第64話 コンビ
「ゴル~『コンビ』だよ。分かる?」
「ニャー。」
何度となくゴルに話しかけるが、返事はいつも通りで、これといって変わった感じはない。
「ヨシオ!」
「なんだシン?」
埒が明かないと思い、言い出しっぺでテーブルの上に置いてあるトイレットペーパーぐらいの筒「ダンジョン端末機ヨシオ」に話しかけた。すると、男の人が高い声を出しているような独特の声が返って来る。
「どうすればゴルと『コンビ』が組めるんだ?」
「どうすればって言うのは無いだシン。契約獣が主と認めると自然と繋がるものだシン。」
敬太はこの「コンビ」と言うものはスキルの様な感じかと思っていたが、ヨシオの話を聞くとそうではない様な気がして来た。どちらかと言えば絆とかそんな感じがする。
「契約獣は契約主が紐づけして契約獣となっているだシン。それと同じ様に契約獣側から主に紐づけされると、それが「コンビ」となるだシン。」
「なるほど・・・。」
ゴルは卵から孵った時から敬太が手塩にかけて育てて来ている。赤ちゃんの時は睡眠時間けずり世話をして、何処に行くにも一緒だったし、寝る時も一緒だ。
なので十分懐いているし、敬太のいう事は大体聞いてくれている。
「ご飯」とか「眠たい」とか、ゴルが何を欲しているか分かるぐらい親密な関係を築けていると思うのだが、それでも今一歩足らないらしい。
「焦ってもしょうがないだシンよ。ゆっくりと成長して行けばいいだシン。」
ヨシオのくせに、なんだか真っ当な事を言っている。
「分かったよ。ヨシオついでに『ちゅーの』買ってくれ。」
「ケイタ、ヨシオじゃないだシン。ヨっちゃんだシン。」
「よ、ヨっちゃん・・・頼む・・・。」
「分かっただシンよ。ススイカでヨっちゃんにタッチするだシン。」
マジこいつ・・・。
今ヨシオにネットショップで買うように頼んだのは、ペースト状の猫のおやつで大人気となっている物なのだが、猫があまりにも異常に食いつくので何か良からぬものが入っているではないかと噂される物でもあった。
敬太は動画とかで、その異常性を見てしまっていたので今まで手を出さずにいたのだが、ゴルともっと仲良くなれるならと思い、とうとう手を出してしまったって訳だ。
「ゴル、おいで。」
「ニャー。」
物置から届いた「ちゅーの」を取り出し、早速ゴルに食べさせる事にした。
小皿に中身のペースト状の物を絞り出し、ゴルの目の前に置いたてみた。だが、餌はいつもカリカリの固形がメインで、たまの缶詰をご褒美として食べさせてきていたので、与えた事が無かった「ちゅーの」にはあまり反応しなかった。
「食べていいよ。どうぞ。」
「ニャー。」
再度ゴルに勧めると「しょうがないなー」って感じでクンクン匂いを嗅いで、ペロっと一舐めだけするとすぐに顔をあげ「はい、食べたよ」って感じですまし顔をしていた。
だが、次の瞬間、鳴き声とも唸り声とも判断つかない、今まで聞いた事もない声をあげながら「ちゅーの」がある小皿に顔を突っ込ませ一心不乱に舐め始めた。
「お、美味しい?」
「ウミャウガウギュウウウ。」
ちょっとゴルのがっつきに引きながらも声を掛けたが、ゴルは一切こっちを見る事なくペロペロペロペロと「ちゅーの」を舐め続けている。
「ハンギュウウミャウウウ。」
「・・・。」
「す、凄いだシンね・・・。」
あのヨシオでさえ引いてしまう勢い。これ変な物入ってないよね?大丈夫だよね?
ゴルは「ちゅーの」が無くなってもペロペロと小皿を舐め続けていた。
時間にすると約1分ぐらい小皿を舐め続けてていたが、「ちゅーの」が無くなった事に気が付いたのか、それとも満足したのか分からないが、やっと顔を上げた。
ゴルは満足気な顔をし、口の周りをペロペロして敬太の目を見て来た。
「あっ・・・コンビ組めたみたいだシンね。」
「えっ!本当か?」
「自分で見てみれば分かるだシン。」
そうヨシオに言われたので自分を「鑑定」してみる事にした。
『鑑定』
森田 敬太 38歳
レベル 26
HP 62/62
MP 52/52
スキル 鑑定LV2 強打LV4 剛打LV3 通牙LV3 転牙LV2
連刃LV2 タールベルクLV1 石心LV2 鉄心LV1
瞬歩LV3 剛力LV3 金剛力LV1
見切りLV3 梟の目⋯
魔法 クイックLV1 土玉LV4 亜空間庫LV2 火玉LV1
契約獣 ゴル(コンビ)
すると、契約獣の項目に「コンビ」の文字が出ていた。ゴルの方も「鑑定」で見てみると、同じように「コンビ」の文字が増えている。
何がきっかけかは、分かるような分からない様な、分かりたくない様な・・・。
兎に角ゴルと「コンビ」が組めたようだ。ヨシオの話だと、これでゲームのPTを組んだ時の様にゴルにも経験値が分配されるようになるらしい。
「本当だ、『コンビ』組めてる。」
「ケイタはゴルベをしっかり育てていただシンな。小さなきっかけで主として認められただシン。」
「まぁね。」
「ニャー。」
目が開かない赤ちゃん猫からゴルの事は育てて来ていたんだ。それなりに信頼してくれていたんだろう。
改めて他から言われると照れ臭い物があるけど、悪い気はしない。
「それじゃ、ちょっと試してみるか?」
「ニャー。」
「行ってくるといいだシン。」
