれいいの?」

「もう魔法を覚えただシンか、やるだシンね。契約獣とコンビを組んでいればそんなもんだシン。主と絆を結んで共に強くなるだシン。」

「そうか、いや、魔法だのスキルみたいなもんはレベルアップ時に覚える様になるかと思っていたんだけど、そうでもないのか。」

「そうだシンね。素質があって強い感情を持った時、限界突破みたいな感じで閃き覚える事がほとんどらしいシン。レベルの数字はあくまでも目安だシン。」


 ヨシオの説明を聞くと、あの時ゴルがどれだけ感情が高ぶらせ敬太を守ってくれたかが分かった。

 魔法を覚え、使った後にはぶっ倒れる。半端な覚悟じゃ出来なかったはずだ。

 強い感情か・・・。ありがとなゴル。



 しかし、ヨシオの口調は憎たらしく、高い声も耳に付くが中々優秀だ。


 さて、まだまだやる事はある。食休みも出来たので次の作業に移ろう。


 次はゴーレムの整理をする。

 シルバーランクPTにミスリルソードで切り裂かれ、動かなくなってしまったアイアンゴーレムを11体「亜空間庫」から出した。

 改札部屋にゴロゴロと不格好になってしまったアイアンゴーレム達が横たわる。


「ゴーさん『吸収』しちゃって。」


 敬太の左手首にバングルとして擬態しているゴーさんに声を掛けると、擬態を解いて小さなアイアンゴーレムとなり、ぴょんと床に飛び降りた。それからシュタっと可愛く敬礼ポーズを決めて、横たわるアイアンゴーレムに向かって行った。


 こうやってゴーさんに指示を出したのだが、実はこのスキル「吸収」については未だに良く分かってない。

 ゴーさんが壊れてしまった「ゴーレムの核」を欲しがるので与えているのだが、これが何を意味し、どうなるのだろうか?


「ヨシオ~。」

「ヨっちゃんだシン。」

「よ、ヨっちゃん・・・。」

「なんだシン。」


 面倒くせぇ。


「このゴーさんの『吸収』って何か意味があるの?」

「あるだシンよ。あれはゴーレムの核が獲得してきた経験値、スキル経験値を吸い出してるだシン。」

「ほぉー、ゴーレム達にも経験値があったんだ。」

「そうだシン。ちゃんと強くなるだシン。」


 そうか、それで壊れた核を放っておくと欲しがるのか。

 置いておくより自分の糧にした方がいいもんな。


 ゴーさんの様子を見ると、小さい体ながらも機敏に動き、横たわるアイアンゴーレムによじ登っている。そして、切り裂かれ、傷つき、壊れてしまった「ゴーレムの核」を器用に穿り出すと、自分の体に押し込むようにして体の中に取り込んでいた。

 あれがスキル「吸収」。ゴーさんの小さな体にどうやってピンポン玉ぐらいある「ゴーレムの核」が入っていってるのかは分からないけれど、ああやって経験値を自分の物にしているらしい。



 敬太が出した、動かなくなってしまったゴーレムの核を全て吸収し終えたようなので、残った残骸を「亜空間庫」の中にしまい、ゴーさんに「鑑定」をかけて結果を見てみた。



『鑑定』

ゴーさん(アイアンゴーレム)

レベル  14

HP  52/52

MP   3/14

スキル 同期LV3 吸収LV2 通信LV3 変形LV2

森田敬太の使い魔



 へぇー。元を知らないから強くなったのかは分からないけど、ゴーさんもちゃんとステータスあったんだな。

 「同期」はゴーレム達の知識の共有。「通信」は離れているゴーレムと連絡を取ったり、敬太にイメージを伝える。「変形」はバングルに変わったり、敬太の体を包み込む鎧になったり出来る。

