第52話 依頼報告

 コンテナハウスの近くにある岩の上で、ちょっと遅めの昼食を「亜空間庫」に詰め込んであるお弁当を放出してゴルと一緒に食べた。「亜空間庫」にはダンジョンの改札部屋にあるデリバリーを使って、60食分は購入し持って来ているので、1人なら20日間ぐらい食料に困らないように準備してきてある。その他にもお茶類、ちょっとしたお菓子、ゴルのご飯、お水、それらも20日間分は入っているので、総量としてはちょっとしたお店ぐらいなら開ける量になっているだろう。


 さて、コンテナハウスに寝かせている奴隷の女の子に変わりは無く、無事を確認出来たので、とっととお金稼ぎに戻るとしよう。


 ゴルにハードシェルバッグに入ってもらい、辺りを「探索」で確認してからモトクロスバイクに乗り込んだ。


「頼んだよ。」


 コンテナハウスを警備するのに置いているゴーレム達に別れを告げて、アイン鉱山の麓の森を西に向かって走り始める。ゴーさんに「通信」で散らばっているゴーレム達に連絡を取ってもらい、回収しやすいようにある程度纏まっていてくれるようにお願いしておく。


 頭の中の地図で集まるゴーレム達の様子を見ながら、森の西まで走って行って、それぞれ獲物を抱え集合しているゴーレム達を「亜空間庫」に獲物ごと回収していく。「実働部隊」はフォレストウルフを中心にラッシュボアも1匹狩って持ってきていた。思った通りラッシュボアもゴーレムだけでも狩れた様だ。「偵察部隊」の方は薬草類をしっかりと採集してくれたようで、これらもそれなりの数があった。


 アイン鉱山の麓の森に放った全てのゴーレムを回収し終えたら場所を移動し、今度は南に向かった。そこではゴブリンを抱えるストーンゴーレム達を回収していく。


 常日頃から、他の冒険者に近づかないように言いつけておいたし、何かあったらすぐにゴーさんに伝える様に言っていたので、ゴーレム達に破損しているような様子は見られなかった。大丈夫だと信じていたが、こうやって無事な姿を目にして、ようやく大規模にゴーレム達を展開していた不安が解消された。





 マシュハドの街の、南門の門番の視界に入る前にはモトクロスバイクを「亜空間庫」にしまって、徒歩で南門を通過する。門番は敬太の首にある認識票を確認するだけで、すんなり通してくれた。


 街中をちょっと歩き冒険者ギルドに入ると、まだ日が高い時間にもかかわらず冒険者の出で立ちをしている人が多く目に付いた。随分早い時間に仕事から上がるのだなと思ったが、異世界の常識を知るほど冒険者ギルドに出入りしている訳では無いので、余計な事は口に出さずにカウンターの列に加わった。


「本当なんだって!」


 敬太が静かに並んでいると、前の方に居る冒険者が突然大声を出し始めた。


「ゴーレムの群れがモンスターを狩ってたんだよ!」

「またですか?!」

「まただと?もう報告があってるなら、どうにかしてくれよ!」

「ええ、分かっています。ギルドとしても対応を取りたいと考えています。詳しい話をお聞きしたいので応接室へ来てください。」

「分かった。」


 前の方に居た冒険者は、皮鎧を身につけ腰には剣を携え、如何にも冒険者という佇まいで、敬太と同じアイアンの認識票を首から下げていた。彼の傍には仲間と思しき人らが居て、ギルドの職員が席を立ち案内を始めると、促されるままみんなで移動していった。


 ゴーレムねぇ・・・。確かに街の周りにゴーレムを半日ぐらいばら撒き、採集と討伐をさせていたのだが、こんなに早く情報が伝わり報告されているとは思わなかった。少しやり過ぎたのかもしれない・・・。


 ダンジョンでゴーレムを使っていても、異世界人のモーブ達の反応薄いし、門番に電動バイクを取られた時もクモ型アイアンゴーレムを見せていて、そこでも反応が薄かったので問題ない物だと思ってしまっていた。


