第6話

 一度体制を立て直した一行は、再び霧の中を歩いていた。シャドウを探し、深い霧の中を彷徨い歩くうち、レヴォルがぽそりと呟く。


「シャドウ・エクス……。僕たちで本当に救えるんだろうか」


 それを聞いた一行はさらに沈んだ空気に飲まれる。いつもは倒すのにさほど苦労をしない初めの戦闘でも、彼は圧倒的な余裕を見せつけていた。そんな彼がこれからシャドウとしてどんどん力をつけていったとして、本当に自分たちは彼に勝って『救済の結末』を与えることができるんだろうか。


「『できるかできないか』ではありません。やらないといけなんです、シェインたちは。エクスさんを救わなくてはいけないんです。何としてでも……」

「そうよ。エクスを、あの変なところで意地っ張りの頑固野郎を絶対に連れ戻さなきゃいけないの。タオのときはただ待ってることしか出来なかったけど、今はエクスを追いかけて行く術も力もあるんだから」


 絶対に諦めないの、とレイナは強い決意を宿した眼差しで伝える。どんな困難に直面しても、最後まで諦めない。それはエクスが教えてくれたことだった。

 と、さっきまでのシリアスな空気とは打って変わって空気を読むという芸当をしないエレナがレイナに話しかける。


「ねえねえ、レイナちゃん。シャドウ・エクスはレイナちゃんに『いくら君のお願いでも……』とか『キスしてくれたら……』とか言ってたけど、二人は恋人同士なの?」

「その……キス、とか……するような間柄なんですか?」

「ふぇっ?」

「あ、それ、シェインも気になってました。エクスさんったらいつの間に、あんなことさらっと言えるようになったんですか?」

「しぇ、シェインまで……?」

「伝説の、調律の巫女の恋人……っ⁉ 何それ何それ、聞いたことなーいっ!」

「当たり前だ。いくら伝説とはいえ、恋愛だとか細かい日常的なことまで記すのはプライバシーの侵害だろ」

「私もカーリーたちからあまり聞いたことがないな……」


 年下組に続き、旧知の仲のシェイン、果てはフォルテム学院の生徒と教師というその場の全員の注目を一身に集めるレイナ。そういえば昔も、よくこういうネタでからかわれていたと思い出し、頭が痛くなる。


「まず、私とエクスはそういう関係じゃないわ」

「ええっ⁉ 百年も経つのにまだ何も進展してないんですか⁉」

「ババア、ちょっと黙っとけ」


 だって百年前も同じようなことやってましたよ、とシェインが不満そうにレイナを指差す。レイナは目を逸らして口笛を吹く真似をした。


「えーと、『いくら君のお願いでも……』っていうのはきっとアレね。エクスは私のこと、恩人だと思ってるらしいから」

「恩人?」

「ああ、そういえば『レイナにはたくさんの恩があるからね』とか言ってましたねぇ、あの人」


 それは初耳だったようで、レイナはへぇと興味を示す。シェインは「それだけじゃないと思いますがね……」と呟くが、それはエレナの次の質問でかき消されてしまう。


「じゃあ『キスしてくれたら……』っていうのは? もともとそういう冗談言う人なの?」

「いえ、あの人はそういう系、疎いですし。前に姉御が全力でエクスさんに迫ったときも、ギリギリだったみたいですがかわしてましたし」


 レイナがエクスに迫ったという衝撃発言を聞き、一行は一斉にレイナを見る。と、レイナは顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていた。


「誤解を生むような言い方をしないで! アレは惚れ薬のせいで……っ!」

「おや? あの時のこと、姉御は記憶がないんじゃ……?」

「……っ⁉」


 『してやられた』『してやった』という表情の二人を横に、レヴォルたちがひそひそ話を始める。


「なんか……あの人がシェインさんにポンコツって言われる理由分かったかもしれない……」


 その場の全員がレヴォルの言葉に頷いた。

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