第65話 アメダラー

 2階層でピルバグを息を切らす事無く殲滅し終えると、3階層にある改札部屋を通り越して4階層に向かった。

 

 4階層はのロウカスト。手漕ぎボートぐらいの大きさのバッタだ。

 このロウカストを敬太が1人で倒すとなるとスキル頼みになるのだが、今手にしているミスリルソードを使うと通常攻撃で簡単に切り伏せる事が出来た。

 武器って大切なんだと改めて考えさせられる。


 続く5階層はスラグと言う大きななめくじの居る階層なのだが、ここはリポップする部屋が決まっているので罠が仕掛けてある。

 最近は点検もゴーレムに任せきりだったので、たまには自分の目で罠の状態を確認しておいた。


 6階層。ここにはアースラットと言うちょっと大きな土鼠がいて、リポップする場所が決まってないので罠が仕掛けられない階層だ。


「ゴル。バッグに入るか?」


 敬太が自分でアースラットを倒していた頃、ゴルはずっとハードシェルバッグに入っていたのでどうするか尋ねてみたのだが、2代目ハードシェルバッグが気に入らないのかプイっと顔を背けバッグに入るのを拒否している。

 ゴルより大きく素早いアースラット。ゴルが襲われたら怪我しそうで怖いのだが、契約獣は一緒に成長するって事なので、過保護にするのは良くないのかもしれない。


「いいんだな?怪我するかもしれないぞ?」

「ニャー。」


 どうやらゴルさんやる気のようです。

 まぁそこまでアースラットは強くないので、このまま行ってみようか。


 「亜空間庫」からミスリルソードを取り出して、ちょろちょろ動き回っているアースラットを片っ端から切って行く。


 最初のうちは、おっかなびっくり敬太の後ろから見ていたゴルだが。6階層を殲滅し終わる頃には、大分モンスターに慣れたのか敬太の横で戦闘を見ているようになっていた。


「よし、終わったな。次行こうか。」

「ニャー。」


 振り回すミスリルソードが軽いのもあり、体が温まる程度の運動量で6階層を後にした。


 7階層はまた罠が仕掛けてある階層だ。ドローンビートルって言う大きなカナブンの様なモンスターがいて、弾丸の様な体当たり攻撃に手を焼き、何体もの土ゴーレムがやられた日々を思い出す。

 毎日ゴーレムを作っては壊され、作っては壊され、罠を仕掛けるのにドローンビートルを殲滅させるまで大分苦労したもんだ。


 うんうんと、昔の苦労を思い出しながら、罠の様子をしっかりとチェックしてから下の階層へのスロープを進んだ。


 8階層まで下りてきた。

 ここにはスケイダと言う大きなセミがいる。2階層、4階層、6階層と偶数階はリポップする場所が決まっていない様で、この8階層も罠が仕掛けられていない階層になる。


「ゴル大丈夫か?」

「ニャー。」


 念の為ゴルに確認を取ったが大丈夫らしいので、ゴルを外に出したまま殲滅にかかる事にした。


 大きなセミのスケイダは、地面にひっくり返り腹を出したまま動かないのだが、敬太が近づき攻撃しようとすると「ミミミーーー」っと鳴き声をあげながら体当たり攻撃をしてくるので気を付けなければならない。

 一部の業界では、この攻撃にセミの「ファイナルアタック」と名付けているらしいが、これに対する正しい対処方法は未だに確立されていない様だ。


 さて、敬太はどう対処するかと言うと、「飛ばれる前に叩く」だ。

 「ミミミーーー」っというスケイダの大音量の鳴き声は、静かなダンジョンでは心臓がバクバクしてしまうぐらい驚いてしまうのだが、来るという心構えが出来ていれば幾分緩和させる事が出来るだろう。


 なるべく静かに近づき切りつける。ミスリルソードの切れ味があればスキルを使うまでもない。

 敬太のちょっと後ろで様子を見ているゴルは、たまにスケイダに気が付かれ「ミミミーーー」っと鳴き出されてしまう度に、体をビクッと震わせいるが、逃げ出す様な事は無かった。

 

 今はミスリルソードで余裕で倒せているが、木刀しかなかった当初はMP管理をしながらスキルを使いまくり苦労していたもんだ。

 近づく前に気が付かれ、大きな鳴き声と共に体当たりを喰らい、振り下ろした木刀を避けられてしまったり、たまに引っ掛けられる謎の液体に体力を削られる様な事も何度となくあった。

 

「ふぅ~。」

「ニャー。」


 体を一から鍛え直した成果か、しっとりと汗をかいたぐらいで8階層も殲滅する事が出来た。

 スケイダは1匹で9万円も落とすので「自動取得」が無かったら、今頃部屋の中はお札だらけになっていただろう。だが「自動取得」のおかげで地面にお金やドロップアイテムが落ちる事がないので、体力があれば次から次へとモンスターを倒せて行けて効率がいい。


 次の9階層は罠が仕掛けてあるので、今日敬太が倒すのはここまでとなる。

 思っていたよりもミスリルソードが凄くて、簡単に1日分の殲滅作業が終わってしまった。


「ゴル、どうする?」

「ニャー?」


 調子が良いので、このまま10階層のアメダラーに挑もうかと思い、ゴルに聞いてみたのだが返って来た答えは分からないという感じだった。

 まだヨシオに言われた「火槍」を覚えてないので倒せるかは分からないけど、ミスリルソードの切れ味に期待してしまっている。

 無理をする必要は無いのだが、試してみたい。




 結局、強い武器を手にした誘惑に勝てずに10階層の扉の前まで来てしまっていた。

 10階層はこれまでの階層とは違い、下りのスロープを下りると扉があり、その扉を開くと部屋の中に1体だけモンスターがいる様になっている。

 所謂、ボス部屋って感じだ。


「ゴル、バッグに入らなくていいの?」

「ニャー。」


 このままでいいらしい。


「それじゃ行くよ。」

「ニャッ。」


 ゴルに最終確認を取り、10階層の扉を開いた。

 中はまだ電気を通してないので真っ暗なのだがスキル「梟の目」があるので特に困る事は無い。ゴルも夜目がきくのだろう、敬太の傍で尻尾をゆっくり揺らしているので問題は無さそうだ。


