第44話 金策
しばらく店内に置いてある何かの角だとか、干からびた何かとか、液体に入った何かを眺めながら時間を潰していた。
5分ぐらい経つと、店の奥から聞こえていたカチャカチャという音が止まり、ようやく店に人が出てきた。
「すまんな。錬金中で手が離せんかったのじゃ。」
出て来たのはローブを着たおばあちゃんだった。タオルで手を拭きながら敬太の傍まで歩いてくる。
敬太はおばあちゃんが口にした「錬金中だった」って言葉に引っ掛かった。
初めて耳にした「錬金」とは、どんなものなんだろう。スキルなのか何なのか分からないが興味深いものだ。
「それで何が欲しいんじゃ。」
「あ、はい。えっとハイポーションと言うのはありますか?」
「あるぞ、ちょっと待っとれ。何個いるんじゃ。」
忘れそうになったが、どうやらここが薬屋であっていたようだ。
おばあちゃんは案外せっかちなのか、急いでるのか分からないが、敬太に考えさせる隙を与えずに話を進め、既に棚からリップクリームぐらいの小瓶を持って来ていた。
「ほれ。ハイポーションじゃ。何個いるんじゃ?」
「いえ、いくらぐらいする物なのか確認しようと思いまして・・・。」
「1個、金貨32枚じゃ。」
なるほど、敬太が拠点としているダンジョンに暮らして居る、猪族の元戦闘奴隷モーブの話していた通りの値段だ。
金貨が日本円にすると、どれぐらいの価値があるのか分からないので、高いのか安いのか今の所判断がつかない。
「ちなみにポーションはいくらですか?」
「金貨1枚じゃ。買うのか?」
「いえ、すいません手持ちが無いので、今は買う事が出来ません。」
「そうか。まぁええわ・・・ちょっと待ってろ。」
おばあちゃんはそう言い残すと、ハイポーションを元の棚に戻し奥へと消えていった。なんだかせわしない感じだが、まだ聞きたい事もあったので待ってみる事にした。
ポーションが金貨1枚になるならば、手持ちのポーションや肉類なんかを売り捌けば金貨32枚は集められそうだ。そうなれば案外早くにハイポーションを手に入れる事が出来るかもしれないなと、内心ほくそ笑んでいた。
しばらくすると、おばあちゃんが湯呑のような物を手にして戻ってきた。
「ほれ、まぁ座らんか。」
「あっすいません。頂きます。」
おばあちゃんが手にしていたのはお茶の様で、手渡され近くの椅子を勧められたので腰を下ろした。
「ズズズ・・・そんであてはあるのか?」
「えっと、お金ですか?」
「そうじゃ。稼ぐ手段や何か売ったり出来る物はあるのか?」
どうやら相談に乗ってくれる様なので、さっき考えていたポーションを売れないか聞いてみる事にした。
「これ、買い取ってもらえないですかね?」
敬太は背中のハードシェルバックからポーションを取り出して、目の前に置いた。
「ポーションの買い取りか。すまんが個人で買取してはいけない決まりになっとるんじゃ。『薬師ギルド』に行って会員になればギルドが買い取ってくれるのじゃが。お前さん『錬金術』のレベルはいくつじゃ?」
「『錬金術』っていうのは覚えてません。」
「そうか・・・。それじゃ買い取りも販売も出来んな。」
なるほどポーションという薬は「薬師ギルド」って所に、しっかり守られていて個人で売買出来ないようになっている様だ。
一つ目のあてが大きくハズレ、少しがっかりしてしまった。
「それなら、これを買い取ってくれるような場所はありますか?」
気落ちしている場合ではないので、次のあてであるハムを取り出した。
「これは?・・・何かの肉かな?」
「豚の塩漬けです。」
「なるほどのう。聞いた事ない物じゃが、これを売るなら冒険者ギルド・・・いや商人ギルドになるかのう。」
「商人ギルドですか?」