 しかし、こうやって改めて見るとゴーさん達って何でも出来るな。


 全ては使う人次第って訳だ。上手く使ってやらないとな。




 翌日。 

 晩飯の時も寝ていたゴルが回復したのか、眠っている敬太の枕元でジッと顔を覗き込んでいた。なんだか起きるのを待ってたみたい。


「おはようゴル、大丈夫か?」

「ニャーォ。」


 不穏な気配に目が覚め、声を掛けると、敬太の顔に頭を押し付けてきた。昨日怖い思いをさせてしまったので、甘えん坊モードなのだろう。

 すり寄るゴルを自由にさせながら、「鑑定」でゴルの状態を確認して見たが、特に問題は無くきっちりHPもMPも回復していた。

 ずっと眠っていたので心配だったが、何もなくて良かったよ。


「おっちゃん腹減ったー。」

「おはよ~。」


 ゴルとフガフガンゴンゴ言いながら遊んでいたら、子供達が起きだして来た。どうやらうるさくして起こしてしまった様だ。

 改札部屋と言う大部屋での共同生活。色々と筒抜けになってしまうが、起きてすぐ挨拶を交わす様な生活は嫌いではなかった。


「おはよう、それじゃ顔洗って朝ご飯にしようか。」



 今日は、父親の様子が気になるので出かけるつもりだ。追っ手の方も心配なのだが、ハイポーションを飲ませてからどうなったか見届けてないので、一度戻って退院出来るなら退院させて、施設にも連絡しておきたい。放っておく訳にはいかないのだ。


 午前中の内に、元気になったゴルと8階層までの殲滅作業を終わらせ、朝食の時に事情を話しておいたモーブに後の事はまかせると、午前11時には改札部屋を後にした。


 駅に戻ると、メールが届きスマホが圏外から復活した事に気が付いた。

 メールを開くと兄からで、やはり父親の退院の事だった。病院から連絡があったらしく、退院したらどうするのかと言っている。

 父親の事を敬太に投げっぱなしなのは前からだ、今更文句は無い。

 今日中に引き取って、空いていれば前と同じ介護施設に入れる、と返信しておいた。


 いつもならタクシーを使って、病院やら介護施設に行ってしまう所だが、軽トラとかの乗り物のガソリンが無く、携行缶も空なので、ガソリンスタンド巡りもしなくちゃいけない。なので、タクシーで実家まで行った後は、自分の乗り物での移動になる。


「ピピッ」

「はい、ありがとうございましたー。」


 残高が4千万円ぐらいある魔改造ススイカでタクシーの代金を払い、久々の実家に戻って来た。

 ここで「亜空間庫」の中から軽トラなんかを取り出すのは、ご近所さんの目もあるので、改札部屋のガレージから「車両戻し」を使って軽トラと4WDのジープとモトクロスバイクを実家の駐車場に戻してある。全部ガソリン入れないとな。

 ちなみに「車両戻し」は、敬太が駅からススイカで飛ぶ時と同じ様に、認識阻害が働いていて駐車場に突然車が現れても気が付かないし、違和感を感じない様になっているらしい。

 どういう理屈なのかは知らないけれど、兎に角そう言う事らしい。



 さて、まずは軽トラに乗って実家を出る。どの車両も、うろうろ出来るほどガソリンが残ってないのでガソリンスタンドに直行する。


 最寄りのガソリンスタンドに向かい、行き慣れた道を走り、信号で止まった。

 運転中無音では寂しいので、AMしか入らないがラジオを聞いている。

 ラジオから流れる曲はひとつも聞いた事が無く、すっかり世の中の事に疎くなってしまっている事に少しショックを受け、知らない間に出来たらしいコンビニが見え驚いていた。


 その時、突然後ろから物凄い衝撃を受けた。

 ドゴッと車がぶつかった様な衝突音も聞こえた。

 敬太の体は、後ろからロウカスト辺りに突き飛ばされた様に吹き飛ばされ、何処かに頭をぶつけ、フロントガラスが目の前に迫っていた。体は浮き上がり外の様子がスローモーションの様にゆっくりと見える。

 どうやら後ろから追突されたらしく、敬太の軽トラが前に進んでしまっているのが分かった。ブレーキから足は離れていないのだが、追突の勢いには負けるらしく、制御不能になってしまっている。

 前にはコンテナを積んだトレーラーが信号待ちで止まっていて、どんどん近づいてくる。「ハンドルを切らないと」と考えたが、実行に移す前に軽トラはトレーラーに突っ込んでいた。

 

 フロントガラスが割れ、あちこちをぶつけ、訳が分からなくなった所で追突の勢いが弱まり、車が止まった。

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