 部屋の大きさは学校の校庭ぐらいあり、かなり広い。

 目を凝らし先を見ると50mぐらい先に、大きなアメダラーがいるのが見える。

 入って来た扉以外にこの部屋にある唯一の進路、もうひとつの扉の前にどっしりと待ち構えている感じだ。


 敬太は焦る事も無く、自然体でゆっくりと近づいていく。相手はアメダラーと言うアルマジロだ。硬くて倒せないが、何か特別な攻撃をしてくる相手ではない。いつも攻撃を弾き返されてしまい、手段が無くなり撤退していただけなのだ。


 もう少しで「瞬歩」の射程範囲に入るかと言う所で、アメダラーが丸まり守りを固めた。大きさが4m~5mぐらいあるので大きな岩の様に見える。

 

 ちょうど一年前にモーブの追っ手から剥ぎ取り手に入れた、鉄製の剣や槍をことごとく壊してしまったアメダラー。

 今敬太が手にしているミスリルソードならどうなるのだろう?


「行くぞ!金剛力」


 まずは身体強化「剛力」の上位版を使い攻撃力を高める。


「瞬歩」


 次に一瞬で歩みを進めるスキルを使い、攻撃に運動エネルギーを加える。


「剛打!」


 最後に打撃系2番目のスキルを使った。ミスリルソードを野球のバットを振る様にフルスイングした。

 だが、ドンという衝撃音がしただけでミスリルソードを弾かれてしまった。


「痛っ!・・・くそぉ・・・。」


 スキルコンボを叩き込んだ衝撃の余波が、ミスリルソードを握っていた手にも伝わりジンジンと痺れてしまった。

 あれだけスパスパとモンスターを切り刻んで来ていたのに、ミスリルソードの刃はアメダラーには入らなかった。


「転牙」「タールベルク」


 手に痺れが取れてから、同じ様に突き系スキル、連続攻撃系と持っている攻撃系スキルを叩き込んだのだが、どれもアメダラーに刃を入れる事が出来ずに弾き返されてしまった。大きな岩の様に丸まり微動だにしないアメダラーには傷一つ付いてない。


「ダメか・・・。」

「ニャー。」


 ゴルが足元で心配そうな目で敬太を見上げている。


 そう言えば、アイアンゴーレムや敷鉄板を切り裂いた、シルバーランクPTの大剣使いヘイスは違うスキルを使っていた。

 「斬刃」と言う、敬太の知らないスキルだった。今の所、改札部屋のATMの項目にも出てきていない未知の物だが、切り裂くには多分このスキルが重要なのだろう。

 きっと切り裂く系のスキルで、ミスリルソードの切れ味を十全に生かす事が出来るのではないだろうか。


 敬太が持っている攻撃スキルは打撃系、突き系、連続攻撃系だ。

 全てが原始的な攻撃手段のスキルなので、技を要する切れ味を武器にする物とは相性が悪いのだろう。


 ミスリルソードならばアメダラーも切れるかと思っていたので、がっかりしてしまった。やはり「火槍」を覚えないと先には進めないのだろうか?

 とりあえず「火槍」の一つ下の火魔法「火玉」で、どれぐらいダメージを与えられるか見て帰ろう。


「火玉」


 敬太が魔法名を口にするとソフトボールぐらいの大きさの火の玉が、丸まったアメダラーに向かって飛んで行った。真っ暗な部屋の中に炎の線が浮かび上がる。

 「火玉」は扉の前から一歩も動いてないアメダラーの丸まった背中に当たり、そのまま燃え続けている。ゆらゆらと揺らめく炎が小さな範囲を明るくしていた。


 5mクラスの大きな岩にソフトボール大の火が当たった所でダメージなんてあるのだろうか?

 これだけスケールが違うと何も期待出来なかった。


「ゴル、帰ろうか。」

「ニャー。」


 やはり「火槍」を覚えないといけないという事が分かった事が収穫だったと言う事にして、自分を納得させながらアメダラーに背を向け、入って来た扉に歩いて行った。



 広い部屋の中を横断するように歩き、アメダラーの後ろの扉と反対側に位置する、入って来た扉に手をかけチカラを入れたのだがロックがかかったように、扉が動かない。


「あれ?」


 扉を押したり引っ張ったり色々試してみたが、びくともしない。

 何度もアメダラーに挑戦してきたが、こんな事は初めてだった。


「ケーケー」


 不意に後ろの方から鳥の様な獣の様な、甲高い鳴き声が聞こえて来た。

 敬太は顔を引きつらせながら後ろを振り向くと、小さな炎の明かりがどんどんと近づいてきているのが見えた。アメダラーが走って近づいてきている様だ。

 「火玉」でアメダラーにダメージが入り戦闘開始とみなされ、部屋に閉じ込められたって所だろうか。最悪だ・・・。


「ゴル!おいで!」

「ニャッ。」


 近寄って来たゴルを素早く抱きかかえ、遠くから近づいてくる鳴き声から距離を取るべく走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る