話を聞くと、商売をする時に関わってくるのが商人ギルドで、そこならば買い取り、もしくは販売許可が得られるらしい。中世ヨーロッパの様な街並みなのに、この辺は日本と変わらないぐらいしっかり管理しているようで感心した。
なかなか面倒だがお金を稼ぐ為ならば仕方がない。
とりあえず薬屋のおばあちゃんに、商人ギルドがある場所を聞いて、お礼にハムを渡して店を後にした。
「ありがとうございました。」
「な~に、また寄ったらええ。」
薬屋に入った時は、せわしないおばあちゃんだなっと思ったが、お茶を出してくれて親身に話を聞いてくれた。
異世界に来て初めての街で分からない事ばかりで、少し緊張していた敬太だったが、どこの世界にも世話好きおばあちゃんがいる様でホッとした気持ちになれた。
薬屋から移動し、街の中心部辺りに来ると、開けた広場のような場所があった。広場脇には出店が何軒も出ており、辺りには香ばしい匂いが漂っている。匂いに釣られ出店を覗くと、何かの肉の串焼きとか、飲み物屋みたいなのがあって面白そうだった。
異世界のお金を手に入れたら、少し飲み食いしてみたいものだ。
街の中心部から少し行くと、看板に「商人 公会」と書かれた、これまた石造りの大きな建物があった。3階建てで周りより頭一つ高く、威圧感がある。
中に入ると日本の銀行を思わせる作りで、整然としていた。
見ると空いているカウンターがあったので、早速話しかけてみた。
「すいません。買い取りか販売許可が欲しいのですが。」
「はい、では会員カードを提示して下さい。」
「あっ会員では無いのですが・・・。」
「そうですか、それでは会員登録が先になりますが、よろしいですか?」
「え~っと。その・・・お金を持っていないのですが大丈夫ですか?」
「・・・会員登録には金貨1枚が必要になります。無ければお引き取りを。」
「あ、え・・・そこをなんとか・・・。」
「またのお越しを。」
金無しには用がねぇとばかりに取り付く島もなく、追い返されてしまった。
異世界人はダンジョンに住んでいるモーブ達しか知らなかったので、食べ物で釣ればなんとかなると思っていた。だが実際に来て見ると、なかなか手ごわく、早くも素早く現金化する策が尽きてしまった。
物を売るには許可が必要で、許可を取るにはお金が必要。世知辛い世界だな。
あちこちブラブラとほっつき歩いていたので、既に日は傾き始めてしまっていた。考えて来ていた金策があれよあれよと潰されてしまい、ちょっと落ち込む。このままでは思ったよりもお金を集めるのに時間がかかりそうだ。
とりあえず冒険者ギルドで受けた依頼でもこなしてみて、はした金でも集めましょうかね。1回ぐらいやってみようかなっと軽い気持ちで依頼を受けていたが、まさか金策の当てが全て外れて、冒険者ギルド金策がメインとなるとは思っていなかったよ。
依頼をこなす為にトボトボと街の北側に進んで行くと、あちこちから金属を叩く音がカンカンキンキン鳴っていて、工場地帯のような雰囲気になっていた。
人々の話し声の喧騒が遠ざかり、代わりに作業する音が辺りに響き渡る。この街の北側は金属加工をしている場所が集まっているようだった。
そんな中をしばらく歩き続けると、マシュハドの街の北門が見えてきた。既に辺りは茜色に染まっていたが、門番には何も言われなかった。入って行くのにはお金を取るが、出ていく分には自由らしい。
街の門から外に出て20分ぐらい歩くと、すでに辺りは暗くなっていた。なので軽く周りを見渡して人目が無いか確認してから、ずっと1日ハードシェルバックに入っていたゴルを出してあげた。
「ニャー。」
「ごめんごめん。」
ゴルベ種という猫のような生き物で、敬太の契約獣のゴルだ。
このゴルベ種というのが珍しいらしく、また人気もあり、下手したら攫われる恐れもあるらしいので、万が一の為にゴルにはハードシェルバックに隠れていて貰っていたのだ。
