第38話 DIY
ダンジョン内にぽつりと置かれたダイニングテーブルにみんなで座り、しばらく休憩していると子供体の目がトロ~ンとしてきていた。
お腹いっぱいご飯を食べて、シャワーを浴びて綺麗になって、新しい服を着て、きっと今までに体験した事が無かった様な事の連続で疲れてしまったのだろう。
敬太はタブレットを使い、ウレタンボード、布団セットをポチって外に出した。
運び出したウレタンボードを地面に敷いて、その上に布団を敷く。とりあえずはこれで十分だろう。
舟を漕ぎ始めた子供達を抱え、布団に寝かせていく。
「モーブは大丈夫ですか?」
実は敬太も夜通し運転していたのが効いてきていて、眠くなってきてしまっていたのでモーブにも聞いてみた。
「わしは大丈夫じゃ。」
モーブも夜通し起きていたはずなのに、こう言う事には慣れているのか平然としていた。
敬太が異世界に来てから今まで、このダンジョンに人が来た事はないのだが、昨日倒した追っ手の件もあるので、安心は出来ない。なのでなるべく早くダンジョンの入口に門を作ってしまいたい。
今、休む訳にはいかないか・・・。
「この辺りはモンスターが湧き出る事は無いのですが、万が一に備えモーブは子供達を見てやっていて下さい。」
「うむ。ケイタはどうするのじゃ?」
「私は、ゴーレム達とダンジョンの入口を塞いで来ます。」
敬太は改札部屋に戻り、装備を整えウエストポーチからポーションを取り出して一気に飲み干した。
「くぅうううう。」
体の内側が熱くなり、眠気が吹き飛んだ。
相変わらずポーションの効き目はぶっ飛んでいる。
外に出てモーブにもポーションを1本渡し、軽トラの荷台に水とか食料がある事を伝え、ダンジョンの入口に向かった。
ダンジョンの入口にはゴーさん達がたむろしていて、ネットショップで買った資材を綺麗に積み上げていた。
「ゴーさん。5体で表を見張っていてくれない?」
ゴーさんに向かいお願いすると、クリンと振り向きシュタっと敬礼ポーズをした。
それから5体の石ゴーレムが表に向かってテコテコ歩いて行った。
ここまで追っ手が追いかけてきて襲ってくる可能性は低いだろうが、念の為だ。
改めてダンジョンの入口を見る。大きさは高さ幅、共に2mぐらい、余裕で軽トラが出入りできる大きさだ。
そしたらここに嵌み込む形で、門の様な両開きの扉を作ろう。本当は鉄製の門が欲しかったのだが、ネットショップでは見つけられなかったので、その代わりと言っちゃなんだが門に使う木材は15cm角の家の柱に使う太い奴を買って用意してある。
まずは地面を50cmぐらい堀り土台作りをする。
柱2本分、30cmの幅で一直線。
門を作る予定の場所をゴーさん達にも伝え、手伝ってもらいながら手早く穴を掘って行く。
一方ではモルタルを大量に作ってもらうようにゴーさん達に指示を出す。こういう時に手が沢山あると便利だ。
土玉のレベルが上がったからなのか、大抵の事はやって見せて指示をすれば、こなしてくれるようになっていたのでゴーレム達は大活躍だ。
道具は通路を拡張する時に数は揃えてあるので、4体のゴーレムが並んで穴を掘り、5体のゴーレムでモルタルを混ぜ、残っている者は水を汲みに行ったり、足らない道具を取りに行ったりと雑用をさせ、ゴーさん達と総がかりで作業を進めていく。
次に敬太はゴーさん達では出来ない細かい作業に取り掛かる。
寸法を測り、木の柱で枠組みを作るのだが、ほぞ継ぎにする為にまず柱が合わさるところに細工をしていく。ノミで穴を掘り、もう一方には穴に合う様なほぞと言う突起を作る。凹凸を組み合わせる事によって釘で繋ぎ合わせるより強度が出る、昔ながらの技法だ。
そこまで詳しい訳ではないので、もっと難しい形にして強度を上げる宮大工の様な事は出来ないが、素人なりに考えて出来る範囲で作っていく。
ハンマーを振りノミで穴を掘る。丸ノコを使い簡単なほぞを作る。横にする柱には穴を、縦に使う柱にはほぞを、それぞれ細工していく。
敬太が細かい作業を黙々とこなしていると、ゴーさんがじっと見つめているのに気が付いた。