ダンジョンには何か所か罠を仕掛け、毎日朝4時にモンスターが湧き出た瞬間倒しているのだが、全部が全部って訳じゃなく罠が仕掛けられない階層もある。1階層のニードルビーと3階層のブレイドラビットなんかはリポップする部屋が決まっているので問題ないのだが、2階層のピルバグは部屋を跨り散らばってリポップするし、4階層のロウカストも散らばってリポップする。こう散らばってリポップされてしまうと罠の仕掛けようが無いのだ。
なので、罠が仕掛けられない階層は敬太が自ら倒して回っていたのだが、ゴーレムを使える様になってからは、ゴーレムの仕事としてまかせていた。
先日、ヨシオから「コンビ」について聞いていたので、罠を仕掛けていない階層は今日はまだゴーレムに倒させていない状態になっている。
敬太が倒して見てゴルの経験値がどうなるのか検証するにはもってこいの状態だろう。
「そうだね。ちょっと行ってくるよ。ゴル、行くよ。」
「ニャー。」
「行ってくるだシン。」
異世界仕様の有印良品の綿の白シャツに、同じく綿の茶色いズボン。その上にステンレスメッシュ(鎖帷子)のシャツとズボンを着る。
このままでも防御力十分でいいのだが、動くたびにジャラジャラと音がしてしまうので、更にその上からチェンソー用防護服を着る。そうすると音が大分抑えられるのだ。
これだけ重ね着をしてしまうと少々重くなってしまうが、鍛えて来た敬太にとっては軽いもんだ。
それからヘルメットやらグローブなんかを身に着け、最後に2代目ハードシェルバッグを担ぐ。何故2代目になっているのかと言うと、マシュハドの街でシルバーランクPTの4人組に襲われた時に持ち出されていたようで、ハードシェルバッグごと「物凄い勢いで落下する敷鉄板」で攻撃してしまっていたのだった。
おかげでハードシェルバッグも壊れてしまい、仕方が無く予備として買っておいた2代目を使う羽目となっていた。
ゴルはまだ2代目ハードシェルバッグに慣れていないようで、敬太が背中に背負っても飛びついてバッグに入ってくるような事は無く、ちょこちょこと敬太の近くを付かず離れず歩いている。
「おっちゃんどっか行くの?」
改札部屋の扉を開けてダンジョンに出ると、すぐに近くで弓の練習をしていたクルルンに話しかけられた。
「ちょっとゴルと実験してくるよ。」
「えー何それ?楽しそう。」
特に隠す様な事ではなかったので、反射的に答えてしまったのだが「実験」というワードがいけなかったのか、それを聞いたクルルンが凄く付いていきたそうな顔をしてしまった。
何もない平常時だったら問題ないのだが、今はいつ追っ手がダンジョンに攻め込んでくるか分からない状態だ。もしクルルンを連れて深い階層まで行っている時に追っ手に来られたら対処出来ないかもしれない。
「ごめんな。しばらくはモーブが言った通りにしといてくれるか?」
「はーい。」
少しゴネられるかと思ったのだが、モーブの言いつけが効いているのか素直に従ってくれた。
普段敬太は子供達を甘やかしているので、こういう時に我儘を言われたりしがちなのだが、クルルンも今が「いつもと違う」といういのが分かっているのだろう。すんなりと解放された。
我儘を言ってくれるのも子供達が懐いた気がして嬉しい物だが、こうやって言う事をちゃんと聞いてくれるのも嬉しい物だな。
クルルンから離れ2階層に向かうべく、改札部屋から右手側に進むと壁際に2mはある大型のアイアンゴーレムが、手にはそれぞれ長い鉄の棒を持ち12体並んで立っていた。
こいつらは「殲滅部隊」。いつもなら罠の仕掛けられない階層に行ってリポップしたモンスターを潰すのが仕事なのだが、今日はそれを止めてもらっているのでやる事がないのだろう。
「ご苦労さん、悪いね。」
敬太が軽く声を掛けると、壁に立ち並んだまま揃って敬礼ポーズをズバンとしてくれた。大きさがあるので敬礼ポーズの迫力が凄い。
基本、ゴーレム達は仕事を与えられたい、仕事をしたいという思いがあるので、それを奪ってしまったのだ。一言謝るぐらいはしておかなければならないだろう。
それでゴーレムの気が済むかは分からないけど、気持ちが大事な気がするのだ。
階段だったスロープを上がり、2階層ピルバグと言うダンゴムシのようなモンスターが部屋のあちこちに散らばって横たわっている部屋まで来た。
敬太が日課として倒していた頃は、いつもつるはしを使っていたのだが、今日はミスリルソードを使ってみようと思う。アイアンゴーレムをバターの様に切り裂くチカラを持っているのだ。ピルバグぐらいは簡単に切れるだろう。
近くに居たピルバグの前に立ち「亜空間庫」からミスリルソードを取り出すと上段に構え狙いを付ける。
「そい!」
見た目より重さを感じないミスリルソードを掛け声と共に振り下ろすと、スッと手応えなくピルバグの体を切り裂き、剣の半ばまで地面に突き刺さってしまっていた。
体が真っ二つにされたピルバグは紫黒の煙を吹き出し、煙と共に消えていく。
「凄い・・・。」
敬太はミスリルソードの想像以上の切れ味に驚いた。
ピルバグはつるはしを全力で突き刺し、ようやく穴を穿つことが出来るほど外殻が硬かったのだが、ミスリルソードにかかると、まるで豆腐に箸を通すかの様に手応えが無かったのだ。
これならば10階層のアメダラーも切り伏せる事が出来るかもしれない。
そんな事を考えながら、部屋に残ったピルバグの殲滅に取り掛かった。
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