外の出たゴルはぐい~っと伸びをした後、甘える様に敬太の足に絡まって来た。
「はいはい、悪かったね。」
「ニャーン。」
敬太は足元のゴルを抱え上げ、よしよしと頭を撫でると、幸せそうに目を瞑って体を預けてくる。しばらく撫で続けていると、満足したのかプルプルと頭を振って敬太の腕から飛び降りていった。
「ゴル、行くよ。」
「ニャー。」
声をかけてやると敬太の顔を見上げ返事をしてきたので、移動を再開する事にした。
ゴルは赤ちゃんの時から育てているが、今やすっかり大きくなって立派な体になっていて、敬太が全力で走ろうが余裕で付いて来れるようになっていた。まったく頼もしく育ったものだ。
さて、辺りは暗くなってしまったが、スキル「梟の目」を持つ敬太には問題が無い。
スキル「梟の目」は暗闇の中でも見通せる、正にフクロウの目。色味は薄れ白黒にしか見えないが何処に何があるか暗闇の中でもはっきりと捉える事が出来きるのだ。
えっほえっほ、と15分ぐらい闇夜を走ると、目的地のアイン鉱山の麓の森に着いた。冒険者ギルドにいた代読少年の話によると、この森に薬草が生えているらしい。
早速、下に生えている草に片っ端から「鑑定」をかけていき薬草を探す。だが依頼で出ているぐらいなので、そう簡単に見つける事は出来なかった。
ガサゴソとしばらく進んで、森の奥に入っていくと、ようやく薬草を1本見つける事が出来た。
「は~、やっと見つけられた。」
「ニャー。」
これを20本探し出すと大銅貨4枚になるのだが、真面目に探していたのでは時間がかかってしょうがない。なので少し「ズル」をしようと思う。
「亜空間庫」
敬太が必死で貯めた10億円使って手に入れた空間魔法。亜空間に繋ぎ、物を出し入れ、管理する事が出来る。要するに無限収納だ。
「ゴーさん。偵察部隊。」
ゴーレムを大量生産し続けた結果、土魔法の「土玉」がLV4に上がっていて、土、石、鉄、銀と色々な素材のゴーレムを扱えるようになり、大きさ、形までも自由に変えられるようになっていた。何しろ異世界に来て「土玉」を覚えてから1日も欠かさずにゴーレムの核を作り出してきていたのだから、これぐらいは当然とも言えるだろう。
ストーンゴーレムを500体「偵察部隊」として「亜空間庫」から取り出す。その辺に落ちているような石ころに擬態しているストーンゴーレムなので、見つかりにくく偵察にはもってこいな奴等だ。
ポロポロポロと「亜空間庫」から拳大の石ころの様なストーンゴーレム達が足元に落ち、ワラワラ動き出し整列した。
「ゴーさん。これと同じ物を探して取ってきて欲しい。」
ゴーレム部隊の総大将。バングルに擬態し敬太の手首に巻きついている、ひとりだけ名前が付いているゴーさんに、さっき取れた薬草を見せ指示を出すと、足元に整列していた石ころストーンゴーレムがワラワラと一斉に森の中に散らばって行った。
バングルに擬態しているゴーさんを見ると、いつものようにシュタっと敬礼ポーズを決めている。
良し、後は放っておけば薬草を集めてくれるだろう。
敬太はもう仕事は済んだという感じで、野営の準備に取り掛かる。
「よいしょっと。」
ズンと軽く地響きをさせ「亜空間庫」から取り出されたのは、迷彩色に染められたコンテナハウスだ。250cm×250cm×600cm長方形の箱型で、鋼鉄で出来たコンテナの部屋だ。中は特注で作ってもらいベットにテーブル、冷暖房も完備していて居心地は抜群だ。
「さて、中に入るよ。」
「ニャー。」
野営の準備が終わったので、ゴルに声をかけコンテナハウスの中に入る。
ご飯を食べて、ゆっくり寝て明日に備えましょうかね。
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