何かあったのかと顔を上げ辺りを伺ったが、何も起きてはおらず他のゴーレム達は黙々と働いていた。
「どうしたの?」
ゴーさんに話しかけてみたが、これといった反応は無く敬太の手元を見つめている。
それで、もしかしたら作業を覚えようと見ているのかもしれないと思いつき、それならばとゴーさんは放っておいて作業を続ける事にした。
しばらくすると、穴掘り班が終わったようだ。
穴を見に行くと敬太が言った通りに掘れていて、いつでもモルタルを流し込める状態になっていた。
そこでモルタル作り班の方を見るとシュタっと敬礼ポーズをしてきたので、こちらも既に完成しているようだった。
「よし、んじゃモルタル班お願いします~。」
敬太が号令を出すと、ゴーレム達が揃って敬礼ポーズをして、モルタルを作ったバケツを次々に運んで掘った穴に流し込んでいった。
その間にモルタルにアンカーボルトを突っ込み固まるまで固定させる為の、簡易枠を作る。
角材に50cm間隔で印を付けて、電動ドライバーにドリルを付けて穴を開ける。その穴にアンカーボルトを通して完成。これでモルタルにアンカーボルトを突っ込んでも曲がって固定されることは無く、50cm幅でアイスの棒の様に真っ直ぐと刺さってくれるはずだ。
角材の簡易枠を作り終えた頃には、作ったモルタルを全て投入し終わっていた。
新しい角材を持ってきて、モルタルの中に突っ込み、お風呂で攪拌するように流し込んだモルタルをかき混ぜる。それから上辺を軽く均し、アンカーボルトを突っ込み簡易枠を固定させれば完了だ。
後はモルタルが固まるまで放っておけばいい。
これが家で言うところの基礎部分になるのだ。
さて次の作業だ。
両開き扉の大きさに厚さ28mmのコンパネ(正確に言えば構造用合板)を切りだし、そこに鉄板を付けていく。
本当は1枚の大きな鉄板が欲しかったのだがこれもネットショップでは売っていなかったので、妥協策として小さな鉄板をコンパネに張り付ける方法にした。
300mm×300mm厚さ6mmの鉄板の際に、電動ドライバーのドリルで穴を開けて、それをビスでコンパネに止めていく。
この鉄板は1枚当たり約1kgあり、厚さ6mmってのはBBQに使う鉄板ぐらいの厚みがあるので、穴を開けるのも一苦労だ。
鉄板を1枚取り付け終わると、ゴーさんがシュタっと敬礼ポーズをして敬太の前に出てきた。なので試しに電動ドライバーをゴーさんに渡すと、敬太がやった様に鉄板に穴を開け始めたので、ここはゴーさんに任せる事にした。覚えが早くてありがたい。
鉄板に穴を開けるのに電動ドライバーじゃチカラ不足を感じたので、ちゃんとしたドリルを買ってくると、穴開けするゴーレムとビス止めするゴーレムに分かれて、分担作業を始めたので驚いた。中々頭が良いのかもしれない。
ちなみにゴーレム達が道具を持つ時は、丸い手に道具を埋め込むようにして固定し使っていた。手が丸く指が無いので握って持つ事は出来ないのだが、中々器用に扱っている。
次は、木の柱の枠組みの細工が終わったので、扉作りに入る。
扉は、コンパネ、木の柱、コンパネ、木の柱、コンパネ、のサンドイッチ型にしようかと思う。
これも分厚い木の板がネットショップでは売られていなかったので苦肉の策だ。
並べた木の柱にコンパネを打ち付ける形で作り始めたが、途中で木の柱と木の柱をくっつけるのにビスでは長さ的に無理なのに気が付き、ボルトと電動ドライバーとドリルの刃先を買い足して来た。
ゴーさん達にも手伝ってもらいながら、ようやく扉を作り終えた。
完成して見ると扉の厚みは40cmぐらいになっており、当初の予定よりも分厚くなってしまった。
「ちょっと休憩・・・。」
なんだかんだ突貫でやって来たが、敬太は疲れ果て、外はとっくに日が落ち暗くなっていて、晩飯の時間になっていた。なので、ここはひとつ休憩がてらモーブ達の元に戻ってみる事にした。
改札部屋の前まで戻ってみると、子供達が元気にゴルと遊んでいた。
「あ~ゴルベのおっちゃんだ。」
「おっちゃんだ~。」