 なんとか金貨を33枚集めるまで、ハイポーションを手に入れるまでは、大事にならないで欲しい所だが・・・。


「え~っと、次の方どうぞ~。」


 そんな事を考えていると、列が進んでいた様で敬太の順番が回って来ていた。


 ゴーレムを警戒されているかもしれないが、今は時間が無い。


 とりあえずカウンターに採集してきた薬草類を積み上げて、買い取り限度まで引き取ってもらおう。

 どんどんとハードシェルバッグを経由して「亜空間庫」から薬草類を取り出していくと、前回と同じように女の職員が裏方の人に声をかけ本日の買い取り限度数を聞いていた。


 薬草類をカウンターに山ほど積み上げ終わると、女の職員が清算する素振りを見せたので、慌てて討伐依頼もある旨を告げた。すると女の職員は席を立ち、奥に敬太を案内し解体場へ通してくれた。


「おぅ、またお前ぇかい。随分と狩ってきやがって!」


 指定されたテーブルに狩って来たモンスターの死体を出していると、解体場の偉い人だと思われる、ねじり鉢巻きがトレードマークのゲンが後ろから話しかけてきた。前回ラーバというモンスターを持って来た時に会っただけだったので、覚えられているとは思わなかった。マジックバッグ持ちは本当に覚えがいいのかもしれない。


「今日も量が多いかもしれませんが、よろしくお願いします。」

「ははっ。構わねぇよ、それでおまんま食ってるんだからな。じゃんじゃん置いてってくれ。」

「そう言ってもらえると、助かります。」

「うんうん・・・っとゴブリンまで出す奴があるか!」


 目の前に居るゲンがじゃんじゃん置けって言うから「亜空間庫」の中にあるモンスターの死体を次々と取り出していたのだが、ゴブリンを取り出した途端に何故か大声を出されてしまった。


「えっ。ゴブリンはダメなんですか?」

「べらんめえ!知らねーのか?しょうがねぇな。いいかぁ、別にダメって事ぁねーが、ゴブリンの魔石の値段と解体料は同じなんだよ。そんな訳だから、ここにゴブリンを持ち込んだ所でお前さんには銅貨1枚すら入らねぇんだ。」

「なるほど。」

「おうよ。わざわざ持って来てくれたからには少しは駄賃をくれたいところだがな。肉は臭くて食えないし、皮も薄くて使い道がねぇ。要するにゴブリンの死体はゴミ扱いになっちまうんだ。そうするとそいつらを、埋めるにしろ燃やすにしろ手間がかかっちまう。」


 ゲンにも思う所があるようで、血濡れた前掛けを気にする様子も無く腕を組んで、詳しく説明してくれた。


 やはり雑魚の代表格といえばゴブリン。駆け出し冒険者には避けて通れない相手になるだろう。だからこそ駆け出しには、ゴブリンで稼いで貰ってステップアップしていって欲しい所なのだが、ギルドも慈善事業じゃない。価値のない物にお金は払えないし、必要になる手間賃なんかはしっかりと回収していかないといけない。本当ならば死体に何かしら価値を見出して、少なくても報酬が払える様にしないといけないのだろうが、今の所何の手立ても無い状態の様だった。


 ゲンがひとりで熱く語り始めてしまったので、思ったより時間を取られてしまい、話が終わる様子の見えない独演会に、少し強引に割り込み話を切り上げさてもらった。


「悪い悪い。ついついな、勘弁してくれや。」


 敬太の微妙な表情に気が付いたゲンが、ひとり語りが過ぎた事を謝ってくれた。なんでも興味がある事を考えて話をしていると、自分でも歯止めが効かなくなってしまうんだそうだ。

 