「ご飯は食べましたか?」
「うむ。そろそろ食べようかと思っていたところじゃ。」
モーブも出迎えて来てくれ、敬太が戻るまで待っていてくれた感じもあったので、そのままみんなで晩飯となった。
敬太が何を食べたいかモーブ達にリクエストを聞いてみたが返って来た答えは「なんでもいい」との事だったので、独断と偏見により牛丼にする事にした。
生卵にお新香、豚汁の豪華セットだ。デリバリーを使い人数分注文する。
ゴルの器も外に持ってきて全員揃って食べる事にした。
みんなにはスプーンを配り、リンゴジュースとオレンジジュースも持ってきた。
準備が整ったのでいざ食べ始めようとすると、思った通り見慣れない食べ物にモーブ達が戸惑っていた。なので、昼と同じように見本として牛丼の食べ方を見せると、見よう見真似で手を付け始め、美味しいと分かるとがっつき始めた。
「おかわりもあるから、ゆっくり食べてね。」
敬太の言葉を聞いてるのか聞いてないのか、お米だろうと何だろう気にした様子は無く綺麗に平らげていた。
「美味しかった~。」
「お腹苦しい。」
「ミャー。」
子供達は毎度の様にお腹を一杯にして転がっている。幸せそうでなによりだ。
敬太とモーブは食後のお茶を飲み、食休憩をしながらそんな子供達の様子を眺めていた。
「モンスターとか大丈夫でしたか?」
「うむ。ダンジョンだと身構えていたのじゃが、1匹も見かけなかったわい。まったく不思議なダンジョンじゃな。」
敬太が罠を仕掛けているので、モンスターが漏れ出してくる事は無いのだろうが、確認の為モーブに尋ねてみたが、思った通り何も無かった様だ。
「そうなると、今は追っ手の対策ですかね。」
「うむ。そっちの方もあったのう。」
「はい。もう一息で完成するんで、それまでですよ。」
「うむ。それはありがたい事じゃ。」
疲れた体に鞭を打ち、やっとの思いで椅子から立ち上がる。
ダンジョンの入口に門を作る事は最優先だ。それが出来ない限り眠れない日々が続いてしまう。
「それじゃ、こっちはお願いしますね。」
「うむ。済まないな。」
ダンジョンの入口に戻り、門作りの作業を続ける。
枠と扉は出来ているので、後は組み立てれば完成だ。
時間が経ち、すっかり固まったモルタルの基礎から簡易枠を外し、そこに土台になる木の柱を嵌め込む。アンカーボルトをしっかり締め、木の枠を立ち上げていく。
「あっ・・・。」
ここで気が付く。木の柱の枠の上の部分を嵌め込む作業をする隙間が無い。
通路の高さ一杯に、枠を作ってしまった。失敗だ。見るとやるとは大違いだな。
「ゴーさん。手伝って・・・。」
ゴーさん達に手伝ってもらいながら通路の上部分を削って、柱を嵌め込む作業が出来るスペースを作る。
結局20cm~30cmぐらい上を削り、ようやく上の枠を嵌め込むことが出来た。慣れない事はするもんじゃないね。
さて、これで後は扉を付ければ完成なのだが、門の強度を出す為に、立ち上げた枠の柱をセメントレンガで挟み込み動かないようにしたい。要するに通路の側面をセメントレンガの壁にして、門を埋め込む形にするのだ。
ここでもゴーさん達にやり方を教え手伝ってもらう。
セメントレンガを置いて、平衡を取って、モルタルを置く。単調な作業の繰り返しだ。難しい事は無い。
時間をかけて木の柱の枠の前後3mをセメントレンガの壁にして、セメントレンガの壁の中に木の枠が埋め込まれているような感じにした。
削った上の部分にもセメントレンガを積んで、隙間にはモルタルを詰め込み、通路と門が一体になるようにする。
それから木の柱の枠に蝶番を付けて、そこに作っておいた扉を嵌め込めば門になる。
最後に閂のフックを取り付けて、見張りに出していたゴーレム達をダンジョンの中に戻し、閂をかければ終了だ。
「あー疲れた。」
ゆうに30時間以上起き続けていたので、改札部屋に戻り、モーブに終わった事を告げると、すぐにベッドにダイブした。
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