 敬太にとっては知らない異世界の冒険者ギルドの仕組みについて知れたので、ゲンの謝罪に答え「勉強になりました」とお礼をしておいた。


「おい、モモコグミ。数だけはちゃんと記録しておけな。」

「分かってますよ。」


 敬太が「亜空間庫」からモンスターの死体を全部出し終えると、ゲンがカウンターから付いて来てくれていた若い女の職員に話しかけていた。


「なかなかの数だな。急いで解体するが、報酬は明日になっちまうなー。」

「え~っと、そうですね。」

「分かりました、それで構いません。よろしくお願いします。」

「おうよ、任せておけや。まぁまた狩ったら遠慮しないで持ってこいや。」


 ゲンと話が付くと、若い女の職員モモコグミに促され解体場を後にした。


「え~っと、ケイタさんは前回の報酬と薬草なんかの報酬もありますので、あちらの応接室で待っていて下さいね。」


 解体場の扉を抜けて廊下に出ると、カウンターがあるホールとは逆方向の奥にあるドアを指差さし、待ってる様に指示された。どうやら前に解体を頼んだラーバの分が今から貰えるようだ。



 応接室にひとり通されソファーに腰掛け待っていると、またしても不安に駆られてしまう。先程のカウンターでの騒ぎ、見られたゴーレムの件を思い出したからだ。

 敬太がゴーレムを使っていたとギルドに知られたら、どんな事を言われるのだろうか。また門番の様に上からの物言いで「ゴーレムを渡せ」とか言われてしまうのだろうか。面倒になりそうな予感しかしないが、対応について考えておかなければならない。


 しばらく考えをまとめながら待っていると、コンコンとノックが鳴り、荷物を持った先程の職員モモコグミが入って来た。


「え~っと、お待たせしました。」


 敬太は慌ててソファーから立ち上がり出迎えたが、座ってくれと言われモモコグミと対面する位置に腰を下ろした。


「え~っと、まずは先日の依頼なんですが、ギルドの方で確認に向かった所、ソフト川にはこれといったモンスターの影は無く、魚に影響するような物は確認出来ませんでした。なのでケイタさんが狩ったラーバ達が原因とし、これで依頼は達成とさせていただきます。」

 

 元はカッパーランクの依頼だったが、塩漬けになってしまっていたのでアイアンランクに下がって出ていた「ソフト川の魚が急に減ったので、原因を調査して解決する」っていう依頼の話だ。どうやらラーバ退治で達成となったみたいだった。


「え~っと、それから解体が終わったラーバが43体だったので解体料を差し引いて、全部で金貨12枚と大銅貨4枚になります。」


 おっ、金貨になった。敬太は金貨という名前が出た事に喜んでいたが、テーブルに置いた紙を指差しモモコグミの説明は続いた。


「え~っと、後は薬草120本で銀貨2枚と大銅貨4枚。魔法草80本で銀貨3枚と大銅貨2枚。毒消し草60本で銀貨1枚と大銅貨8枚になりますね。」

「は、はい。」


 基本、採集系は20本1セットで依頼が出ていたので、それで割ると・・・。細かい数字がどんどん出てきて計算が追い付かないが、女の職員のモモコグミの説明はまだ続いている。


「え~っと、それで全部合わせると金貨13枚、銀貨2枚と大銅貨8枚になります。お確かめください。」


 モモコグミがテーブルの上に、巾着袋から取り出した硬貨を並べていく。少し大きめの大銅貨、鈍い光を放つ500円玉ぐらいの銀貨。黄金でずしりと重みがあり、大きさで言えばこれも500円玉サイズの金貨。


 初めて見る金貨に目を奪われながらも、テーブルに置かれた紙の数字を読んで(数字はアラビア数字なのでそこだけは読み取れる)計算する。ギルドが報酬をちょろまかす様な事はしないだろうが、知識としてここは大事なのだ。なんせお金の単位も分からず、何が何枚で何の硬貨になるのかさえ分からないのだから。


「ちょっと大金なので時間を下さい。」

「焦らなくていいですよ。」


 対面に座るモモコグミに声をかけ、間違いないように計算し価値を見極めていった。


 結果、大銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚になる事が判明した。知ってしまえばとても簡単な事だったが、なかなか知りえるチャンスが無かったのでとても助かる異世界の知識となった。

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